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誰かがノック|美村里江さんのムーミンコラム♯11

ミラノ・コルティナ冬季オリンピックからの熱気がそのままスライドしてきたのでしょうか。天皇陛下のお誕生日でもあらせられた2月23日、東京の青梅市では25.1℃の「夏日」を記録!

同市内では1月27日に -10.3℃を記録していて、1カ月内に35℃もの温度差……。南から暖かさを運んできた春一番(こちらは2年ぶりの観測)も、驚きながら吹き抜けていったことでしょう。

我が家の涼しい玄関でのんびり香っていたリューココリーネも、開花スピードを上げてしまいました。蕾の多いものを選んできたのですが、切り花は長持ちしにくい季節になってきますね。

リューココリーネ

透明感のある涼しげな花が、切り花としても人気があるリューココリーネ

とはいえ、今しばらくは三寒四温の日々。
ふいに訪れる寒の戻りには、気軽に使える日本発祥「インスタントカイロ」の貼るタイプが頼りになります。冬の野外撮影時、我々役者のマストアイテムでもあるカイロ。太い血管の通る首の下や脇や内腿など、20年いろいろと試した結果、私のイチオシは「イシマル貼り」です。

名前の由来は「世界の車窓から」の素敵な声でも有名な、俳優の石丸謙二郎さん。70歳でアルプス山脈のマッターホルン(4,478m)の登頂にも成功なさったアウトドアマンの石丸さん曰く、「両肩甲骨のちょっと下に、縦に2枚貼ると内臓からあったまるよ」と。
すぐにやってみたところ「確かに違う!」と驚き、以来イシマル貼りで背中に2枚、仙骨近辺に1枚、という3枚が私のカイロの基本布陣となっております。少ない枚数で温まるので、冷え込む日にぜひお試しください。

その他、じんわり熱が伝わってくる湯たんぽも重宝しますが(私はLAPUAN KANKURITのランマスを愛用しています)、寒さに震える時、人類が熱望するダントツNo.1は、「お風呂」と「サウナ」でしょう!
人口2〜3人に1つのサウナがあるとも言われるフィンランドには、サウナ付きの賃貸物件も珍しくないとか。日本も温泉付きマンションなどありますが、羨ましいですねぇ。

ムーミン屋敷にも、サウナがあります。
物語上も描写があるのですが、フィンランドの「ムーミン美術館」に展示されている立体作品ムーミン屋敷(やしき)にも隠しサウナがあるそうです。トーベ・ヤンソンがパートナーのピエティラさんをはじめ、友人や親族にも素材集め等を手伝ってもらって3年がかりで完成させた、3mの大作。いつか実物をじっくり見てみたいです。

そんなトーベの思い入れから見ても、もはやただの家ではなくムーミン物語専門の劇場のようなムーミンやしきには、季節問わず風変わりなお客様が次々と。コミックス6巻『おかしなお客さん』でも越冬のため南に向かう中、大雪で動けなくなった2名が流れ着きます。
初対面の彼らをゆるやかにもてなすのは、もちろんムーミンママです。

美村里江さんムーミンコラム2月 おかしなお客さん

ムーミン・コミックス「おかしなお客さん」より

ムーミンパパを紹介している時から、「ママを中心にした紹介も」と考えていました。ところが、小説2作の題名に入っているパパと違い、ママは難しい……。活躍が少ないという意味ではなく、いつでも大活躍だからなんです。
この回も一家は冬眠に入る直前であったというのに、できる限りゲストの要望に応えるムーミンママ。遠慮しすぎて逆に手間を増やしてしまうご婦人フルフィンス、太い眉毛と顎髭が見るからに気難しそうな男性グリムランド。タイプの全く違う二人にも、ちゃんと居心地のよい場を提供しようとします。

そんなママが、リュックを背負って傘までさして、大雪の中へ出ていくこのイラスト(もちろん大事なハンドバッグも手放しません)。左のコマには「雪の断面」と書いてあるのですが、そんな塊のような豪雪を切り拓いてでもママが進むのは、背負った“クリップダッス”をなんとかするためです。

美村里江さんムーミンコラム2月 おかしなお客さん

ムーミン・コミックス「おかしなお客さん」より

面倒見のいいムーミンママがここまで警戒するクリップダッスとは、何者なのか?
可愛い見た目で日本ではグッズも見かけますが、なんでもかじってしまう習性が困りものの生き物らしく、物語にも何度か登場。今回は「親がしつけを諦めてムーミン一家に送った子ども」ということで、さすがのママも匙を投げ、しつけ上手のフィリフヨンカをはじめ、署長さんの家、孤児院、とクリップダッスを預かってくれるところを探し歩きます。

