花はなぜ咲くのでしょう? あなた一途な花と、八方美人の花|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」⑧
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世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。今回は、植物が昆虫と共進化してきた道のりについて二宮さんと一緒に考えてみましょう。
目次
植物の進化(変化)のおさらい

photo by 二宮孝嗣 縄文杉
植物は長い進化の過程でより確実に、より安全に、より多くの強い子孫を残すように進化(変化)してきました。
海の中で光合成が始まって、水中から陸上に上がってきた植物は、苔のようにオス、メスが分かれていない無性生殖から、シダ植物のように雄器官と雌器官ができて有性生殖を始めるようになりました。
その後、植物はより広い世界を求めて水辺を離れて種子植物となり、乾燥した土地へも分布を広げました。種子植物の始まりは裸子植物で、維管束と呼ばれる通道組織を作り、根から吸い上げた水分をより高いところまで上げられる様になり、シダ植物の上に枝葉を広げて太陽の光を独り占めするようになりました。
裸子植物の後、より安全な「花」という器官を持った被子植物になりますが、その頃にはまだ、植物と昆虫類や鳥類との共進化が始まっておらず、植物は風を利用して花粉を運んでもらい受精する風媒花でした。
被子植物は双子葉植物から始まり、そこから単子葉植物が現れたとのことです。
効率の良い受粉への進化

その後、地球上に蔓延り(はびこり)出した昆虫を利用する賢い植物が現れ、それまで風まかせで非効率だった花粉の分散をより効率化しました。
昆虫に来てもらうためにはまず目を引くこと=綺麗な花、美味しくカロリーの高いエネルギー源=蜜、花粉、昆虫を魅了する良い(?)香り、あるいは自分自身の美味しい葉っぱ、これらを植物は用意し始めるのですが、昆虫たちにむやみやたらに来てもらっても、雌しべに花粉が受精しなくてはいけないのでどの様にしたら効率がいいのか色々考えました。
昆虫や鳥類と共進化した植物たち
双子葉植物ではバラ科やキク科、単子葉植物ではアヤメ科やユリ科、ラン科などが代表的で、皆花の綺麗なものばかりです。形成層を持った双子葉植物はどんどん大きくなる植物へと進化していきました。
昆虫と共進化してきた植物の中には、片方では訪花してくれる昆虫や鳥類を決めてその口の形に合わせて花の形を調整して他の昆虫や鳥類には蜜や花粉を与えないもの(あなた一途タイプ)と、とにかく誰でもいいので花に来てもらって受粉するもの(八方美人タイプ)や、その中間タイプがあります。
あなた一途タイプ

例えば百合の花は「あなた一途タイプ」で、長い口吻を持ったアゲハ蝶の仲間にしか蜜を与えません。ミツバチが百合の花に誘われて雄しべを無視して花に潜り込んでも花の元が狭くて硬いので口吻の短いミツバチは蜜まで届きません。逆にアゲハ蝶はちょうどぶらぶらしている雄しべの先端と伸ばした口吻が同じ長さなので、雌しべの柱頭に花粉がつく様にできています。

単子葉植物の中で一番進化していると言われるラン科の花は、あの大きく開いた花びらに花粉媒介者が抱きついて真ん中の花びらの中に頭を突っ込んで蜜をいただく様です。その時に、柱頭の裏側にある二個にまとまった花粉塊(かふんかい)が媒介者にくっついて、そのまま次の花を訪れてもらうというわけです。でも、特定の蛾を相手にしているようなので、なかなか花に来てもらえません。なのでラン科の花は長く咲いているのかもしれません。
八方美人タイプ

一方「八方美人タイプ」の花の代表は、双子葉植物の進化の最先端を行くと言われているキク科の植物です。タンポポやヒマワリの花を思い出していただけるとわかりやすいです。多くの小さい花の集合体で周りの花だけ花びらを持って昆虫を呼び、花の中のほとんどの小さい筒状の花は花びらを持っていません。とにかく甲虫でも蜂でも誰でもいいので花の上を歩き回ってくれさえすれば、雄しべと雌しべがいっぱいなので自然と受粉してしまいます。このように花の中で役割分担をしていることでキク科は進化していると思っています。
単子葉植物の最先端がラン科で「あなた一途タイプ」、双子葉植物の最先端がキク科でこちらは「八方美人タイプ」、そして両者とも世界中に分布を広げているのはとても興味深くはありませんか? 両極端ですが共に生き残り戦術としては大成功なのでしょう!
植物の進化(変化)の歴史と疑問点
話は戻りますが「双子葉植物から単子葉植物が進化した」ということは、僕には逆に思えて仕方ありません。双子葉植物の方が形成層を持って高木にもなれるので単子葉植物より生き残り戦術では有利な様な気がしますが、いかがでしょう? また、ある日突然単子葉植物が出現したのはどうしてなのでしょうか? あまりにも違う仕組みの両者なので一体何がそうさせたのでしょうか? これを大進化という人もいます。

photo by 二宮孝嗣 ニュージーランドで唯一残った「カウリ」の木。高さ50m 直径5メートル以上、シダから進化したシダの様な葉を持つ古い針葉樹です。
また、昆虫と植物との共進化はとても大事で、ニュージーランドがパンゲア大陸から分離した時には植物は乗っていったのですが、昆虫はまだ地球上にいなかったのでしょう。ニュージーランドには現在でもほとんど昆虫がいないので、自生の植物に花の綺麗な虫媒花の植物はほとんどありません。
花の色と昆虫、鳥の関係
色の話をすると、昼間活動する多くの昆虫は白い花の一部と赤は見えにくい様なので、夜咲く白い花は夜活動する蛾を相手にしているものも多いみたいです。昆虫は緑も見えない様ですが紫外線は見えるので、白い花や他の色の花も紫外線に反応して怪しく光り輝き、我々とは全く違う色の世界で生きているようです。
鳥は赤は見える様なのですが、他の色は不得意の様なのです。世界の多くの赤い花はハチドリ(ミツスイ)の仲間やインコの仲間、その他小型の鳥たちを相手に共進化してきました。果実が熟すと赤くなって美味しくなるので、鳥に食べてもらって中の種をどこかに運んでいってほしいからです。日本で春先に渡ってきて赤い椿の花の中に頭を突っ込んで蜜を吸うメジロに、花粉を運んでもらう両者の関係は有名です。
長くなりすぎてすいません。毎回言いますが、僕が書いていることで間違っていることも多々あると思いますので疑問点はご自分でお調べください。
次回は、植物の生育における「天上天下唯我独尊タイプ」と「日和見(ひよりみ)タイプ」の話をしたいと思います。ご興味があればまたご一読ください。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら

二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダット)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞獲得した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技師、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。








































