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佇む聖夜|美村里江さんのムーミンコラム♯9

父方は仏教、母方はクリスチャン。というハイブリッドな環境で育ったため、12月前からソワソワする癖が未だに残っております。子供の頃はさらなる熱量を持って過ごしておりました。何しろ普段は誕生日以外おもちゃなど買ってもらえないのに、この時だけは祖父母・伯父・伯母1・伯母2と、4つもクリスマスプレゼントをもらえたのです!(+ サンタクロースからも!)

我が家のクリスマス事情に限らず、日本人は旬を楽しむ民族です。

「女房を 質屋に入れて 初鰹」なんていう江戸時代のトンデモ俳句もありますが、そうまでして初物・旬物を味わいたい。世界がクリスマスで輝くならば、我々も楽しもう!というこの気質は、軽薄と言われることもありますが、個人的には楽しみ上手で良いなぁと思っています。

本格的なクリスマスに憧れつつ、大きなツリーを飾るのはなかなか難しい日本の住宅ですが、玄関先のリースなどにも工夫があり、度々見惚れてしまいます。ヒペリカムやサンキライ、姫林檎にバラの実など、赤い実が針葉樹のグレイッシュグリーンにあしらわれると本当に美しい。鉢植えでは、ポインセチアなどがお見事なまでにクリスマスカラーですね。

緑と赤のクリスマスカラーで親しまれるポインセチア

ムーミン谷のクリスマスについては、そのままズバリ同名のコミックス5巻『ムーミン谷のクリスマス』があります。(ちなみに同巻収録の「預言者」も、私の大好きなスティンキーとミムラがたくさん登場するお話、おすすめです。)冬眠の時期なのに眠れないムーミン一家が、自主的に「起きたまま冬を過ごそう」と決め、最初は家族だけで楽しもうとしますが、退屈してきてお客様の来訪が待ち遠しくなり、訪ねていったおばさん宅でクリスマスの準備に巻き込まれていきます。

小説では『ムーミン谷の仲間たち』内の「もみの木」で、雪かきしてムーミンやしきの屋根裏部屋へ入ってきたヘムルから、「クリスマスが来るぞ!」と起こされ、うず高く積もっている雪に驚いたり、モミの木やその飾りつけ、クリスマスのごちそう、プレゼントなどの準備に奔走。

 

小説「ムーミン谷の仲間たち」より

スタートこそ能動か受動か対照的ですが、どちらもムーミン一家は「冬に不慣れ」であり、クリスマスについて多々誤解も挟みつつ精一杯やってみようとはするのですが、「なぜこんな苦労を?」という不思議が漂っています。クリスマス準備で忙しい周囲の人々が、全く幸せそうじゃないからです。

作者のトーベ・ヤンソンの意図するところはわかりませんが、確かにクリスマスに限らずイベントを完璧にしようと張り切って、準備の段階でブツブツ文句を言ったり、殺気立ってしまう人々というのは一定数いますね。

思い返せば私も、クリスマスを「ちゃんとやろう」と思っていたのに、当日仕事で帰宅が遅くなって準備が追いつかず慌ててしまい、夫に「なんでも大丈夫だよ」と慰められたことがありました。(しかもそんな気遣いの言葉すら「なんでもって、こっちは頑張っているのに」とダメージを受けてしまう不毛ぶり……。)

子供の頃のクリスマスがとても楽しかった分、一緒に過ごす家族や友人にも楽しんで欲しいと張り切りすぎて空回っていたんですね。イベントは等身大で無理せず気軽に楽しむに限る、と気づくまで結構かかりました。

今は無理せず、テーブルにちょっとクリスマスらしい雰囲気のブーケを飾り、いつもよりほんの少し手の込んだ煮込み料理や、手作り・購入問わないちょっぴり良いデザート、発泡するなんらかの飲み物を用意できればもう万々歳です。

 

小説「ムーミン谷の仲間たち」より

トーベはプロテスタントの家庭に育っていますが、作品に宗教観は濃くなく、もっとマクロで個人的な幸福に重点を置いている気がします。

しかし、クリスマスの精神といえる「与えること」も描かれていて、「もみの木」では初めてのクリスマスプレゼントに悩んだムーミンたちが選ぶものにそれが現れています。どれもかなりの貴重品ですが、一番わかるのはスノークのおじょうさんがため息をつきつつ包んだ“足輪”でしょうか。あれほどアイコニックなものを包むとは……。

さらに、クリスマスに憧れる「小さなクニット」とその親類たちに、ここまで苦労して準備したクリスマスツリーやごちそう、プレゼントを「みんなきみたちにあげるよ」というムーミン。本格的なクリスマスに憧れていたクニットたちは大喜び! と同時に、やることの多いクリスマスに疲れていた一家は、その荷を下ろしてホッとしたのでした。

ムーミンたちの用意したツリーのてっぺんが星飾りではなく、シルクのバラであったことについて、「考え方さえあってれば、それがあってもなくてもたいしたちがいはないんじゃないですか」というクニットの言葉は、イベント時に空回りしていた若かりし自分に贈ってやりたいものです。

皆様も年末年始のイベントで何か困ったら、この名言を思い出しつつ楽しく乗り切ってください。

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今年も世界には様々なことがありました。

各国それぞれに歴史や立場があります。アジアの中の日本。北欧の中のフィンランド。時事問題を語る場ではないので詳細は省きますが、先日のニュースから在日本大使館のSNSに投稿されたフィンランド首相の言葉、「平等とインクルージョン(包摂性)を大切にするフィンランドの価値観」はムーミン世界に通じ、とても素敵だなと感じました。

来年はどんな一年になるかわかりませんが、私のムーミン関係愛読書の一冊、『ムーミン谷の絵辞典 英語・日本語・フィンランド語』より、少しでも心安らぐ年末、そして新たな年を祝って。

 Nyt järjestämme isot juhlat!(ニュット ヤルイエスタンメ イソット ユフラット)

さあ、盛大にお祝いしましょう!

 

日本の縁起担ぎ文化からも、「難を転ずる」南天で、読者の皆様の厄除けと無病息災を願って終わります。

前述「もみの木」ではクリスマスの時点で「もはや二、三か月眠っていましたが」、と表現されていたムーミン一家。もしも9月半ばから春まで寝ているとなると、年の半分は冬眠!?という驚くべき生態です。

実際はどうなのか、年明けはムーミンたちが眠っている方の冬を覗いてみましょう。

 



美村里江さん(俳優/エッセイスト)

川は流れて|美村里江さんのムーミンコラム♯6

2003年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。ドラマ・映画・舞台・CMなど幅広く活躍。読書家としても知られ、新聞や雑誌などでエッセイや書評の執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。近著には初の歌集「たん・たんか・たん」(青土社)がある。2018年3月、「ミムラ」から改名。

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