イエソト空間の達人たち③|築古の家を心地良く育てる、庭と部屋を植物が行き来する暮らし
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住まいの形にとらわれずに、室内やインナーバルコニー・ベランダなどで自分なりの「庭」空間の楽しみ方を紹介する取材連載「イエソト空間の達人たち」。
今回は、四季の植物に囲まれた暮らしを楽しむ、くみこさんのご自宅を訪ねました。
自宅の庭に咲く草花を摘んで、お気に入りの花器に活ける習慣は、心休まる癒やしの時間。季節の移ろいや自然の温もりをふとした瞬間に感じることができます。
四季折々の美しい植物が庭と家の中を循環する、心地良いイエソト空間とは?
移住先で始めた植物との暮らし

伺ったのは、美しい山々に囲まれた緑豊かな里山地域、埼玉県・越生町の住宅地に佇む1軒の平屋。

家の外には四季折々の花が咲く小さな庭の景色が広がります。
温かい笑顔で出迎えてくれたのは、夫婦でこの地に移住して8年目だという、くみこさん。

ーー自宅の庭づくりをはじめたことが、植物を育て始めたきっかけだったとか。
空き家バンクを利用して越生町に移住したのが8年前。自宅の内装リフォームが落ち着いた5年ほど前から始めた庭仕事がきっかけでした。
もともとは槇(まき)の木やカエデ、モチノキなどの木が何本もある、昭和の家ならではの庭でしたが、一度全部まっさらにして、はじめにアナベルを植えたんです。
その後、いろいろなお花にチャレンジするようになって、現在は50株ほどを育てています。

築古を趣の美として魅せる植物の存在
ーー最初にアナベルを選んだ理由は?
憧れのアナベルを育ててみたかったんです。開花したら毎年切り花にして楽しんでいます。壁にかけた絵画の下に花器を置く飾り方がお気に入りで。

熊谷守一さんの絵画とアナベル
ーー壁面のアートと一緒に飾ると、空間に立体感と華やかさが生まれてとても素敵ですね。
切り花を活けるようになってから、花の絵と一緒に飾ったらもっと面白いだろうなと思って。ゴッホのひまわりやアイリス(あやめ)の絵など、お気に入りの絵画と花をコラボして飾る楽しみが増えました。

ーー無垢の床や塗り壁など、自然素材の美しさを感じるお部屋に、季節の花々や観葉植物がすっと馴染んでいて居心地の良さを感じます。自宅はセルフリフォームされたそうですね。
最初は業者に相談したのですが、新築のようなピカピカのリフォームを勧められて。柱や壁など、この家の古さを活かしたかったのと、床も無垢板にしたり建具にもこだわりたかったので、水回りや素人では無理な部分だけ業者に頼んで、ほかは自分たちで頑張ることにしました。

とはいえ、夫婦共々DIYはほぼ未経験だったのでとても大変でした。部屋づくりはまだ終わっていないです(笑)。
ーー庭のお花に加えて、部屋にも観葉植物を増やそうと思ったきっかけは?
実はもともと、観葉植物は苦手だったんです。以前住んでいた賃貸住宅で枯らしてしまった経験もあって……。でも、現在の家に引っ越してみて、お部屋の古さを活かせるのが緑なのではないかなと思うようになって。初めてお迎えしたのは育てやすいアスパラガスでした。それから少しずつ増やして、今は15鉢ほどの観葉植物を育てています。

長く大切に育てているアスパラガス

お気に入りのコーヒーグッズの近くにコーヒーの木を置く遊び心も
ーー特に思い入れのある観葉植物はありますか?
フランスゴムの木です。カイガラムシにやられていたこともあり、ホームセンターで安値で売られていました。葉も少なく、かなり元気がない状態でしたが、こんなに安いなら!と購入を決めました。カイガラムシを全部取り除いてお世話を続けたところ、状態も良くなり、年々美しい葉が増えてきました。手をかけてきたからこそ思い入れも強いですね。

今では瑞々しい葉をつけるフランスゴムの木
庭で育てた草花を自宅で活ける楽しみ

ーー植物や切り花をお部屋に飾るときに、こだわっていることはありますか?
あちこちに緑が欲しいので、窓際に限らず、日々の生活のなかで目に入りやすいところに置くようにしています。小型~中型サイズの鉢が大半なので、気分に合わせて頻繁に配置換えもしています。切り花は、台所や仕事部屋のデスクの片隅など、小さな花瓶で家のあちこちに飾って楽しんでいますね。

ーーお庭で育てた花を切り花として家の中でも楽しむ……まさに理想的なイエソト空間ですね。
最初はお庭の花を上手に育てることにも苦戦しました。この辺りの地面は関東ローム層で、植物が育ちにくい赤土なんです。そんなことも知らずに始めてしまって。土を入れ替えたり肥料を加えたり、試行錯誤しながら今に至ります。

庭に咲いた花や葉を少し摘んで、部屋にさりげなく活ける。庭と家の中を植物が行き来して、心地よく循環するお庭が理想ですね。
視点を変えて「雑草も楽しむ」
ーー今お部屋に飾っているお気に入りの切り花について教えてください。

アナベル、ヤマアジサイ、ギンバイカを摘んで活けています。ギンバイカは芳香も良くて、葉をこすると清涼感のある香りを楽しむことができますよ。

(左)ヤマアジサイ、(右)ギンバイカ
ちなみに、一番小さな花器に挿しているのは雑草なんですよ。雑草も意外とかわいいお花が多いので、摘んで活けることで活用しています。
ーー雑草扱いされがちなドクダミをアートと一緒に素敵に活けています。Instagramの投稿を拝見したときは、「こんな素敵な活用方法があるのか!」と目から鱗でした。

