3,000人以上の想いがつないだ「雄勝ローズファクトリーガーデン」のこれから

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小野寺葉月

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公開日 :

雄勝ローズファクトリーガーデンは宮城県石巻市にあります。

震災で街の95%が壊滅的な被害を受けた石巻市雄勝町。現在も工事は続いています。

 

その雄勝には、人のたえないガーデンがあります。

今回、共同代表の徳水利枝さんにお話を伺うことが出来ました。

 

始まりは自宅の跡地に花を植えたことから

「津波で流されてしまった実家跡地にほおずきの花を植えたのがきっかけですが、今は思い出せないその時に思っていた理由、色々な事がありました。最初からこんなガーデンが出来るなんてことは全く考えてなかったです。どうなるかは全くわからなかったから。」

 

雄勝ローズファクトリーガーデンの軌跡

2011年

「自宅の基礎を撤去して、本当に何もなくなってしまった時、何とも言えない気持ちになったんです。『あっ、本当になくなっちゃった』というか・・・」 

当時のビジョンはお花畑まででしたが・・・

2012年に石巻の別な場所で支援に入られていた「花と緑の力で3・11プロジェクトみやぎ委員会」の鎌田秀夫委員長(仙台市の株式会社泉緑化代表取締役の鎌田秀夫さん)に徳水さんが連絡を取られたことからローズファクトリーガーデンが徐々に進んでいきます。

▼9月に被災地緑化支援に入られていた千葉大学園芸学部の秋田典子先生と学生の皆さんがボランティアに。

 

「2012年にポピーの花を一面植えたんです。こちらはそれで手いっぱいだったんですけれど。鎌田さんが『プロにはプロの支援があるから』と、熱心に動いてくださいました。『被災地だからこれぐらいでいい、では人は来なくなる』とおっしゃって。その時すでに鎌田さんの中にはビジョンがある程度あったんだと思います。」

▼伺った時ガーデンの中ではポピーがきれいに咲いていました。

 

▼530坪もの敷地にメドウガーデンを作っている様子。一時に種をまいて順々に花が咲いていく様は、津波で自宅を無くした雄勝の人たちのためにも、花畑をつくることで故郷とつながるような気持ちになるように、という気持ちが込められている。

 

憩える場所がほしかった

「ライフラインがまだ無い状況でしたから。ホッとできる場所、休める場所が必要だと。その時、東北ラン展で使用したマヨイガハウス(※1)を移設していただけることになり、ボランティアさんにご協力いただきながらプロジェクトとして進めていきました。」

2013年

▼マヨイガハウスの移設。

 

▼最初に移設された時より植物が生長して葉陰に見えるように。

 

雄勝名産、雄勝石を使ったスレート葺きの屋根

マヨイガハウスの屋根は雄勝の名産雄勝石をつかったスレート材で作られており、東京駅の屋根材にも使用されています。雄勝石の特徴は粒子・光沢が均一であること。純粋な黒い色合いがあること。容易には曲がらない強さ、吸水性が低くなり、経年なども少ないことから習字の硯として使われてきました。国内の90%は雄勝町で生産されており、生産量日本一です。伝統工芸品としても指定されています。

▼マンホールは雄勝硯のキャラクター硯のケンちゃん。海沿いの街なので回りには魚や貝たちがたくさん!

 

▼雄勝花物語第2章のプロジェクトマップ。

 

「この辺りは鹿が良く出まして。支援されたバラを鹿が食べてしまったので、対策として柵を作ったりもしました。」

 

2014年にハーブガーデンを新設

事業にするためにはいろんなハーブでハーブガーデンにした方がいい

「ナオトインティライミさんがコンサートで集めてくれたお金を寄付してくださるというお話があって。それで私は一面ラベンター畑にしたかったんですが、鎌田さんは事業にするなら多様なハーブでハーブガーデンにした方がいいんじゃないかとおっしゃって。ここでオリーブの試験栽培も行いました。」

 

