江戸の伝統園芸植物ツツジの歴史|新宿の「鉄砲組百人隊」が内職で栽培

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三原広美

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東京新宿区大久保地域では4月になると、あちらこちらでツツジ(躑躅)の花が咲き誇ります。

新宿区大久保地域には、ツツジ(躑躅)にまつわる江戸時代からの長い歴史があり、今でも地元の有志の方々によって守り続けらています。新宿区の花でもあるツツジは、地元の小学校の校章にもなっています。

江戸時代に大ブームとなったツツジ(躑躅)の歴史をご紹介します。

目次

江戸庶民が熱愛した花「ツツジ」について

ガーデンセンターの元祖「霧島屋」の伊藤伊兵衛とは?

下級武士らが一役買ったツツジの町、大久保百人町

大久保の江戸キリシマの歴史

群馬県館林市と東京都新宿区大久保をつなぐ架け橋となったツヅジ

大久保の小学生がツツジにかける想い

ツツジにどうして「躑躅」という漢字を使うようになったの?

大久保つつじに興味を持ったら…

東京都内で見られるツヅジの名所

江戸庶民が熱愛した花「ツツジ」について

4月になるとあちらこちらで花を咲かせるツツジ。ツツジは日本に自生する植物で、野生種が50種ほどあり、古くから観賞の対象となっていました。奈良時代にもツツジの歌が詠まれ、万葉集の中で紹介されています。

原種のツヅジからは、数多くの品種が生まれています。その中でも、ヤマツツジを原種とする薩摩(鹿児島県)のキリシマツツジは、江戸時代に品種改良され、一大ブームとなった品種です。

江戸時代は、現在にも引けをとらない園芸文化が花開いた時代でした。

江戸時代の人々は、身分の上下や貧富にかかわらず、大名から町人や農民まで、生活の中で花や緑を愛し、植物に深い関心を抱いて、上手に育てるための技術をとても大切にしてきました。

ツバキ、ボタンの人気もさることながら、ツツジも江戸時代に爆発的な人気の高まりを見せていました。

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ガーデンセンターの元祖「霧島屋」の伊藤伊兵衛とは?

元禄時代に、江戸染井(現在の東京都豊島区巣鴨)の植木商「霧島屋(きりしまや)」の三代目であった伊藤伊兵衛三之烝(いとう いへい さんのじょう)は、数々のツツジを育種・栽培します。

三代目伊藤伊兵衛は、ツツジの品種173、サツキの品種162種を載せたツツジの専門書「錦繍枕(きんしゅうまくら)」も刊行し、ツツジの普及に大きな影響を与えた人物でした。

江戸の庶民の多くは庭がなかったため、自らはもっぱら鉢植えの花を楽しみ、花の季節になると、花の名所を訪れ、花見を楽しんでいました。

染井の植木屋たちは、ツツジをはじめとする数々の庭木を植えた栽培所を一般にも公開したために、見物客で賑わい、染井の界隈は桜と並ぶツツジの名所にもなりました。

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下級武士らが一役買ったツツジの町、大久保百人町

この染井のツツジブームにあやかろうと、「江戸キリシマ」と呼ばれるキリシマツツジの栽培を大々的に始めたのが、大久保百人町(東京都新宿区)に住まう下級武士たちでした。

この染井のツツジブームにあやかろうと、「江戸キリシマ」と呼ばれるキリシマツツジの栽培を大々的に始めたのが、大久保百人町(東京都新宿区)に住まう下級武士たちでした。

その頃、大久保百人町には「鉄砲組百人隊」と呼ばれる江戸幕府の下級武士たちが暮らしていました。

鉄砲組百人隊とは、鉄砲を持って戦いに出た集団で、「同心」と呼ばれる武士たちが百人ずつで組を作り、平時には、江戸城大手三の門の警備や、将軍が上野の寛永寺や芝の増上寺に参詣するときの警備にあたっていました。

