あの人の庭④ |神戸の住宅街で楽しむ、時間をかけた庭づくり
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「庭主さんが過ごしてきた時間や生活がにじみ出て、その人だけの庭になる。そこにたまらなく惹かれます」ーー。そう話すのは、神戸市西区の住宅街で庭づくりを楽しむ中本由紀さん。2024年には第3期LOVEGREENアンバサダーも務めてくださり、現在は地域の植物好きを増やす旗振り役としても活躍の場を広げています。
園芸店の子として育ち、オープンガーデンで重ねた素敵な出会い
「住宅街なので迷われたでしょう」と笑顔で出迎えてくれた中本さん。
確かに少し迷いましたが、植物好きのおうちというのは独特のオーラがあるもの。遠目に見えたパンジーの寄せ植えにピン!ときて近づいていくと、「NONTAN GARDEN」と書かれた看板を発見。中本さんの庭兼ワークショップを行うご自宅です。名前の由来は愛猫の「ノンタン」から。

ーーInstagramでも拝見しましたが、素敵なお庭ですね。植物にはいつ頃から興味を?
両親が園芸店を営んでいて、物心ついたころから植物があるのが当たり前の環境で育ちました。庭はもちろん、家の中も緑だらけ。逆に当たり前すぎて植物を特別に好きと意識することもなかったかもしれません。
改めて「あれ?」と感じたのは、結婚してマンションに住み始めた時です。家の中に植物がないことに物足りなさを感じて、鉢植えをいくつか置いたりしていました。ただ、当時は子育て期真っ最中だったこともあり、それほどガーデニングに時間を割くことができなかったですね。
転機は、庭のある戸建てに引っ越してから。近所にガーデニング好きの友人ができ、二人でオープンガーデンに出かけるようになりました。そこで出会った庭の数々に、一気に夢中になりました。
※オープンガーデン:個人や施設が丹精込めて育てた庭を期間限定で一般公開する活動。いろいろな人の庭を見学することができ、庭を通じた住民同士のコミュニケーションの場にもなっている。
庭には、その人の暮らしと時間がにじみ出る

ーーオープンガーデンの魅力は?
庭主さんそれぞれの個性が、庭にそのまま表れているのが面白いです。たとえば、タネから育てるナチュラルガーデン風の庭を作っている方がいて、本当に素敵で。私も自分だけのオリジナル庭づくりに挑戦したくなりました。
でも庭は、すぐに真似できるものではありません。植物を育てる時間も、庭全体の空気感を作る時間も必要です。そうして積み重ねられた暮らしの工夫や日々の営みが、庭に深みを与えてくれるのだと思います。
私がオープンガーデンで感動したのは、もちろん植栽や植物の美しさもありますが、根底には庭主さんが庭を育ててきた時間の積み重ねに心打たれたのではと感じています。時間をかけて育てた庭だからこそ、人は癒しや感動を感じるんだと思います。

淡いピンクのバラ「群舞」と白いバラ「群星」がコラボ咲きする様子はSNSでも大人気
ーーコスパやタイパ時代だからこそ、時間のかかる庭に惹かれる?
そうですね。庭のハード面は外構でぱっと作れるかもしれませんが、その人が丹精込めて育てた庭は、同じものがふたつとありません。
私は庭づくりで「完成した」と思うことはなくて、それよりも植えた植物が「将来こんな感じになっていくかな?」って想像している時間が好きなんです。未来を想像するのが庭の醍醐味というか。大体思ったとおりにいかないことのほうが多いんですが、そこも含めて楽しいです。

三毛猫のピノと白猫のノンタンもお庭が大好き
ーー庭の植栽で工夫しているポイントはありますか?
宿根草7割、一年草3割ぐらいの割合にすることで、あまり手間をかけずに季節感も楽しめる庭にしています。きっちり植えるのではなく、自然に広がるような植え方をしたり、木や石など天然のアクセントを取り入れると、ナチュラルで心地いい雰囲気になりますね。

