宇宙の誕生と植物の辿ってきた道|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」①
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世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。楽しく真面目に植物や地球環境について考えてみませんか?
宇宙の誕生と植物の辿ってきた道
今月から色々植物や地球環境のことを徒然に書きたいと思い、「自然・植物よもやま話」を始めます。ここでの話は、あくまでも僕個人が現在考えていること、自分なりに理解していることなので、異論、反論も多々あると思いますが、あくまでも一つの考え方として、皆様の考えるきっかけに少しでもなればと思います。
まず初めに、植物の辿ってきた歴史を少し話してみます。みなさんはこの地球に最初に生まれた生命は植物だと思われますか?それとも動物でしょうか?
現在、地球上のほとんどの生命は植物が光合成で作り出した酸素を使って、植物が作り出した炭水化物やそこから作り出された様々な有機物を酸化させて、そのエネルギーによって生活しています。
6CO₂ + 6H₂O ⇔ C₆H₁₂O₆ + 6O₂
左側から右へは光合成、右から左が酸化エネルギー反応(生命活動)
しかし、原始の地球の大気や海には現在のような気体の酸素はなかったので、酸化エネルギーは使えませんでした。約46億年前に地球が誕生し、火の玉の地球が徐々に冷え始め、35億年ほど前にタンパク質が存在できる温度まで下がると、原始の海に生命が誕生しました。
でも、どのようにして生命が誕生したのかは未だに解明されていません。おそらく浅い海で雷のような電気ショックなどでタンパク質の原料が結びつき合い、最初の生命が誕生したと言われていますが、証明はされておりません。最近では、地球外から隕石などによって運び込まれたのではないかという人もいます。
ただ、現在の地球上のすべての生命の先祖は生きていく仕組みが一緒なので、ただ一つの生命から分化、進化してきたことははっきりしています。
その後25~30億年ほど前に、太陽の光エネルギーを使って光合成をする生命が地球上に現れ、酸素を作り出し始めました。それゆえ、最初の生命は植物ではなく、動物でした。
その後、シアノバクテリアという微生物が海の中で光合成をはじめ、大気中に酸素が出来始めたと言われています。その後、より効率の良い光合成細菌が大気中に酸素を放出しました。同時に少量のオゾンが作り出され軽いオゾンは10〜50km上空でオゾン層を作り、生命に有害な紫外線をカット、そのお陰で海の中から動物や植物である藻類(12億年前に出現)が4億5000万年ぐらい前に陸上に進出しました。
海から出た生命は、海岸から徐々に内陸(水のあるところ)へと広がっていきました。藻類から蘚苔類、シダ植物から種子植物(裸子植物から被子植物)と進化してきました。植物は少しでも太陽の光を独り占めしようと、他の植物の少しでも上に伸びれるように進化してきました。また一方では、いかに上手に安全に多くの子孫を残せるように、胞子から種子へ、裸子植物から被子植物へと進化しました。
約2億年前に、花を咲かせて種子をつくる種子植物があらわれました。最初は胞子や花粉を風に運んでもらう風媒花でしたが、その時すでにエビやカニから進化した昆虫類が地上にいたので、彼らと友達になって受粉を手伝ってもらう賢い植物(虫媒花)があらわれました。虫媒花は昆虫の気を引かなくてはいけないので、綺麗な花やいい香り、甘い蜜などで昆虫に受粉を手伝ってもらうようになりました。その後、多くの進化や分化が起こり、現在に至っています。
日本列島は2000万年前ユーラシア大陸から離れ始め、1500万年前に大陸から分離しました。その時に、多くの植物や動物も一緒に日本の上に乗ってきました。大陸から離れた日本列島は、暖かい気候と大量の雨、温帯モンスーン気候の下で進化、分化をしたことで、日本独自の植物(固有種)も現れました。その結果、現在は日本には世界に誇れる素敵な植物達がいっぱい自生しています。
ちなみに、少し人類について話をすると、人類は600万年ぐらい前に東アフリカに出現し、20万年前にアフリカから移動しはじめ(ネグロイド)が西アジアから一つはインド、オーストラリア(オーストラロイド)へと、もう一方はヨーロッパ(コーカソイド)からシベリア(モンゴロイド)、そして3万年ほど前に中国から日本へと拡散していきました。植物の辿ってきた長い歴史に比べれば、人類はまだまだ新参者ですね。
植物の辿ってきた歴史を私なりに大雑把に書いてみました。お互いのことを少しでも知ることができれば、我々と植物、少しずつでもその距離が縮まると思います。そのお手伝いができればと思っています。
次回からも植物や自然の持ついろいろな話をしていくつもりです。次回も読んでいただけたらと思います。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら
二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダット)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞獲得した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技師、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。