ドクダミは、白い苞(ほう)や真ん中からぴゅんと出ている黄色い穂状の花がかわいいですし、葉っぱも濃い緑で白色によく映えるんですよね。本当はかわいいのに邪魔者扱いしてしまっているところがあるので、もうこうなったら抜くのは諦めて活けてやれ!みたいな感じです(笑)。
ーー庭と雑草は切っても切り離せないですが、「雑草の存在も楽しもう」という視点に変えてみると、また違った発見がありそうですね。
最初は、花を植えていないところには全部石やレンガを敷いたりして雑草が生えないようにしようと考えたのですが、それってちょっと息苦しいかなと。植物の生長に害のない雑草は刈りすぎず、ひとつの草花として楽しむことで共存したいと思っています。

整えすぎない自然体の庭が美しい
植物の美しさを引き立てる花器たち

ーー花を活ける花器もコレクションされているとか。
持っている花器の数は30個ほど。あくまでも主役は花だと考えているので、華美なデザインや色よりも土や水、緑を感じさせる素朴な花器を選んでいます。
ーー特別なお気に入りがあればぜひ教えてください。
沖縄の琉球グラスでつくった花器がお気に入りです。ちょっと気泡が入っていたり、ゆがんだ形がユニークで、無骨な感じが私らしいな、この家らしいなと思っています。
あとは、この家で最小の花瓶があって。ハンドメイドマーケットで出会ったのですが、ビーズの中に小さい小さい試験管のようなガラスがぴったり入っている姿に一目惚れしました。小さいすみれを一輪飾ったりしています。

お気に入りのコレクション
ーーくみこさんが育てている、優しい色彩のお花たちとの相性も良さそうです。
派手な印象になりすぎないように、色数を抑えるようにしていて、白・青・紫・ピンク系を中心に育てています。これから夏に向かって暑くなっていくので、暑さに強くてナチュラルな色味のお花を植えて、家でも飾りたいなと思っています。あとは、もう少しで庭にあるピンクのユリが咲くので、今から活けるのが楽しみです。
慈しみ、紡ぐ、時をかける暮らし

ーーお庭で草花を育てること、お部屋の中で植物を愛すること、両方取り入れていらっしゃるからこそ感じる、難しさや楽しさを教えてください。
日当たり、水やり、土、肥料、切り戻し、剪定、置き場所など、少しでも間違えれば翌年花が咲かなかったり、枯れてしまったりと、がっかりすることも多いです。マニュアル通りにいかないことも多々あります。
ですが、日々勉強を重ねて経験を積むうちに、風通しの良さの大切さや、生長に伴う株元の手入れ、苗が大きくなる前の剪定など、育てるコツが少しずつ分かるようになってきました。そうして手をかけた植物が、花を咲かせたり葉を増やしたりして応えてくれたときには、大きな喜びを感じます。
ちなみに最近、水に挿した切り花を夜だけ冷蔵庫に入れておくと、花持ちが良くなることを発見しました。
実際に、いつもなら1週間ほどで枯れてしまうチューリップで試したところ、2週間も長持ちしたのです。自己責任ではありますが、効果を実感しています。
ーー季節の植物を育て愛することで、毎日の生活にどんな変化がありましたか?
春には軽やかな高揚感、夏には暑さを癒す清涼感、秋には落ち着いた侘び感、冬には凛とした静寂感を……今の季節だけの美しさを愛し、肌で感じることができるようになりました。
また、蕾が少しずつ膨らみ、開いていく様子、生まれたばかりの小さな葉が日に日に大きく生長する様子、盛りが過ぎて花びらや葉が落ちる瞬間など、部屋の中に流れる生きた時間に目を向ける、心の余裕が生まれたことは大きな収穫だと思っています。

ーーくみこさんのご自宅のテイストや暮らし方を言語化するならば、どんな言葉になるとお考えですか?
「慈しみ、紡ぐ、時をかける暮らし」です。
慈しむとは、目の前にある命やものに愛着を持つこと。庭の花や部屋の観葉植物に水をやって、その瑞々しさを愛でたり、身の丈に合ったものを自らの目で厳選し、背伸びすることなく生活に取り入れて愛情を注ぐことです。
紡ぐとは、長い年月を経て人の手を渡ってきた古道具や古家具を、ただ飾るだけでなく生活に馴染ませて使っていくこと。そして、古い家に自ら手を入れ、居心地の良い場所へと育てていく行為そのものです。
時をかけるとは、時間をかけて美しく変化していくものに深い敬意を持つこと。また、季節の移り変わりや、日々のささやかな習慣の積み重ねといった、ゆっくりとした時の流れを楽しむことを心がけています。

ーー普段の生活では取りこぼしてしまいそうな、自分自身も忘れてしまいがちな気持ちを大切にしたいと改めて思いましたし、自分に合う暮らしを探すヒントをいただいた気がします。
私自身、よもやこんな生活を送るようになるとは、かつての自分からは想像もできないのですが(笑)。好きなものや身の丈にあったものがわかるようになりましたし、心に余白を持って暮らすことができるようになりました。

たとえば、花屋さんに行っても自分が選ぶ花はやっぱり身の丈に合ったものなんだろうなと思います。大輪の花を咲かせる豪華なバラも素敵だと思いますが、私の暮らしに合うのは、モッコウバラや野バラなどの小ぶりで素朴な花だろうなと。
そんな風に自分の好きなもの、身の丈に合ったものを選んで愛する暮らしを、これからも続けていきたいです。
くみこさん プロフィール

埼玉県越生町在住。8年前に空き家バンクで見つけた平屋に移住し、内装をDIYでセルフリフォーム。庭で育てた季節の草花を自宅に飾って楽しむ丁寧な暮らしをInstagramで発信している。フォロワー数は3.5万人。
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