「鎌田さんの所にいらしていた植物愛好家の方々がご協力くださいました。ハーブガーデンにはブランコもあるので、お子さんも楽しめるようになってます。」

 

「バラに関しても、2016年からご夫婦で継続していらっしゃってくださる方がいて。その方たちにお任せしています。徹底的に除草してから植え替えして下さったり、液肥を施してくださったり。今年はおかげさまで今までで一番、花付きも良くなりました。」

 

2014年の秋には国道建設の話が出ていた

実は、雄勝ローズファクトリーガーデンは国道建設のため、移転をすることになっています。

「2017年中に新しい土地を整地し、冬場に植物の移植作業を始める予定です。テレビ(※2)では2016年に持ち上がったようになってましたが、実際には2014年から話が出ていました。」

 

行政の人も住民なのに、という想い

「行政と住民が対立しているような構図で描かれてしまうのはお互いにとって凄くストレス。自分は行政と対立して、やり方を責めるようなことはしたくない。雄勝の町に住むと決めたら、行政がやってることを変だとは言いたくない、一緒に考えていきたい気持ちが強い。」

 

「最初に国道の案が事前の打診もなく会議で出てきたときは、ガーデンの真上に道が通るような案だったので、さすがにこれはひどいと思いました。ガーデンは自分たちだけで作ったものではないから。協力してくれたボランティアの方々の気持ちまで無視されたようで。一生懸命やってきたことが意味がないと判断されたような気持ちになって。」

 

「当時の行政(※3)は、「やってあげるから待ってて」というスタンスで、遅れれば「すみません」と謝る。住民は待つだけで、それだとどうしても受け身になってしまうというか。でも元々はお互いが町民同市仲良く子供会なんかもやってきた間柄。住民側の自分たちが能動的になればそれも解消されるんじゃないかと思いました。」

一旦は「どきません」と。しかし未来を見据えて・・・

「2015年まで何度かやり取りをして、一旦は「どきません」という結論にしました。計画ではガーデンの両側をかさ上げして道を2本通す計画でしたが、そうするとガーデンはちょうど窪地になってしまう。日当たりや環境を考えると植物にとっては良くない。将来的にも人が来てもらうようにするには・・・と未来を見据えて移転の決断をしました。」

 

バリアフリーのニーズ

「2016年の時点では、移転することは前向きに検討していました。津波で公園や小学校がなくなってしまったので、2014年あたりからデイケアの方がお散歩にいらっしゃるようになったんです。今のガーデンではレンガ造りの敷地には高低差があったり、通路幅が狭かったりしたので。移転を機にバリアフリーのニーズにも応えられるようにしたいと思ってます。」

 

2017年春、北限のオリーブ事業がスタート!

「2014年から試験栽培を始めています。東北だと栽培が難しい現状がありましたが、鹿除けの柵があり管理ができる場所ということでローズファクトリーガーデンが選ばれました。試験栽培を始めてから3年冬越しできましたので、今年から新しいガーデンの隣の敷地で、苗木110本を植え、石巻市としてオリーブ事業をスタートすることになりました。」
 

 

「鹿がいるので電気の柵を設置しています。道路と同じくらいの高さだったところに土を盛って。計3回土を持ってきたのですがなかなか土が良くなく、粘土質の土だったので土も変えて・・・堆肥やバークと燻炭とかを入れて。」

 

「3年木を持ってきて、花が終わり実も付きだしました。2,3種類のオリーブを栽培しています。事業として成立させ、新たな雇用を生み出すことで雄勝地方を活性化させていきたい。」

 

「向いはパークゴルフ場と子供広場を作るんだそうです。国の復興予算は残土を片づけて、盛り土をするぐらいまでしか出ないんで、あとは市やここを担う事業所が出てくれば進行していきます。ここいらは元々全部家でした。市営住宅があって、中学校があって。小学校があって。」

 

