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クレオパトラ警察も愛するバラ【ぴーちゃん連載vol.9】

とある日のことです。
テレビを観ていた夫が言いました。
「おーい、クレオパトラ警察ー、テレビでまたなんか言ってるぞー」
そう、夫は私のことを「クレオパトラ警察」と呼ぶのです。これはなぜかというとーー。
私がテレビの前に駆けつけると、ある番組で、「この食材はかの古代エジプトの女王クレオパトラも愛したそう!」。と紹介されていました。なので私はこう、ぶつぶつ言いました。
「だからさー、クレオパトラが愛したってなんの根拠を持って言ってるのか、ちゃんと示して欲しいんだよねー」

ーーそう、これが私が夫に「クレオパトラ警察」と呼ばれる所以です。

pichan_desu

マンションで観葉植物やベランダガーデニングを楽しむ様子がInstagramで人気。植物の育て方・飾り方から、インスタとは思えない長文の植物コラムまで、ネタが渋滞気味の「自称植物系アカウント」。最近はバラ沼にはまり中。第1期LOVEGREENアンバサダー。

目次

都合よく使われるクレオパトラについて

今年4月のベランダガーデン

世界三大美女のひとり、エジプトのクレオパトラ女王は、化粧品やその他もろもろ色んな界隈で、「あのクレオパトラも御用達!」「クレオパトラも愛した〇〇」と名前を引き出されています。ですが、その根拠は曖昧な場合が多いようです。

なにをもって御用達・ご愛用とするのか、基準はそれぞれだと思いますが、私が見たところ「クレオパトラが何かをとくに愛した」と明確にわかる根拠は、歴史的資料からは見当たらない気がします。

よく言われる「バラ」や「真珠」は、彼女が主催したパーティーで使われただけですし、「ハチミツ」とかそこらへんも、当時のエジプトで使われていたことがわかっているくらいなのです。

つまり、明確な根拠なく「クレオパトラも愛用!」と言っているのをみつけると、それは本当ですか??根拠はどこですか??と詰め寄るイヤな女。そう、それがクレオパトラ警察こと、私なのです。

※ちなみに私はクレオパトラ研究者でもなんでもありません。ただの素人が口うるさく言っているだけです。

ただ、なんでもかんでも調べずに言い切っちゃうのって危険だと思うんですよね。少なくとも、何をもってそう言ったのか。それを答えられるようにはしておきたいなと思います。

特に質問すれば、AIがポン!と答えを教えてくれる時代、AIが何をもってそう答えたのか、そこは確認しておきたいと、自戒を込めて記しておきたいです。

さて、今回はクレオパトラの代名詞ともいわれる「バラ」について、少し深掘りをしてみたいと思います。ちょうど今が見頃ですからね!

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あのクレオパトラも愛した?バラ

イングリッシュローズの「ミル・オン・ザ・フロス」。香りもいいし、覆輪が可愛すぎて悶絶ものです

バラは人類の歴史で最も愛されている植物の一つだと思うのですが、人間とバラの関わりを示すもので、最も古い資料ってなにかな〜〜と調べていたら、こんな記述を見つけました。

「人類最古の叙事詩と言われるギルガメッシュ叙事詩には、バラが登場します」

な……なんと!!そんな古いところに出てくるのか!!古代文明大好き人間、大歓喜。

ギルガメッシュ叙事詩とは、古代メソポタミアの伝説の王・ギルガメッシュが主人公のお話です。ギルガメッシュは今から4000年近く前の、今のイラクあたりにあった都市国家ウルクの伝説の王様です。すごーくざっくりお話をご紹介すると……

・ウルクという都市に、暴君ギルガメッシュがいました
・色々あってギルガメッシュに親友ができました
・親友が死にました
・ギルガメッシュ、発狂。不死を追い求め、旅を始めます
・不死のおじいちゃんに会います
・おじいちゃんの話を聞いて、ギルガメッシュ、結局不死なんて無理なんだと悟ります
・おじいちゃんに、若返りの草があるよと教えてもらいます
・ギルガメッシュ、その草をゲット
・でも水浴び中に、蛇に草食われます
・ギルガメッシュ、落胆。ウルクの街に帰ります

非常にざっくり、こんなお話です。

でもまさか、この物語に大好きなバラが登場していたとは!ちっとも気づきませんでした。

 

「パウルクレー」本当に手のかからないバラです。フルーツ系な香りもいい!

……はっ!もしかして「若返りの草」の正体って……バラ?!
わたくし、慌てて本を取り寄せ、ギルガメッシュ叙事詩を確認しました。

それが書かれていたのは、不死のおじいちゃんがギルガメシュに「神の秘密」を教えてあげる場面でした。

『ギルガメシュよ、隠された事柄をお前に示してやろう。そして神の秘密をお前に話してあげよう。この草は……そのとげがバラのようにお前の手をさすだろう。お前の手がこの草を得るならば、お前は生命を得るのだ。』
出典:『筑摩世界文學体系1  古代オリエント集』杉勇 訳者代表、筑摩書房、1978年、p.166

……ふむ。

なるほど。

バラの……「ように」。

たとえで使われてるだけでした。バラじゃなかった…………!!!

ちなみにおじいちゃん曰く、その草は海の奥深くにある「シーブ・イッサヒル・アメル」という草だそう。それを食べると人間は生命を新しくする……若返るということですかね、そうなるんだそうです。

 

5月はカメラロールがバラだらけになります

そんなギルガメッシュ叙事詩ですが、なかなか胸にくる場面があったので、ご紹介させてください。

それは不死を求めて旅している途中のギルガメッシュに、とある女性が「人間とはこうあるべきだ」と説く場面。彼女のセリフがですね、これがまた、いいんです。

『ギルガメシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのです。
あなたの求める生命は見つかることがないでしょう。
神々が人間を創られたとき、人間には死を割りふられたのです。
生命は自分たちの手のうちに留めおいて。
ギルガメシュよ、あなたはあなたの腹を満たしなさい。
金も夜もあなたは楽しむがよい。
日ごとに饗宴を開きなさい。
あなたの衣服をきれいになさい。
あなたの頭を洗い、水を浴びなさい。
あなたの手につかまる子供たちをかわいがりあなたの胸に抱かれた妻を喜ばせなさい。
それが人間のなすべきことだからです。』
出典:『筑摩世界文學体系1  古代オリエント集』杉勇 訳者代表、筑摩書房、 pp.159-160


どうでしょうか。
現代の我々よりはるかに死が身近であった古代の人々。彼らが考えた人間のあるべき姿……

なかなかグッときませんか…………!!

これぞまさに、
「僕たちはどう生きるか」ーー。

 

これはそこら辺の空

伝説の英雄が、何千年の時を超え、ひとつの答えを我々に伝えてくれているのかもしれませんね。

ー完ー

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