夏でもエアコンに頼らない暮らしを実現|自然の力を借りた庭づくりとは?
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庭に出たとたん、むわっとした熱気に襲われる――。庭は住まいのなかでも、酷暑の影響を最もダイレクトに受けてしまう場所です。でも、そんなネガティブな「庭の気候」をポジティブに変換する試みも。
「日本一暑い街」ともいわれる埼玉県熊谷市にある「花音の森」(カノンノモリ)では、「自然の力を味方につけることで、暑さをしのぎながら、より豊かな日常を送る」--そんなチャレンジをはじめて7年になります。
ガーデンデザイナーでもある代表の堀 久恵さんに、お話を伺いました。
日本一暑い街で、エアコンに頼らない暮らしを実践

ごく普通の戸建てが立ち並ぶ住宅街の一角に、雑木林風の庭に溶け込むような一軒の家が現れます。
たくさんの木々が茂る庭には、鬱蒼とした雰囲気はなく、むしろ明るく開放的な雰囲気。緩やかにカーブして先の見えないアプローチが、その奥の庭へと来訪者をいざなう――。“エアコンに頼らない庭”を実現している「花音の森」です。
20代からの紆余曲折を経て、30代で起業、40代で花音の森を立ち上げた堀さんは、どのようにして今の庭に行きついたのでしょうか。

花音の森の堀 久恵さん
――花音の森では「夏でもエアコンに頼らない庭」を実践されているそうですね。
そうなんです。私は生まれも育ちも埼玉の熊谷市なのですが、昔から暑いことで有名でした。特に近年はエアコンをフル稼働しないと生活ができないほどの酷暑。「このまま、この土地に住み続けられるのかな」と不安を抱くほどでした。
もちろんエアコンを使えば室内はすぐに涼しくなるし、この酷暑では不可欠だと思います。でも、エアコンの室外機から出る熱風が、ヒートアイランド現象をさらに悪化させて酷暑の悪循環を生みますし、私は冷え性でエアコンをつけっぱなしだと体調を崩しがちで。でもエアコンを止めたら暑くて生きていけない……。これってどうにかできない?って考えるようになりました。
――庭の工夫で暑さを和らげる発想に至ったのは?
花音の森をつくったのは2020年なのですが、当初は築40年の家が建っていました。
リフォームするか、建て直すかで迷ってハウスメーカーに相談に行っても「え!エアコンのない家!?」と当たり前のように驚かれて。選択肢としては、密閉した全面空調ぐらいしかない。でも締め切った家って息苦しいし、私は毎日新しい風を取り込んで生活したいなあと。
その頃、ある建築士さんと話す機会があり「うちは建物の工夫で、そんなにエアコン使ってないですよ」と聞いて。「あ、新築なら実現できるのかも」と思い、エアコンに頼らない生活が一気に現実味を帯びていきました。
壁・窓・屋根に直射日光を当てない
――具体的には、どのような工夫をされているのですか?
「建物(家)の工夫」と「庭の工夫」に分かれるのですが、庭の方のお話をしますね。
庭の基本設計では、アプローチのある北側から南側にかけて遮蔽物を置かず、「風の通り道」を確保しました。南側を開けることで日当たりと風通しを確保し、植物が健やかに育つように配慮しています。

――たしかに風が抜けて気持ちがいいですね。
人にも植物にも「熱気を滞留させない」ことが大切です。あとはシンプルに「窓と壁と屋根に直射日光が当たらなければ涼しいはず!」という考え方で工夫をしています。例えば……

リビング直結のパーゴラには、ブドウを這わせて天然のオーニングに。適度な木陰ができて、リビングの窓から直射日光が入るのを防いでくれます。

ウッドデッキのすぐそばにも広葉樹を植えて木陰をつくっています。リビング前の庭エリアは、できるだけ多く木陰を作ることを意識していますね。これだけでずいぶんと暑さを軽減できます。

地面はダイコンドラのグランドカバーで地温の上昇を軽減。雨のぬかるみ対策にもなりますよ。
屋根の上も、庭!
――屋根に草が生えているのですが、あれは一体?

「草屋根」です。屋根に芝生や植物を植栽して建物内の温度上昇を軽減する屋根ですね。
最初は芝生を張っていましたが、芝を刈り込んで綺麗に維持するのが大変で。今は自然な草が生えるに任せて、年に2回刈り込みをする程度です。屋根の上の「第2の庭」といった感じで、ここでお茶をしたり、寝ころんだりしても気持ちいいんですよ。
――屋根の上の水やりはどのように?