ところが、平和な時代が続き、鉄砲組百人隊の同心たちは、戦がなく手柄を上げる機会もなかったため、給与の上がる見込みもなく生活に困窮します。そこで家計の足しの副業として、ツツジの栽培を始めたのです。

ちょうど鉄砲隊には、木炭、硫黄、石灰など、火薬の材料が豊富にありました。この火薬の材料が、ツツジの肥料として活用されます。

やがて、染井の植木屋もすっかり減少してしまった頃に、多くのツツジが大久保百人町に移され、百人町のツツジの名所としての発展は、幕末の天保年間(1830〜43年)に全盛期を迎えます。

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大久保の江戸キリシマの歴史

東京都新宿区のキリシマツヅジ(霧島躑躅)。時代は変わっても、江戸時代から明治時代末期まで、新宿区大久保百人町のツツジは長い繁栄を続けます。明治から大正にかけても、盛んに江戸キリシマの苗木は生産されたと言われています。

時代は変わっても、江戸時代から明治時代末期まで、新宿区大久保百人町のツツジは長い繁栄を続けます。明治から大正にかけても、盛んに江戸キリシマの苗木は生産されたと言われています。

しかし、やがて市街化の波に押され、江戸キリシマとしてもてはやされたキリシマツツジも、徐々にその姿を消していきました。

このように失われつつあったキリシマツツジですが、大正4年(1915年)に群馬県館林の杉本八代(すぎもとやよ)氏が、大久保つつじ園(萬花園)からツツジを購入し、同じ群馬県内にある「つつじが岡公園」に寄付するという出来事が起こります。

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群馬県館林市と東京都新宿区大久保をつなぐ架け橋となったツヅジ

江戸の染井や大久保の町から姿を消した後も、生まれ故郷からは遠く離れた場所、群馬県館林市のつつじが岡公園で、江戸キリシマのツツジは、現在に至るまで大切に守られてきました。

江戸の染井や大久保の町から姿を消した後も、生まれ故郷からは遠く離れた場所、群馬県館林市のつつじが岡公園で、江戸キリシマのツツジは、現在に至るまで大切に守られてきました。

つつじが岡公園内で、江戸キリシマの古木は、高さ4メートルにも及ぶ立派な株に生長します。

そしてさらに時を経て、新宿区大久保の百人町で育てられていた江戸キリシマのツツジが、実は館林で元気に生き続けていることを、ツツジの生まれ故郷である大久保小学校の生徒たちが学ぶ日が来ます。

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大久保の小学生がツツジにかける想い

大久保がツツジの名所であったことを知った小学生らは、自分たちの手で「もう一度ツツジを増やしてきれいな町にしたい」という想いを抱きます。そして、その気持ちを手紙に込めて、新宿区の区長に送りました。

大久保がツツジの名所であったことを知った小学生らは、自分たちの手で「もう一度ツツジを増やしてきれいな町にしたい」という想いを抱きます。そして、その気持ちを手紙に込めて、新宿区の区長に送りました。

それから平成21年(2009年)に、小学生らの念願はかなえられ、館林のつつじが岡公園で育まれた江戸キリシマの原木6本が大久保小学校に寄贈されました。

90年近くを経て迎えられた、江戸キリシマの里帰りとなったのです。

その後も、大久保小学校では6年生を中心として、地元の方たちの支援を得ながら、歴史ある江戸キリシマを増やし守っていく活動を続けています。

毎年4月には、大久保小学校で「つつじのお花見会」が開催されます。小学6年生のひとりひとりが、ツツジへの想いを俳句にして詠んで聞かせてくれます。

「今まで以上に輝かせたい」「大切なつつじを守りたい」

花へと寄せる想いが時を超え、空を超え、ひとつに繋がる瞬間を見ることのできる、特別な春の催しです。

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ツツジにどうして「躑躅」という漢字を使うようになったの?

