南青山の花屋『PITZ(ピッツ)』花と骨董が組み合わさるオリエンタルな世界
渡邊ありさ
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東京、南青山のオフィスビルが建ち並ぶ街の一角に忽然と佇む花屋『PITZ(ピッツ)』。朱色の壁と、大きく揺れるのれんが印象的な店構え。この日、店主の藤井弘子さんにお話をお伺いしました。
『PITZ』の成り立ち
昔から五感で花が好きだった
岩手県出身の藤井さんは、花好きなご祖母様が育てるツツジや沈丁花など、様々な花に触れて育ちました。花の色や香りを五感で感じ、子供の頃から花の仕事を志していたと言います。それも、花屋になりたいではなく、花を綺麗に生けられる人になりたいという想いでした。
しかし社会に出た第一歩は、花に携わる仕事ではなく、一般企業への就職でした。その理由については「一度社会に出て、色々な人との付き合いやかかわりを勉強したかったんです。花って、お祝い、お悔み、お詫び、様々な気持ちを花で届けるものなので。人の気持ちをちゃんと分かるようになってから、花の世界に入ろうと考えたんです。」と教えてくれました。
そうして一般企業の会社員として数年務めた後に、いよいよ都内の花屋の門をたたきます。そこで8年間の修行を経て独立。表参道で花屋を営み、2002年に現在の物件と出会い、移転します。
植物と骨董品が並ぶ瑞々しく艶やかな空間
のれんをくぐり店内へ入ると異国情緒漂う空間。艶やかな器に、瑞々しい草花が生けられます。独特な世界観が広がる店内は、とてもこだわりがある店づくりのように感じますが、藤井さんは「特に強いこだわりとかがあるわけではないです。好きな花、好きな花瓶、好きな什器、テーブル。それいいかなって。」と、カラっとした様子で話してくださいました。
九谷焼や伊万里焼などの磁器も好きで、骨董店や骨董市などに出向いては買い付け、花を生けているのだそう。その品揃えは、馴染みのお客様からも「花好きの骨董屋」と言わせるほど。
また、木に塗った溜塗の漆の朱色が好きだという藤井さん。壁や扉、看板も朱色に統一しています。作業台として使われる李朝家具も漆の朱色。この深く美しい朱色は、『PITZ』を象徴する色とも言うことができます。
『PITZ』にならぶ草花
旬の食材で美味しいものを料理します。そんな花屋です。
『PITZ』の花の仕入れは藤井さんが全て担っています。仕入れる花の基本は藤井さん自身が好きなもの。そして綺麗だなと思うもの。
「うちは、その時々の旬の食材で美味しいものを料理して出す和食屋さんのような、そんなお店ですね。お客様も、この花なに?と驚き、喜んでくれる。そしてまた良いものがあったらそれで見繕ってきてと、任せてくれるんです。そうなると、信頼ですね。」
SNSなどを活用した自店のプロモーションに藤井さん自身はあまり関心がありません。「なにより生き物相手なので。感が鈍りそうと言うか、ちょっとした瞬間を見逃しそうな感じがするので、今が私にはちょうどいいんですよ。」 お客様の多くが、お得意様からのご紹介という『PITZ』では、日々その緊張感を大切にしているのです。
そんな藤井さんに好きな花を伺うと、今の季節ならと、かつてお母さまが育てていたという紫のテッセンと、アサガオを挙げてくれました。ちょうどこの日も店内には紫のテッセンが涼やかに生けられていました。
季節を感じられる枝ものも欠くことはありません。その奥には、好きだというアサガオの絵も。
長野から毎週届く自然の植物
『PITZ』には、長野のランの生産者さんから毎週ランが届きます。その際に、藤井さんのリクエストで、都内の市場では出回らない、山で採れる野性味あふれる植物も送ってもらっているのだそうです。
この日、スタッフの大上さんが珍しいものが入っていると言ってご紹介してくれたのは、100年に1度しか咲かないとも言われている竹の花 。こちらも長野から届いたものだそう。枯れる直前にだけ花をつけるという、滅多にお目にかかれない貴重な花を見せていただきました。
花の命をいただくという想い
『PITZ』には基本的に鉢物の植物は置かれません。この日並ぶ唯一の鉢はアジサイ。ただ、そのアジサイも切るため、生けるために仕入れられたもの。「そのとき(アジサイを切るとき)には、命をいただいていますよ。花って野に咲いている姿だけですごいきれい。でもそんな花も、一度命絶たれて市場に並ぶじゃないですか。ここに並ぶ花もそうですけど。それをまた生き返らせて、自分の技術で生けて、評価を得て、綺麗だと言われて散っていく。その過程がやめられないんです。」と、切り花に対する想いを教えてくださいました。
『PITZ』がつくる花
どの瞬間もアベレージは変えず、最大限のパフォーマンスをするだけ。
花を通して『PITZ』から、或いは藤井さんから人々に何かを伝えたい‟想い”があるかという問いかけに対して「そういうものは特にない。」と答える藤井さん。「花に興味があるから素敵とか、花に興味がないから素敵じゃないとか、そういうことではないですし。とりあえず花でも飾っとくかという人も、『PITZ』の花がだいすき!という人も、どういうお客様に対してもアベレージはいつも一緒です。ニュートラルにして、そのときに出来る最大限のものをつくるだけ。それをどう評価してもらえるかはその人次第。」と、独自の信念について語ってくれました。
そんな『PITZ』では、ブーケやアレンジメントをつくるときには、とにかく贈る先の人のことを詳しくヒアリングします。そうして、どんな人なのか、どんな花を好むのかをイメージするのだそう。「ある意味、占い師だね。」と、冗談めかして笑う藤井さん。大切なあの人に、そして自分自身に、『PITZ』の花を贈りたいと思わずにはいられません。
さいごに
さいごに、『PITZ』がつくる花の魅力と、その世界観の秘訣を藤井さんに伺いました。
「自分はどんな人間かと聞かれているようで難しいですね・・・。これまで、うちはこれだ!と言ったことはないですね。いつも暗中模索だから、それがいいんじゃないかな。これからも毎日勉強だなって思いますし、それがどういう世界観でどういう評価でっていうのは後からついてくるもので。なので、全てにおいて一人前とかいうレベルではなく、ちゃんとした‟プロ”というところを目指すために毎日勉強をしています。まだまだ勉強です。家のメゾネットのところで本を読んだりしていますよ。好きだからそれが出来るんだと思いますけどね。」
心から花を愛する藤井さんだからこそ成せるストイックさが垣間見られる瞬間でした。
純粋に心から花を愛する藤井さんが営む『PITZ(ピッツ)』。是非、お店を訪れ、生でその花の魅力を堪能してください。
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