地球温暖化と植物|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」③
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世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。今回は、地球温暖化と植物のお話。一緒に植物や地球環境について考えてみませんか?
温暖化を止める方法
温暖化を止める、地球が持っている唯一の手法
それは、緑を増やすこと!
地球に降り注ぐ太陽の熱は、1平方メートルあたり1367W。これは電気コンロ一台の発熱量に匹敵する熱量です。太陽の光は植物の緑にあたると吸収され、葉緑素が働き空気中の二酸化炭素を炭水化物(C6H12O6)と酸素に変化して太陽の熱を吸収、変換してくれます。
二酸化炭素(Co2)+水(H2O)+葉緑素 → 炭水化物(C6H12O6)+酸素(6O2)
一方、アスファルトにあたった太陽の光は、ほとんど反射されずにそのままアスファルトに吸収されて熱になってしまい、赤外線となって周りの物質や空気を温めます。
これでお分かりのように、地球上の緑を増やせば太陽の熱エネルギーは、空気中の二酸化炭素と一緒になって植物の一部(炭水化物)になり、酸素を副産物として放出してくれます。それにより、地球上の気温の上昇がゆっくりになり、温暖化の速度は減少します。
とても簡単なことです。しかし今それほど単純ではないのは、過去にそうやって植物が溜めてくれた太陽エネルギー(石油や石炭、木材)を、人類は今ある空気中の酸素を使ってエネルギー(燃焼)に変えて、どんどん熱と二酸化炭素を放出しているからです。
現在、いろいろな人たちが色々な方法でSDGs、再生可能エネルギー、地球温暖化がこれ以上進まないように努力されていますが、たとえ今人類がCO2を全く出さなくなったとしても、先ずは今あるCO2を減らしていかない限り温暖化は止まりません。それを止められる力があるのは植物だけです。ですから、以下のように僕は考えています。
具体的に何をする?
今ある緑をこれ以上減らさない。
森を切るのに原生林はもうこれ以上切らない。これは、ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によって、原生林由来の材木の国際間の取引を禁止する。こうすることによって、今激しい勢いで行われている熱帯雨林や天然林の伐採に規制をかけることができます。
植林をする。
今まで切られてしまった原生林の跡地に植林をする。森を切った後、植林をする文化は世界中で日本人だけが持っている文化なので、日本人が指導的立場で世界中に植林文化を広めていく必要があります。
ほかには、地球温暖化により植物の生育範囲が広がったところに植林をしていくことです。これは簡単に言いますと、不毛の寒帯と言われていた凍土地帯が温暖化により植物の生育が可能な場所になってきているということです。気温が1度上昇すると永久凍土が溶けたり、今まで低木類しか生育できなかった寒冷地に高木(針葉樹など)の生育ができるようになってきます。そのような土地にどんどんその土地にあった植物を植えていくことです。
これは僕だけの机上の空論なのかも知れませんが……
単純計算しますと、東京から札幌までの直線距離は約820km、年平均気温は札幌は9.2度、東京は15.4度、その差約6度で820kmなので130km/度となり、温暖化が1度進むと植物は130kmその生育分布を広げることができます。ユーラシア大陸は東から西まで約1万kmだとすれば130km×10,000km=130万km2の広さになり、これは日本列島の約3.5個分の面積が増加することになり、そこに蓄えられる二酸化炭素は数十年、数百年の単位でゆっくりですが確実にCO2を溜め込んでくれます。
環境にやさしい発電装置の活用
もう一つは、海の近くの砂漠で太陽光発電を使って海水から真水を作り、その水で植物を育てることです。
これは野菜とか花が中心になると思いますが、発電するエネルギーはメガソーラーパネルによるものではなく、レアメタルを殆ど使わないペロブスカイトのような、ビルの壁面や家庭の屋根などにも簡単に設置できる可能性がある、より環境にやさしい発電装置を使えればと思います。
今、世界中で作られているメガソーラーパネルは、耐用年数の25年〜30年を過ぎるとそのほとんどが粗大ゴミとして埋め立てゴミになってしまいます。今現在のリサイクル率は10%にも満たないそうなので、今後リサイクル率が技術の進歩とともに上がったとしても、そのほとんどが埋め立てゴミになってしまいそうです。太陽光発電が環境にやさしいと言って森を切り開いたり、本来森になっていく場所を切り開いて今のメガソーラーパネルを設置していくことは、本末転倒と言わざるを得ません。
本当に地球の温暖化を止めたいのなら、メガソーラーパネル設置のお金をユーラシア大陸や伐採されてしまった熱帯雨林の植栽費用に充てることです。
地球誕生以来、光合成生命だけが太陽光をエネルギー固定できる地球上で唯一の生産者であったのですが、現在人類が手にした太陽光発電という手法は、地球の歴史の中で初めて光合成以外の方法でエネルギーを作り出せる手段を創り出してしまったのかも知れません。
今まで地球上では植物に頼って全ての生命が生きてきましたが、今人類が手にした太陽光発電と言う手法は、”人類がある意味神を超えてしまった”瞬間なのかも知れません。
CO2の排出を減らし、現在あるCO2を減らすこと
長くなりましたが、地球の温暖化を止める方法は、世界中で研究されているCO2の排出を減らすことが一つあります。もう一方で、現在空気中に出てしまっているCO2をいかに迅速に減らしていかなくてはいけないと思いますが、こちらはあまり研究されていないように感じます。
緑をこれ以上減らさずに、もっともっと増やす
そして一番大事なことは、地球上の緑をこれ以上減らさないことと、もっともっと緑を増やすことだということをお分かりいただけたでしょうか?
「吾 唯 足るを 知る」 龍安寺手水鉢
さらに一言付け加えさせていただくと、皆様の日常の生活の中で、できるだけ自然を理解し寄り添い、ものを大切にし無駄にしない、最後まで使い切ること、 ”もったいない精神” で各々が生活していくことが、人類が地球と共存していく大前提にあることをお忘れなく!
閑話休題!
前回お話しした、生命の基本条件の一つで「自分で自己再生ができる」という条件がありましたが、AIが近い将来「自己再生能力」を持ってしまう気が僕はしているのですが、もしできたとすると生成AI(人工知能)のようなものも生命の条件を満たしてしまうので、生命は何かがわからなくなってしまいそうです。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら
二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダット)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞獲得した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技師、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。