新宿区のキリシマツヅジ(霧島躑躅)

ところで、ツツジに使われている「躑」「躅」という漢字は、普段は見かけないものです。ツツジという植物に「躑躅」という漢字が使われるようになったのは、どういう由来があるでしょうか?

ツツジは、ツツジ科ツツジ属の植物の総称です。由来は、花が次々に連なって咲くため「ツヅキサキギ(続き咲き木)」、または花が筒のように咲く様子から「ツツサキ」などから、ツツジという名前になったと諸説あります。

ツヅジの漢名は「躑躅」で「てきちょく」とも読まれます。「躑躅(てきちょく)」には「行っては止まる」という意味があり、見る人の足を引きとめる美しさから、この漢字が使われたと言われています。

江戸という都市では、多くの人口を抱えていたにもかかわらず、園芸を楽しむ人々によって、緑に囲まれた美しい空間が作り出されていました。

森や林といった自然の緑というよりも、どちらかというと、植栽された植物が多く人によって維持管理されていたのも特長です。

江戸時代に、大久保の地で植栽されていた江戸キリシマの代表品種「本霧島(ほんきりしま)」は、緋色の光沢ある輝きが特徴です。満開の時期には、見る者の顔色も紅く染めると言われています。

大久保に里帰りした江戸キリシマのツツジは、今でも植物を愛する人々に挿し芽として譲られています。これから多くの人の手によって育まれた江戸キリシマが、その花の鮮やかな赤い色で、見る人の顔を紅色に染める日も遠くはないかもしれません。

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大久保つつじに興味を持ったら…

大久保で育てられた江戸キリシマは、現在では「大久保つつじ」という名称で親しまれ、地元の方々によって、大切に守り育まれています。  4月の満開の季節には、つつじ祭りやお花見会、お散歩会などが開催されます。

大久保で育てられた江戸キリシマは、現在では「大久保つつじ」という名称で親しまれ、地元の方々によって、大切に守り育まれています。4月の満開の季節には、つつじ祭りやお花見会、お散歩会などが開催されます。

■大久保地区協議会「まちの将来像分科会」の活動

大久保地区協議会「まちの将来像分科会」では、江戸時代後期から昭和初期にかけて、ツツジの名所として広く知られていながら、宅地化や戦災などにより姿を消した「大久保つつじ」を「もう一度大久保の地に」という地域の思いをまちづくりに活かし、「つつじのさと」としての魅力づくりを進めています。

>>>大久保地区協議会「まちの将来像分科会」へのリンク

■東京都新宿区大久保小学校の小学生による「大久保つつじの観察記録」

大久保つつじを守り育てている、大久保小学校の生徒たちが作成したホームページです。

>>大久保小学校のツツジ観察記録へのリンク

■館林市つつじが丘公園

江戸時代に大久保で生産されていた「江戸キリシマツツジ」の主要品種が、今では貴重な品種となって、公園内で現在でも多くを見ることができます。樹齢800年を越す古木、高さ5mもあるツツジの樹もあります。

>>館林市つつじが岡公園の公式HP

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東京都内で見られるツヅジの名所

江戸の庶民を熱狂させたツツジ。現在でも、様々な品種を楽しむことができます。都内でよく知られているツツジの名所をご紹介します。

根津神社

毎年4月5月には「文京つづじまつり」が開催され、つつじ苑が開苑されます。境内にある約2000坪のつつじ苑には、約100種3000株のツツジが花を咲かせます。中には豆つぶほどの小さい花のフジツツジ、風車のような花弁のハナグルマ、黒ツツジと呼ばれるカラフネなど珍しいものも見ることができるそうです。

最寄り駅: 千代田線根津駅・千駄木駅、南北線東大前駅
アクセス: 千代田線根津駅・千駄木駅、南北線東大前駅より徒歩5分
住所: 東京都文京区根津1-28-9

唐門

閉門時間

3月~9月 18時
2 ・ 10月 17時30分
11月~1月 17時
入園料: つつじ苑の入苑料200円
(引率者のある小学生以下のお子様は無料)

