アマゾン先住民の傷薬コパイバ マリマリ|山下智道の世界の文化と植物紀行#7
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シャーマニズムが根強く残る土地や人と、そこで用いられる植物との関係を探求するシャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家の山下智道さんが、世界を旅する中で出会ったと文化や風習と植物の関係について紹介いただく本連載。人・土地・植物の知られざるつながりを覗いてみませんか?
アマゾンの聖なる木「コパイバ マリマリ」
アマゾンに生育する野生植物は少なくとも約4万種とされ、地球上の野生植物の約10種に1種が生息しているといわれている。アマゾンの先住民族は、数ある植物の中でも薬用種を嗅ぎ分ける天才だらけで、私でもアマゾンのジャングルに放たれると植物を瞬時に識別することが困難であるが、彼らは独自の感性で、植物と繋がり植物を嗅ぎ分けているように思える。そんな数ある薬用植物の中でもやはり、アマゾンの聖なる木「コパイバ マリマリ」は特別なのかもしれない。
高い抗酸化力や抗菌作用をもつ黄金の樹液
コパイバは南米北部ジャングルに自生するマメ科の樹木。先住民族のインディオやシピポの間では、コパイバの中でも特にマリマリ種が、強いパワーがあるとされ「聖なる木」と呼ばれている。アナコンダのように空へ伸びる樹齢100年以上のコパイバマリマリの大木から、黄金に輝く樹液を抽出する。彼らはこの貴重な樹液を、採取後も木々が枯れることなく生きられるほどの量だけ伝統的な方法で採取し、植物に対しての敬意を忘れない。
コパイバには、β-カリオフィレンやテルペン系炭化水素などを含み、非常に高い抗酸化力や抗菌作用があり、先住民族たちは傷口に塗布したりして癒やしている。
ジャングルに住む動物たちが、傷ついた体をコパイバ マリマリの樹にこすりつけたり、樹液を舐めとっていることに着目した先住民族が、自らの暮らしに取り入れたことが、この樹液活用の起源であるといわれている。
ジャングルから離れ、プカルパの都市部に行くと、透明の容器に入ったコパイバオイルが150mgで20ソルほど(日本円で約840円)で売られている。私も必ず購入し、自家製軟膏を作る際に加えたり、リップクリームなどにも加えたりして、乾燥する冬場などに重宝している。
コパイバ マリマリの樹液採集方法
採取人はお祈りを捧げながら、手動ドリルでコパイバの幹に樹液の通り道となる1〜3cmの穴を丁寧に開ける。樹木の大きさや推定される樹齢、季節(雨期・乾季)などの諸条件から適切な量のみを採取する。樹液を得た後は、開けた穴に自然物でふたをして、コパイバから樹液が流出することを防ぐ。先住民族たちはアマゾンの大自然に敬意を払い、生態系に負荷をかけない。大自然は自分の一部という考えは、アマゾンのインディオやシピポを通じて、現代まで脈々と受け継がれている。
コパイバ マリマリに含まれるβ-カリオフィレン
植物の精油に多く含まれる二環性のセスキテルペン(テルペンの一種)で、クローブ、バジル、ヨモギ、大麻などに含まれる天然成分。かなり重いベースノートで、カンナビノイド受容体(CB2受容体)に直接作用し、植物カンナビノイドに似た作用を示すテルペンである。抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用、血管保護作用、局所麻酔作用、抗発がん作用などの多様な生理活性が報告されており、食品香料や化粧品、さらには医療分野での応用が期待されている。
シャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家 山下智道
生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。