皆がバタバタしていても「なんとかなるわ」とゆったり構えるムーミンママが、ここまでアクティブに解決に向けて動いているのも珍しいかもしれません。

美村里江さんムーミンコラム2月 おかしなお客さん

ムーミン・コミックス「おかしなお客さん」より

「とてもたいせつなことだから…」「天の助けがあると思うのよ…」「ちょっぴりはね」

天の助けを期待するほどの困難の中でも、期待は「ちょっぴり」。自分が動き続けることを基本としつつ、ほんのり期待もしておくこの塩梅、人生にとても大事だなと感じます。

さらに、個性を一切認めない孤児院を見て「預けたくない」ときびすを返し、「おうちに帰ろうか」と、結局クリップダッスを連れてムーミンやしきへ戻る、やさしいながらも自分なりの線引きを持つムーミンママ。

ここからお墨付きの厄介さを発揮していくクリップダッス。二人のお客様とムーミンたちはこの悪戯っ子に隠していた「ひみつ」を知られてしまい、全員ひやひやです。その中で唯一「ママにはひみつがないの?」と不満そうなクリップダッスに「みんなのひみつがわたしのひみつ!」と答えるママ。

てんやわんやの展開後には「ありのままの自分でいればいいと思いますよ」と皆へアドバイス。
兵隊人形遊びが大好きなフルフィンス、繊細なレース編みが得意なグリムランド。執筆のふりをして友達とお酒を楽しむパパ、一人で演劇ごっこをしていたムーミン、こっそりお菓子を食べていたスノークのおじょうさん。皆がありのままに振る舞いはじめ、家中がリラックスしていきます。

美村里江さんムーミンコラム2月 おかしなお客さん

ムーミン・コミックス「おかしなお客さん」より

そのくつろいだ様子に「ひみつのないひとたちなんてぜんぜんつまらない」と、自分からムーミン屋敷を出ていくクリップダッス。

「どうしてぼくら ひみつを恥ずかしがったりしたのかなあ…」 というラストのムーミンの呟きの裏に、ひみつを持たずありのまま行動できる、心やさしき働き者であるムーミンママの凄さがにじんでいます。(家族のための保存食料の秘匿は、ひみつというより台所を預かる者の本能です。)

また、ムーミンママのおもてなしには、北欧の国々の冬場の窓の話も思い浮かびます。
防寒目的の分厚い壁のため、窓際にも少しスペースがあり、そこへ外を通る人たちからも見えるように照明やカラフルな装飾品、植物など、ホッとして気分が明るくなるようなものを飾るのだそうです。暗く長い冬を越すための知恵。見ず知らずの人へもおもてなしってできるんですね。

ムーミン小説出版80周年のテーマでもある“The door is always open”こそ、「さあどうぞ」と誰でも迎え入れてくれるムーミンママの生き方そのものと思えます。

今回のお話を選んで「ムーミン屋敷で起こる冬眠中断の話、これで3連続だな」と一瞬立ち止まったのですが、半年も冬眠しているならむしろ自然な選出と思い直しました。主人公一家の活動半年休止という創作上の困難設定を逆手に、ここまでカラーの異なる物語を紡ぎ出せるトーベの凄さにも改めて驚きます。

フィンランドでは2月14日は「友だちの日」。恋人に限らず、友人や家族間でもチューリップを贈り合うということで、これも素敵ですねぇ。室内では切り花でミモザなんかも楽しみ、春に向けて気分を盛り上げるそうです。

枝ものとインテリアの関係

ミモザはオーストラリアの国花でもあります

「大好きなムーミンと植物について、たっぷり12回も書けるなんて!」 と、はしゃいでいた一年前の私よ、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうんだぞ、と教えてやりたい今。お名残り惜しくも、本連載もあと1回となりました。

ムーミンの魅力がさらに皆さまの心深くへ伝わるよう、トーベが読者へ力強く語りかけた部分が特にお気に入りの、最後の作品をご紹介します。風にのってくる沈丁花の香りや、ふくらんでくる桜の蕾を楽しみつつお待ちくださいませ。

 



美村里江さん(俳優/エッセイスト)

川は流れて|美村里江さんのムーミンコラム♯6

2003年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。ドラマ・映画・舞台・CMなど幅広く活躍。読書家としても知られ、新聞や雑誌などでエッセイや書評の執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。近著には初の歌集「たん・たんか・たん」(青土社)がある。2018年3月、「ミムラ」から改名。

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