民間薬として重宝されてきた「ヘビイチゴ」|山下智道の日本の暮らしと身近な野草⑤
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野草研究家の山下智道さんに、日本で脈々と受け継がれてきた野草の使い方を連載形式で紹介いただきます。身近に見かける野草を、改めて見直してみませんか?
民間薬として重宝されてきた「ヘビイチゴ」
ヘビイチゴ( Potentilla hebiichigo Yonek. et H.Ohashi)は、バラ科キジムシロ属に分類される多年草の1種。
和名の語源についてはヘビがいそうな所に生育する、イチゴを食べに来る小動物をヘビが狙うことからなど諸説ある。毒があるという俗説があり、ドクイチゴとも呼ばれるが、無毒であり、古来から民間薬として重宝されてきた。
生薬名は蛇莓(ジャバイ)
生薬名は蛇莓(ジャバイ)と呼ばれ、全草を刈り取り乾燥させ、内服する。解熱、通経、咳止めに用いる。または焼酎などに一か月ぐらい漬け、虫刺されなどの痒み止めに用いる。
【主成分】
タンニン、トルメンチン酸、ウルソール酸。
トルメンチン酸は、アクネ治療薬に使われる成分で、過酸化ベンゾイルやサリチル酸よりも高いアクネ菌抑制効果を示すと報告されている。具体的には、アクネ菌の活性を抑制し、炎症性サイトカインの阻害効果を持つとされている。また、乾燥対策や保湿、肌荒れ防止、肌のコンディションを整えるなどの作用も期待される。
ウルソール酸
抗酸化作用や抗炎症作用、筋肉維持作用などが知られており、化粧品や皮膚外用剤に配合されることがある。特に、トリテルペン酸の一種として、抗酸化、抗炎症、メラニン産生抑制、コラーゲン再構築などの生理活性が注目されている。
蚊刺されに「ヘビイチゴチンキ」の作り方
【材料】
ヘビイチゴ又はヤブヘビイチゴ 30g
ウォッカ 200ml ※35度以上の焼酎でもOK
【作り方】
1. ヘビイチゴを収穫し、軽く水洗いする。水分が残っていると、アルコール度数が下がり、漬けた時に雑菌が湧く原因になるので、しっかり乾かす。またはペーパータオルで丁寧にふき取る。
2. 保存容器にヘビイチゴを入れた後、ウォッカを注ぎ、一か月したらヘビイチゴを取り除く。ヘビイチゴのチンキは、10ml程度の小さなスプレー容器に入れて、蚊に刺された場合に痒み止めとして用いる。
ヘビイチゴの特性
最近の遺伝子解析の結果から、ヘビイチゴはキジムシロ属に非常に近いものであることが明らかにされ、ヘビイチゴ属 Duchesneaからキジムシロ属 Potentillaに変更され、新名がつけられた(2008年)。
茎は走出枝となり、地を這って広がる。葉は3出複葉、長い葉柄があり、基部に托葉がある。
小葉は黄緑色、先が円く、頂小葉は長さ1.5~2.5cmの広卵形~菱形状広卵形、ときに切れ込みが入り、5小葉に見えることも多い。葉縁は重鋸歯となることが多い。花は黄色の5弁花、直径1~1.5cm、長い柄の先に1個ずつつく。花弁は長さ2.5~5mm幅が広く、倒心臓形(ハート形)。雄しべは20個、葯は黄色。雌しべ多数。萼片(内萼片)は長さ3~5mm、5個つき、三角状。その外側の副萼片(外萼片)は5個つき、長さ3~7mmの葉状。
花を上から見ると下の副萼片は垂れ下がってほとんど見えないことが多い。実は偽果と呼ばれ、肥大した花托である。偽果は直径8~12mm、表面には細毛がまばらにあり、色が白っぽい。偽果の表面につぶ状に並んでいるのは痩果である。痩果の表面にはこぶ状の突起がある。果期には普通、花は見られない。2倍体(2n=14)。花期は4月~6月。
類似植物
類似植物には、ヤブヘビイチゴ、ヒメヘビイチゴ、オヘビイチゴがある。
・ヤブヘビイチゴは、果床が濃赤色、光沢があり無毛、葉も濃緑色
・ヒメヘビイチゴは、実がうす茶色のつぶつぶになり赤くならない、葉の裏側が薄緑色
オヘビイチゴは、花が茎に数個つき、小葉が5枚。
類似種のヤブヘビイチゴチはヘビイチゴより全体に大型で、葉が濃緑色、小葉の先がやや尖り、偽果は大きく、表面が赤く光沢がある。また、痩果の表面も平滑で、光沢がある。ただし花や偽果の大きさがヘビイチゴに近いものもある。12倍体(2n= 84)。
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの雑種は7倍体、8倍体(2n=49,56)であり、アイノコヘビイチゴといい、両者の中間的な形質を示し、偽果も痩果もできない。
野草研究家 山下智道
生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。