▼根津神社「文京区つつじまつり」について

六義園

小石川後楽園とともに江戸の二大庭園に数えられていた六義園。江戸時代、植木屋が多く立ち並び、園芸文化が盛んであった六義園周辺で流行した古品種のツツジを中心に、多くの古木が園内にあり、色鮮やかな花々を咲かせているそうです。毎年「春の六義園~大名庭園でつつじを楽しむ~」という催しでは、ツツジの特別パネルの展示や、特別ガイドをが実施されています。

最寄り駅: JR山手線・東京メトロ南北線「駒込」駅
アクセス: JR山手線・東京メトロ南北線「駒込」(N14)下車 徒歩7分
住所: 東京都文京区本駒込六丁目
開園時間: 午前9時~午後5時(入園は午後4時30分まで)
入園料: 一般 300円
65歳以上 150円
(小学生以下及び都内在住・在学の中学生は無料)

▼六義園の詳細はこちらから

六義園

  • 最寄駅 : 駒込駅
  • アクセス : 山手線、南北線「駒込」から徒歩7分
  • 住所 : 東京都文京区本駒込6-16-3

江戸幕府第五代将軍徳川綱吉の側用人、柳澤吉保によって7年半の歳月をかけ、1702年に造られた「回遊式築山泉水庭園」です。

江戸時代から小石川後楽園とともに江戸の名園のひとつに数えられます。園の大きな特徴は、吉保の文芸趣味を反映した「和歌」を基調とした庭造りにあり、「万葉集」や「古今和歌集」などに多く詠まれた紀州和歌の浦の風景や、和歌や中国の古典にちなんだ景観を園内に取り込んでいます。

桜と紅葉の時期には、開園時間を延長し、ライトアップが行われます。

新宿御苑

桜とバトンタッチするように開花するツヅジですが、新宿御苑にはたくさんの品種の桜があり、ツヅジと桜の花を一緒に楽しむことができます。ツヅジの花が咲く時期に、菊咲き桜の梅護寺数珠掛桜(バイゴジジュズカケザクラ)や八重桜も咲き誇り、色とりどりの景色が見事です。

最寄り駅: 東京メトロ丸の内線 新宿御苑前駅
住所: 東京都新宿区内藤町11
開園時間: 開園時間は季節により変動するため、詳しくは環境省 新宿御苑管理事務所HPをご覧ください。
入園料:

一般500円(30人以上団体割引:400円 ※事前申込不要)

65歳以上250円 ※窓口で年齢の確認できる証明書の提示が必要です

学生(高校生以上)250円 ※窓口で学生証の提示が必要です

小人(中学生以下) 無料

▼新宿御苑の詳細はこちらから

新宿御苑

  • 最寄駅 : 東京メトロ丸の内線 新宿御苑前駅 
  • アクセス : 各門によってアクセスがことなります。くわしくはHPをご覧ください。
  • 住所 : 東京都新宿区内藤町11

※2019年3月19日から開園時間、入園料金が変更となりました。
入園料:
一般500円(30人以上団体割引:400円 ※事前申込不要)
65歳以上250円 ※窓口で年齢の確認できる証明書の提示が必要です
学生(高校生以上)250円 ※窓口で学生証の提示が必要です
小人(中学生以下) 無料
※酒類持込禁止、遊具類使用禁止
※コインロッカー(有料)、車いすの貸し出し(無料・当日受付)あり

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三原広美

本の中の空想世界で遊ぶことが大好きだった子供が、成長して異文化や新しい技術に触れることに興味深々、好奇心旺盛な大人になりました。大学ではドイツ文学を学び、卒業後は外資系のIT企業でマーケティングやローカライズ業務に従事。フランス人と縁あって国際結婚し、現在は2人の女の子の母です。自然や緑のあるところが大好きで、植物の与えてくれる癒しの力にいつも幸せをもらっています。暮らしの中にも、植物との絆を探して、日々の喜びと発見につながるような記事を配信。

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