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アサイーベリーを生食した話|山下智道の世界の文化と植物紀行#3

シャーマニズムが根強く残る土地や人と、そこで用いられる植物との関係を探求するシャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家の山下智道さんが、世界を旅する中で出会った文化や風習と植物の関係について紹介いただく本連載。今回はアマゾンでの薬草植物調査からのレポートです。人・土地・植物の知られざるつながりを覗いてみませんか?

アサイーボウルで人気のアサイーベリーを生食した話

南米アマゾンの街路樹で、ひときわ目立つものがある。まるでブルーベリー味のキャンディーのような見た目の実。アサイーである。

私は何度も海外の植物図鑑でこのビジュアルを見てきた。改めて思う、私は3歳の頃に植物オタクになってから、精神年齢が何ひとつ変わっちゃいない(笑)。

アマゾンの都市プカルパに到着し、ホテルの部屋に全身に背負った重い荷物を投げおろし、小走りでホテルの植栽をなめるように観察した。

そこで、子どもの頃から憧れだったアサイーと初対面を果たした。君のこと、知らないけど、知っている、そんな気持ちである。

憧れのアサイーと初対面。人気のスイーツ「アサイーボウル」はこの実のスムージーをベースに作られる

私は興奮して呼吸が乱れ、思うようにカメラのピントが合わずに、何度もトライしてようやくアサイーを撮影することができた。

いざ、アサイーベリーをそのまま食す

アサイーのベリー(実)を加工したものは、これまでにもアサイージュース、アサイースムージー、アサイーボウルなどで食べてきた。

ブラジル発の栄養価の高いデザートとして人気のアサイーボウル。アサイーのスムージーをベースに、フルーツやグラノーラなどのシリアルをボウルにトッピングしてつくる。

 

作成途中のアサイーボウル。紫色のペーストがアサイーのスムージー

アサイーボウルは日本の飲食店でもよく見かけるので、食べる機会も多い。しかし、木になっているアサイーベリーをそのまま生食するのは人生で初めてである。

私はまるでロザリオのビーズのように、たわわに実るアサイベリーを2~3個ちぎり、そのままほうばった。あまりの嬉しさと興奮のあまり、口に入れて思い切り噛んだ。……とその瞬間「グゥッッウェッ〜」と吐き出し、しばらく唾を地面に吐き捨てた(汚くてスミマセン)。

 

それもそのはず、アサイーベリーは、ほぼほぼ硬い種子がメインの構造で、外皮にうすーく、黒紫色の果肉があるのだ。

私はブルーベリーみたいなモノだと勝手に思い込み、それをカブリと噛んでしまったのだ。危うく奥歯の被せ物が破壊されるところだった。

現地では果の表面を削り、ペーストにしてようやく使用するとのこと。アサイーベリーの実はほとんどが種で、食べる果肉部分は約5%しかない。私達が目にするアサイーボウルには、一体どれぐらいのアサイーベリーが使われているのだろうか。このように、アサイーベリーは非常に希少価値が高いベリーなのである。

さらに、非常に劣化しやすいため、できるだけ早く搾汁しないと品質や風味が劣化してしまう。なんとも繊細なベリーだ。

これだけ扱いが難しくても、アサイーベリーはその栄養価の高さから、アマゾン周辺に住む先住民族インディオ(中南米の先住民の総称)に古くから重宝されてきた。

アサイーの和名は「ニボンモドキ」「ワカバキャベツヤシ」

アサイー(”Euterpe oleracea”)は、ヤシ科 エウテルペ属のヤシ科植物である。和名は「ニボンモドキ」で、ニボンヤシに似ていることに由来する。また、アサイーの生長点の芽を食用にすることから「ワカバキャベツヤシ」と呼ばれることもある。

原産地はブラジルの東部アマゾンで、川岸や湖沼のよく水に浸かる湿地に生え、高さ20~30mになって、頂上に長さ2mほどの葉を10~15枚つける。幹の直径は20cmほど。細身で真っ直ぐに伸びるヤシである。

1本の木に3~4個の房をつけ、各房から3~6㎏の小さい果実が採れる。直径2cmぐらいの果実で熟すと紫色から黒くなる。この実の色がアサイーボウルでよく見るブルーベリーのような紫色のもとである。