「元々は全部家でした。市営住宅があって、中学校があって。小学校があって。小学校と中学校はやっと新しい校舎が出来て(雄勝小学校、中学校、大須小学校、中学校が統合して併設された新「雄勝小学校・中学校」)。4月に戻ってきました。戻ってきたと言っても、ほぼ皆いなくなってしまったけれど。」

▼子供と一緒に取材へ伺ったので、にぎやかですみません、と言うと「いえいえ、普段は子供の声なんて聞こえないので。中学生が来るというと皆、見に来る。会いたくて。近所のおばちゃんたちは飴とか準備して待ってるから」と笑顔で教えてくれた。

 

ガーデンは花盛り

虫が沢山!

農薬などは使っていないので、虫はたくさんいます。食われたりすることもあるけれど・・・。岐阜の養蜂家の方が「いい蜂がいる!」とすごく褒めてくれました(笑い)。

▼蜂だけでなく、様々な種類のテントウムシやカミキリムシ、1cmちかい山アリなど様々な虫たちがいた。虫にとっても貴重なガーデンの花々。

 

「株はずいぶん大きくなりましたね。2012年にイチジクを植えてだいぶ大きくなりました。カラスとの競争!」

 

▼これは「カラスの餌です」。端に映っているユーフォルビアの仲間も大株になっています。

 

「好きなのはニゲラとかあのあたり。この間まではネモフィラがあったけれど時期も終わったので残念ですが抜きました。」

▼色とりどりのニゲラたち。優しい色合いがすてきなスペース。

 

福島から来たリンドウの花

「福島の浪江の方がリンドウの行き先が無いので、と寄付してくださったんです。」

▼まっすぐ育てるために木枠を組んでありました。

 

▼様々な色や花弁の数のクレマチスの大輪が見ごろでした

 

▼八重咲のクレマチスも!

 

▼ボランティアに来た方が雄勝石を使ったスレートに名前を書いて記念碑のように植物の前に挿してありました。

 

ボランティアを募集しています

雄勝ローズファクトリーガーデンでは、ボランティアを継続的に募集しています。

個人でのボランティアから、団体でのボランティアを受け入れるとともに、防災教育なども実施されています。

今後のボランティアは新しいガーデンの造成から、移植作業まで様々なことがあります。

ホームページにボランティア受け入れ概要が記載してあります。最新情報はFacebookのページで随時発信されています。

名称  雄勝ローズファクトリーガーデン
所在地  宮城県石巻市雄勝町字味噌作24-3
ホームページ http://ogatsu-flowerstory.com/
Facebook https://www.facebook.com/ogatsuflowerstory/
アクセス  三陸自動車道「河北IC」で降下、左折して国道45号線へ。飯野川大橋手前の信号機を右折して北上川(別名:追波川)の右岸堤防の県道30号線を東進して大川地区へ。旧大川小学校校舎の手前の三角地帯の信号機を右折して、雄勝町方面へ。釜谷トンネルをくぐり長い坂道を下って雄勝町に入ると、右手に白い木柵のローズガーデンが見えます。

※1 マヨイガ(迷い家)とは、訪れた人に、富や幸せをもたらすとされる、山の中の幻の家のこと。東北や関東などの民話や言い伝えに登場する。

※2 NHKの趣味の園芸50周年記念放映された「明日へ つなげよう 趣味の園芸50年記念『奇跡のガーデン 雄勝花物語』」のこと

※3 2014年当時。現在市所長は変わっています

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小野寺葉月

中高短で美術を学び、卒業後観葉植物も扱う雑貨店で店長、バイヤーを担当。産後LOVEGREEN編集部で季節や庭木、虫の記事担当しつつ、説明や挿絵などで再び絵を描き始める。Botapiiでもエディブルガーデン他のイラストを担当。縁あって現在はフィリピンのセブ在住。ダイビングリゾートで広報も担当している為、海の中やマクロダイビングの世界に夢中。魚より珊瑚やホヤ、海藻など植物寄りの世界が好き。勘と勢いで生きている。

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