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世界一綺麗な錦織なす紅葉|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」⑤

photo by 二宮孝嗣

世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。今回は「なぜ、日本の紅葉が世界一美しいと言われるのか」について二宮さんと一緒に考えてみましょう。

日本の紅葉は美しい

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

日本中がこの季節、紅葉の話でもちきりになります。

私も先月、オーストラリアの友達夫妻と一緒に、安達太良山、奥入瀬渓谷、八甲田山、八幡平と周り、青森から海を渡って大雪山、網走、釧路と回ってきました。東北地方、安達太良山、出羽三山から北は、特に世界中で有名な秋の紅葉スポットです。

紅葉の葉色の違いと、変化の仕組み

葉の中の色素には、クロロフィル(緑系)、カロチノイド(黄色系)、フラボノール(白から黄色系)、アントシアン(赤系)などがあります。緑は言わずと知れた葉緑素です。クロロフィル以外の色素は、葉の中では主に有害な紫外線からDNAを守ると言われています。それらの色素は、花にあっては色々な花色を作り出しています。

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

秋になってどんどん日が短くなり、気温が下がって最低気温が10℃を切るようになると、日本に生える温帯系から寒帯系の植物は冬の準備をし始めます。特に、落葉性の夏緑広葉樹は氷点下の寒さに葉は耐え切れないので、茎と葉の間に離層という組織を造って葉を落とし、休眠に入ります。その際、葉の中にある養分を分解できるものは分解し、急いで幹の中に移動させます。凍る前に植物体の体液の濃度を濃くして、氷点下の外気温にも凍らないように準備するのです。その際、色素系の物質の多くは、葉の中に置いていきます。カロチノイド系の色素を置いていけば黄色、アントシアン系の色素を置いていけば葉は赤くなるということです。

美しく紅葉する環境について

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

紅葉は、寒さが急に来ると色は鮮やかになります。これは、急に来た寒さに対して植物が未練なく葉の光合成を諦めて、葉緑素を分解して本体に移動させて冬を迎えるからです。それに対し、寒さがなかなか来ないと、未練たっぷりに光合成を続けるので、なかなか緑色がなくなりません。そしてそのまま褐色の枯葉となって落葉してしまうことになります。ですから中部から西の標高が低いところでは、暖かいので紅葉はあまり美しくなりません。それに、常緑広葉樹が増える暖かい地方では、赤や黄色に紅葉する落葉広葉樹は少なくなってしまいます。また、庭に植えられた植物は、肥料がよく効いていると出来るだけ遅くまで光合成をしようとするので紅葉はなかなか進みませんが、肥料なく痩せていると、早く冬支度をするので綺麗に紅葉します。

縄文時代に思いを馳せてみる

ちょっと話はずれますが、縄文時代の遺跡分布は紅葉の綺麗なところと重なっています。これは、夏緑広葉樹の森がそこにあるからです。稲作が入ってくるまで保存食としては、どんぐり、栗、栃の実などしかなかったので、青森の三内丸山遺跡で栽培されていたという栗(世界最古の農耕?)や栃の実、どんぐりなどが出土しています。実は、今問題になっているクマも、同じエリアを中心に同じ餌を食べて生きています。

また、縄文時代の人たちが秋の紅葉を楽しんでいたか否かははっきりしませんが、喧嘩をしない優しい心豊かな人たちだったので、おそらく秋の実りの季節、移り行く季節を楽しんでいたと思われます。弥生人と一緒に稲作が西日本にやってきて、狩猟採集生活の縄文人は吸収され?歴史から消えてゆきます。一部はアイヌ民族になっていったのかも知れません。

日本の紅葉が一番綺麗な理由

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

本題に戻ります。世界では、日本の紅葉が一番綺麗だと言われていますが、その理由を考えてみたいと思います。

①寒すぎない多種多様な夏緑広葉樹林帯であること。

北海道より北へ行くと植物の種類がどんどん減り、寒さに強い針葉樹が中心の暗い森になってきます。それにより、錦織なす紅葉にはなりません。

②年間を通して降水量があること。

春から秋までどんどん光合成が行われることにより、しっかりと葉に養分が蓄えられていきます。乾燥や台風などの自然災害にあいにくい地理的条件であることも必要です。

③地形が起伏に富んでいること。

八甲田、八幡平などの2,000m級の丘が中心になって、北海道の雄大な大雪山の周りや知床なども綺麗に紅葉します。

④色鮮やかな、特に赤く紅葉する樹種が多く散在していること。

たとえば、カエデ科(カエデ、モミジ類)ニシキギ科(マユミ、錦木など)バラ科(山桜、七竈など)ツツジ科(落葉性のツツジ類、赤ものなど)などが混在できる豊かな森であること。日本では、小さな丘であっても南斜面や北斜面、乾燥した尾根筋や湿地帯などさまざまな生育条件が散在するので、黄色一面に紅葉するヨーロッパのような画一的な森にはならないのです。

⑤緯度による樹形が優しさを醸し出していること。

太陽の高度との兼ね合いで東北から北海道はちょうど斜め上から太陽光が当たるため、樹形が綺麗な三角形となり、上から太陽の当たる南(亜熱帯)に生える植物のようにぼってりせず、横から太陽の当たる北(寒帯)のように尖る樹形にならないことから森が優しく豊かに見えます。

このように、日本の地理的、気候的条件が世界一の紅葉を作り出しているのです。

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

日本の植物は、もともと中国の雲南地方のジーナスセンターからどんどん北へ植物が進化、分化、変化を繰り返し、分布を広げて日本列島(当時は大陸と地続き)に辿り着き、さらにどんどん北へ分布を伸ばして当時陸続きだったベーリング海峡を越えて、ロッキー山脈まで分布を広げていったので、ロッキー山脈に生えている植物と北海道に生えている植物はよく似ていて、かなり綺麗な紅葉がロッキー山脈でも出現しています。

二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話

photo by 二宮孝嗣

今回は花の話をしようとしていましたが、季節柄こんな話になってしまいました。花の話は来春になってしまうかも知れませんが、次回は植物の冬の過ごし方、季節の感じ方についてお話しできればと思っています。

▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら

 

二宮孝嗣さん

二宮孝嗣(にのみや・こうじ)

ガーデンデザイナー、樹木医。

静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。

1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダット)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。

1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞獲得した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。

樹木医七期会会長、一級造園施工管理技師、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。

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