植物にチッソをもたらした男。その光と影|ぴーちゃんの植物雑記帳#3

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前回の記事では、「初心者向けバラ5選」をご紹介しました。そして今回。植物の生育に欠かせない『肥料』の話をさせていただこうと書きはじめたのに、いつのまにか『毒ガス』の本を借りまくり調べておりました(家族に不気味がられました)。

肥料と毒ガス?どういうつながり?

実はこの2つを結びつける、1人の研究者の存在があるのです。

そんな肥料にまつわるお話ですが、またお付き合いいただけたら嬉しいです。

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マンションで観葉植物やベランダガーデニングを楽しむ様子がInstagramで人気。植物の育て方・飾り方から、インスタとは思えない長文の植物コラムまで、ネタが渋滞気味の「自称植物系アカウント」。最近はバラ沼にはまり中。第1期LOVEGREENアンバサダー。

目次

肥料に共通する3大要素

植物の健全な育成に欠かせない肥料。

でもいざ肥料を買おう!と思ってお店に行っても、種類多すぎ……結局どれを使えばいいの?って迷ってしまいますよね。

我が家にあるだけでも、これだけの種類があります。

植物にチッソをもたらした男。その光と影

日陰でも育ちやすくなる!殺虫成分配合!根が強くなる!など、いろんな特長を持った肥料が出ていますが、一般家庭向けの肥料には共通していることがあります。

それは、「植物の生長に特に重要な三要素を供給すること」ーーすなわち、チッソ(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の三要素を含んでいること。

どの肥料も、この3種類がどれだけの割合で配合されているかパッケージに書かれています。

 

植物にチッソをもたらした男。その光と影

主に、チッ素(以後チッソ)は植物の体をつくり、リン酸は花や実つきを良くし、カリウムは根っこに効くそうです。

わたしはその時の気分で与える肥料を選んでいます。今日は根っこ愛でたいな〜ってときはカリ多めのを、花付き良くしたいな〜って時はリン酸多めのを…という具合です(自己流です)。

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チッソは空気中にたくさんあるのに、植物は・・・

肥料三要素のひとつ、チッソ。

私たちが吸い込んでいるこの空気中の約8割はチッソなので、チッソって豊富にあるよなぁ、なんでわざわざ肥料でチッソをあげる必要があるんだろう?なんて化学に疎いわたしは思ってしまいましたが、なんと大半の植物は空気中のチッソを取り込めないらしいのです!

不便ー!こんなにいっぱいあるのに!!(見えないけど)

なので今の人工的に作られた肥料が生まれる前、植物にチッソを与えるには、雷が落ちる(といい感じに空気中のチッソが植物が吸収できる形になって土に入るらしい)のを待つか、硝石(主に南米でとれる石)や動物の排泄物などの堆肥を使う……というのが主な方法だったそう。

植物にチッソをもたらした男。その光と影

突然ですが我が家で育てているイチゴ 

でもこれではチッソの供給は安定しません。雷落とすのもコントロールできませんし、硝石も掘り尽くしたらなくなっちゃうし、動物のアレは……ねぇ。アレですもんねぇ。

ということで、世界中で人口が増え、食糧・農作物の増産が迫られた19世紀末に……

「人口爆発が起こっている今、窒素を植物が吸収できる形にかえて肥料にすることは、われわれ科学者の双肩にかかる重大かつ緊急の課題である」

と、とある著名な科学者が訴え、世はまさに大チッソ肥料開発研究時代に突入……!

そしてそれを実用化できるレベルで成功させた男が、ドイツ出身・ユダヤ人研究者のフリッツ・ハーバー

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ユダヤ人研究者のフリッツ・ハーバーの功績

植物にチッソをもたらした男。その光と影

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彼が生み出した、空気中のチッソから肥料を作る方法は「ハーバー・ボッシュ法(空中窒素固定法)」として確立され、チッソの肥料化に成功

→植物に安定的にチッ素を供給できるようになる
→農作物が増産できる
→世界の食糧危機を救う!!

ことになったのです。

今では「世界人口の約半分はチッソ化学肥料で生産された食料で支えられている」……なんて言われたりもするそうです。

すごいぞハーバー!まさに彼は「空気からパンを作った男」。この業績で彼はノーベル賞もとっています。

……と思いきや、世界の食糧難を救ったハーバー氏、実はこんなものも開発していた。

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フリッツ・ハーバーのもうひとつの顔――

 植物にチッソをもたらした男。その光と影

毒ガス。

彼は第一次世界大戦中ドイツ軍と協力し、化学兵器の開発に専念。ハーバーは毒ガスを「戦争を早期に終結させる人道的兵器である」と主張していたそうです。ハーバーの妻はそれに抗議し、拳銃自殺を遂げています。

そして……チクロンB。

もともとは食糧難対策の一環で開発された殺虫剤ですが、まさかこれが開発者ハーバーの死後、残酷極まりない悪魔の所業に使われるとは、彼は夢にも思わなかったでしょう。

ユダヤ人であるハーバーの親族や共に研究したユダヤ系の科学者仲間たちは、強制収容所のガス室で、チクロンBによって命を奪われました。

「平和時には人類のため、戦争時には祖国のため」ーーそんな信念のもと、科学の進歩に身を捧げたハーバー。

ユダヤ人排斥を主張するナチスが登場したことにより、最後は国に裏切られ国外に逃亡。二度と祖国ドイツの地を踏む事なく、ハーバーはこの世を去ります。

世界の食糧難を救い、世界に残酷な兵器をもたらした科学者。私たちが当たり前に使っているチッソ肥料誕生の裏側に、そんな人間の物語があったのかと思うと、いろいろ考えてしまいました。

 

こうやって大好きな植物たちを愛でることができる日常は、本当に貴重で、素晴らしいことですね。

※主要参考図書
「禍いの科学 正義が愚行に変わるとき」ポール・A・オフィット著、関谷冬華訳、日経ナショナルジオグラフィック社
「毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者」宮田親平、朝日新聞社

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マンションで植物のある暮らしをおくる様子を、独自の感性で切り取る投稿がInstagramで話題の「植物系アカウントぴーちゃん」。第一期LOVEGREENアンバサダー。

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