季節の移ろいに合わせて、開花期がリレーのように入れ替わっていく植栽を意識
人も植物も、無理しない、無理をさせない関係が心地いい

ーー庭づくりをはじめて、ご自身に起きた変化はありますか?
人との関係も、植物との関係も、無理をしない・させない距離感を覚えたように思います。植物の場合、苗を植えてしばらくは管理しますが、自分で育ち始めたらアシストする程度に。右に枝を伸ばしてほしいと思うこともありますが、そこは植物の意思を尊重します(笑)。育つ主導権を植物にバトンタッチしていくのが、植物と対話しているようで楽しいですね。
ーーすべてを自分で完璧にコントロールしないということですね。
はい。人との付き合い方も同じです。「この人は少し繊細だから、山アジサイタイプかも」と考え、そっとしておいた方がいい時は距離をとります。すると、あるタイミングでその人の素敵な部分がぱっと現れてきます。自分の思い通りにしようとしても、うまくいかないことの方が多いので、互いに無理なコントロールはしないようにしています。これは植物を育てる中で学んだことですね。

ウッドバルコニーの窓枠からヤマボウシの新緑が顔を覗かせる。自然が描いた絵画のよう
植物仲間を増やしたい! 一念発起したワークショップ

--自宅サロンで植物のワークショップも開かれています。
大好きなオープンガーデンは、長年多くの方に大切に受け継がれてきた、とても素敵な文化です。その魅力に触れる中で、「この素敵な文化をこれからもつないでいきたい」と感じるようになり、勝手に使命感のようなものを持ってしまって(笑)。
それで、自宅で植物のワークショップを始めようと思ったのが2023年頃です。最初は友達を呼んで、ドライフラワーのブーケやリースなど、インテリア感覚のワークショップを試してみたのですが、みんなが「かわいい!」と感動してくれる姿に「植物ってやっぱりいいよね!」と確信を持ちました。
ーー自宅の隣家を購入して教室スペースにしているそうですね。
はじめは自宅のバルコニーで始める予定だったのですが、たまたまそのタイミングで隣の家の方が引っ越しされるということで、家の買い手を探されていたんです。そこで主人とも相談して、隣家を買い取ってワークショップスペースにすることにしました。

隣り合った家の庭は偶然にも高低差があり、図らずも立体的な庭になっている
ーーワークショップに参加される方はどういった方が多いですか?
はじめは「植物を育てたい」というより、インテリア感覚でリースやブーケ作りから入られる方が多いですね。ワークショップも、かご作りやワイヤーアート、モルタル造形などインテリア感覚でできるメニューを入り口にしています。
そのうちに、観葉植物に興味をもったり、多肉植物が好きになったり、寄せ植えにチャレンジされたりと、人それぞれに興味関心が広がっていくので、私は皆さんの様子を見ながら、「次はこんなのもありますよ」と寄り添ってナビゲートする感じです。
他にも、講師の方に来てもらって庭を見ながらピラティスをする日もあります。最終的に庭が好きな人が増えてくれればうれしいですが、入り口は広いほうがいいと思うので。

都市部の庭ならではの工夫が好き
ーー住宅街では庭のスペースも限られると思います。
私は逆にそこが面白いと感じています。里山の自然いっぱいの場所や、海外のような広大な庭園ではない、日本の都市部の住宅街だからこそ生まれる工夫があるし、それが日本ならではの園芸文化が生まれる土壌になっていると思います。

庭の一角に褐色の石を積んで花壇エリアに
オープンガーデンに行くと、都市部の住宅街という環境で、皆さん上手に工夫して庭を楽しまれています。高低差を出したり、オーナメントでアクセントをつけたり。そうしたアイデアひとつとっても、庭主さんの個性が出ていて面白いですよ。

高低差のある2つの庭をつなぐ石積みの階段

石積みにはわざと隙間を設けて、後からセダムなどを植えられるようしてある

家族総出でDIYしたレンガの小道
庭は雑念が消えて自分に戻れる場所

ーー最後に、中本さんにとって庭とはどういう場所ですか?
生活していると、いろいろなことがありますよね。思い詰めたり、クヨクヨしたり。そんな時、例えば庭で草抜きをしていると作業に没頭して雑念がなくなるというか……。気分がすっきりリセットされて、さあまた頑張ろうと思える。雑念から離れて自分を取り戻せる。私にとって庭はそういう場所です。

あとは、やっぱりオープンガーデンが大好きなので、いろいろな個性がある庭が増えて、交流が生まれ、庭を楽しむ文化が続いていく一助になれればいいなと思っています。
やっぱり園芸店の子なんですね。根っから植物が好きみたいです。
中本由紀さん プロフィール

兵庫県神戸市西区の住宅街で、庭づくりを楽しみながら、自宅サロンでワークショップも開催。ご夫婦と3人のお子さん、2匹の猫と暮らしている。ちなみに旦那さんも植物好きで、ビカクシダや塊根植物を愛好。夫婦で植物を置く場所を取り合う日々。






