アサイーの語源にまつわる悲話

調べていると、アマゾンの伝承で少し面白い記事を見つけた。アサイーの語源の由来を辿るとさまざまな説があるが、中でも有力なのがアマゾンの先住民であるツピー族の伝説とされているそうだ。

ツピー族の悲話


その昔ツピー族の酋長が、食料不足対策として生まれてくる赤ん坊を犠牲にするという掟を出し、悲しいことに酋長の娘イアサに生まれた、孫である赤ん坊も殺されてしまった。悲しみに暮れたイアサは毎晩泣いて暮らした。

ある月夜の晩、イアサは外で赤ん坊の声がするのに気付き、近くの細長いヤシの樹の下で笑っている我が子の姿を見つけ、全力で走り寄って抱きしめたのも束のの間、赤ん坊はいつの間にか消えていなくなっていた。

イアサは悲しみのあまり泣きながら死んでしまい、翌日イアサの遺体は、そのヤシの幹を抱きしめた姿で見つかった。その死に顔は幸せそうに微笑んでいて、黒い瞳がヤシの幹にたわわに実る黒い実を見つめていたそうだ。

酋長は、その実でワインを作り、娘の想い出を込めてアサイー(イアサの逆語)と名付け、皆に飲ませた後、この悲しい掟は廃止したことに由来している。

アサイーはこうした伝承が生まれるほど、アマゾンの先住民族にとっては、大切にしたいスーパーベリーであったのだ。

さて、このアサイーベリーがアサイーボウルとして市場に出回るようになったのはなぜなのだろうか?

そのヒントはアサイーの味にある。アサイーはブルーベリー、クランベリー等と違い甘味等はほぼない、そのため、加工なしで食べる習慣はなかなか普及せず、何かしらの食べやすい方法を採用する必要があった。さまざまな試行錯誤から生まれたのがアサイーボウルというわけだ。甘味等がない代わりに、ほかの食材とマッチする器の大きさを、アサイーベリーは持っていたのだ。

アサイーを一躍有名にしたアサイーボウル

アサイーをスムージー加工し、バナナやイチゴ等フルーツを加え、グラノーラといった甘い食材を混ぜれば完成。至って簡単で美味い調理法である。アサイーの栄養を損なうことなく、アサイーを甘みと一緒に食べられる。結果としてアサイーボウルは人気のスイーツとして親しまれることが増えたのだ。

アサイーの主成分

アサイーベリーには、ブルーベリーの約4.6倍ものアントシアニンが含まれ、そのアントシアニンの中でも、「デルフィニジン」と「シアニジン(アントシアニジン)」が主成分となっている。

デルフィニジン(C15H11O7)
デルフィニジンはアントシアニジンのB環に水酸基(-OH)が3つ結合した構造で、植物の色素の1つであり、デルフィニウム属の花弁の青色を出している色素基本的にブルーの色素。また、カベルネ・ソーヴィニヨンの原料のブドウの赤紫色を出している色素でもある。デルフィニジンは植物において、抗酸化物質としての作用する。また、他のほぼ全てのアントシアニジンと同様に、デルフィニジンもpHによって色調が変化し、具体的には、塩基性の溶液中では青色、酸性の溶液中では赤色に色が変わる。


アントシアニジン(C15H11O5)
フラボノイドの中で、2-phenylbenzopyrylium (flacvylium)を基本骨格とする化合物群の総称である。その配糖体をアントシアニン anthocyanin と称し、水溶性植物色素の最も重要なものである。いわゆるアントシアニンの前駆体。


アントシアニン生合成経路
アントシアニンは、フェニルプロパノイド合成系から供給される4-クマロイルCoAと3分子のマロニルCoAを基質として、フラボノイド合成系酵素群によって細胞質中で合成され、アントシアニンの基本骨格となるアントシアニジンが合成さる。続いて、糖や有機酸がアントシアニジンに結合することで、アントシアニンと呼ばれる色素物質となります。このため、アントシアニンとはアントシアニジンが糖や有機酸で修飾された構造の総称であり、多様な構造が存在し、アントシアニンはアントシアニジンよりも構造的に安定しており、通常は植物体内ではアントシアニンの形で蓄積している。

 


シャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家 山下智道

生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。

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