「お正月・縁起・鬼門」と「植物」|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」⑦
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photo by 二宮孝嗣 河口湖の上の富士山
世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。今回は「お正月・縁起・鬼門」と「植物」の関係について、二宮さんと一緒に考えてみましょう。
お正月に門松を飾る理由

photo by 二宮孝嗣 門松づくり
年が改まる正月には新しい歳神様をお迎えするために、本年中に掃除をしたり、おせち料理を用意したり門松を飾ったりします。門松といえば、以前は12月13日に山へ松を取りに行くことを松迎えと言いました。門松は28日か30日に飾るのが良いとされていますが、13日以降なら29日(二重苦)と31日(一夜飾り)以外はいつでも良いようです。
また、門松は元日に新しい歳神様を迎える目印になります。これは松が家の中の邪気払い、厄払いをしてくれる縁起の良い植物なので、歳神様が安心して家の中に入ってきてくれるからです。そして家の入り口にしめ縄を飾れば、そこからは結界の中になるので邪気は入って来られず、歳神様が安心して入って来て滞在してくれます。
魔除けになる植物は?

Adobe stock 大王松
邪気や魔物は「常緑のもの」や「尖った物」には弱いみたいなので、大王松、松、柊、西洋柊(クリスマスホーリー)、柊南天などを嫌います。ヨーロッパでも柊は魔除けとして玄関に植えられたり、飾られたりしています。イギリスでは西洋柊の他に庭に紅花山査子(ベニバナサンザシ)、生垣に山査子や常緑の一位(イチイ)などがよく使われています。常緑の柘植(ツゲ)や金木犀も魔除けになり、金木犀については香りも邪気払いとなります。
室内で育てる植物であれば、観葉植物のサンスベリア、ドラセナ、ガジュマル、これらの植物は魔除けと邪気払いに効果があると言われてきました。
寄せ植えに使う松竹梅の意味

photo by 二宮孝嗣 門松花壇
最近はずいぶん減りましたが、松竹梅の寄せ植えもよく正月に飾られていました。寄せ植えの松竹梅は、松は常緑で尖っていて、竹も常緑でまっすぐ伸びる縁起の良い植物で、梅は寒さにも負けずに良い香りの花で邪気を追い払ってくれると言われています。
赤は魔除けの色

万両
常緑で赤い実を付ける位の高い植物といえば、古くから栽培されてきた万年青(オモト)、棘を持ち赤い実の一両(アリドオシ)、十両(ヤブコウジ)、百両(カラタチバナ)、千両、万両などがあり、また、縁起物として赤い実を付ける南天、クロガネモチなどがあります。
昔から赤い色は魔除けの色です。全ての活力の元の血液、また太陽の色でもあるからです。神社の鳥居が赤いのもそこから先は結界の中という意味を表しています。
鬼門封じに役立つ植物たち

柊(ヒイラギ)
魔除けになる様々な植物を紹介してきましたが、これらの植物は、家を建てたときに鬼門封じ(除け)をしてくれます。鬼門とは災いがやってくる方角で、家の中心から表鬼門として北東、裏鬼門として南西を指します。方角は日本の場所によって違うので、お昼の12時に真っ直ぐ棒を立ててその影の示す方向が真北にあたります。
日本の家は東から南、西に玄関のある家が多いのですが、たまに北口や北東に玄関がある家があります。こういった家はできれは確実に鬼門封じ(除け)をするとよいと思います。北東には柊や南天、柊南天、西洋柊などが最適です。他の植物ではちょっと弱いかもしれません。裏鬼門(南西)には金木犀、万両、千両、十両(ヤブコウジ)、万年青(オモト)などがおすすめです。室内なら、表鬼門にサンスベリア、裏鬼門にはドラセナ、ガジュマルなどがおすすめです。いずれも、一番大事なことは、自分が鬼門除け(封じ)で植えたと信じることです。枯れたらまた新しい植物を植えておきましょう。
古くから大切にされてきた鬼門封じ
昔は、鬼門除け(封じ)はとても大事なことで、例えば京都では御所から見て鬼門の方角には修学院離宮、比叡山があり、裏鬼門には二条城、桂離宮があります。京都はまた鴨川と桂川で両側から挟んで結界を作っているので、長く京都が日本の中心でいられたわけです。
江戸に移っても、江戸城から見て表鬼門には上野の寛永寺、浅草寺があり南西には増上寺、日枝神社があります。こうして日本の中心の御所、江戸城、皇居は守られていたのです。今では東北新幹線も東京駅までつながっていますが、最初は上野が始発駅でした。常磐線や東北本線が上野始発だったのも東京の鬼門を守る寛永寺のある上野の丘が東京への入り口でした。この考えがあったのではないでしょうか?

photo by 二宮孝嗣 野の仏
今回はちょっと抹香臭かったかもしれませんが、日本の生き方には世界に類を見ない宗教感覚、神道、仏教、それぞれのベースになった道教、儒教などがありますので、ぜひ皆さんも一度植物と一緒に縄文時代からわれわれの遺伝子の中に染み込んだ日本人らしさを考えていただきたいと思います。
僕には、毎年お正月に思い出される歌(狂歌)があります。
『門松や 冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし』
室町時代 一休禅師の有名な歌です! 「無量寿」 日本人らしく 深いですね!
新しい年も より良い年を お迎えください。
次回のテーマは「花はなぜ咲くのか?」
植物の生き残り手法として、花には「あなた一途タイプ」と「八方美人タイプ」があります。一緒に植物の性格として「天上天下唯我独尊タイプ」と「日和見タイプ」があります。こんな話ができればいいかなと思います。次回も興味があればご高覧ください。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら

二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダット)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞獲得した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技師、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。









