冷たい井戸水をくみ上げて自動潅水にしています。冷たい水が土中に蓄えられるので、屋根が冷えて室内の温度も上がりにくいです。

草屋根にしているのは日が当たる南側だけ。北側の屋根に立ってどんぐり採りに夢中の堀さん。ほっこりとした光景です
――実際にこの数年は、エアコンに頼らない暮らしを?
庭の工夫に加えて、建築士さんと相談して断熱性や気密性なども整備したおかげで、エアコンがなくても生活できていますね。
庭の落葉樹のおかげで、夏は葉が茂り強烈な日差しを遮る一方、冬は葉が落ち、暖かい日差しが差し込みます。季節とともに変化する緑が、天然のカーテンとなり、室内を過ごしやすい温度に保ってくれています。あ、ちなみに冬は薪ストーブで暖をとっています。
朝は木漏れ日と通り抜ける風、鳥の鳴き声で、自然に目が覚める環境も整ってきました。
もともと冷え性でエアコンが苦手でしたが、自然の風や木陰を最大限使うことで、扇風機等で夏を過ごせています。
庭からゴミを出さない「循環する庭」

――花音の森を見ていると「循環する庭」という言葉が浮かびます
ありがとうございます。意識しているのは「庭から極力ゴミを出さない」ということですね。剪定した枝や落ち葉も、ゴミと思えばゴミですが、工夫すれば庭でいろいろと活躍してくれるんです。
――例えばどのように?

剪定した枝は、支柱や土止めに使っています。ナチュラルな雰囲気になりますし、脱プラがいわれている現代ですから、できるだけ庭にあるもので工夫することを心がけています。
――落葉樹が多いので、落ち葉の掃除も大変では?

ゴミとして捨てるとなると、袋に入れたり、ゴミ捨て場に出したりと大変ですよね。私は庭の一角にまとめて腐葉土化させています。かき集めるだけなので楽ちんですよ。
庭との付き合いは毎日のこと。無理せず長続きするお手入れ方法が大事だと思っています。
――庭の植栽について教えてください

庭木は、日本の雑木林に昔から生えているような木が多いですね。コナラ、カシ、ヤマボウシ、アカシデ、エゴノキ‥‥などなど。広葉樹が日差しを適度に遮ってくれるので、年々雑草も生えにくくなっています。
低木としてクロモジやコデマリ、下草にギボウシやリーフ類を。いずれも一年草のように、こまめな手入れや植え替えが必要のない植物ばかりです。
「日々の手入れは最小限に」ーー。それが今の私がたどり着いた庭との付き合い方です。
誰のための庭?自分が楽しめる庭!

――これはあくまで印象の話ですが、今の庭は「ガーデニングを楽しむ」か「コンクリートで固めた駐車場」の2極化になっている気がします。堀さんにとって庭はどのような存在でしょう?
私にとって庭は「自分が楽しむための庭」ですね。
玄関先を花で飾るのも楽しいですが、私は人に見せる場所より、リビングから眺める庭など「自分が一番よく目にする場所」をきれいにしておきたいですね。
南向きに大きな窓を配して、庭全体が眺められるようにしたのも、そうした意図からです。

――リビングの窓いっぱいに緑が広がるのは気持ちがいいですね。
そうなんです。あと庭木って庭の奥の方に植えることが多いと思うんですが、私はリビング前のウッドデッキのすぐそばにも広葉樹を植えています。それこそ手を伸ばせば木が触れるぐらいの場所です。

リビングに入る日差しを遮るという意味合いもありますが、好きな植物だからこそ間近に見たり、触れたりできる場所に植えておきたいんです。
たまにドングリが落ちてきて頭に当たったりもしますが……それも楽しい(笑)。
――さきほど頂いた、庭で摘んだレモングラスのハーブティーも美味しかったです。

よかった!(笑)
一杯のハーブティーが美味しい。吹き抜ける風が気持ちいい。デッキで寝ころんだ時の木漏れ日にウトウトとなる……。庭って、そうした小さな喜びの積み重ねでいい、というか「積み重ねがいい」と思うんです。
そう思えるのは、20代の頃から植物とさまざまな形で向き合ってきた経験があるからかもしれません。
暮らしに密着した植物の取り入れ方を伝えたい
――20代の頃は、植物について幅広く学んだそうですね。
植物全体に興味があって、家庭菜園や一年草のガーデニング、バラ栽培など、ひととおりの植物ジャンルを経験しました。
ただ、植物の講座って「ハイライト」だけを切り取る内容が多いんですね。講座だから仕方ないのですが、「収穫だけ体験」「満開だけ楽しむ」「寄せ植えをつくって終わり」みたいな感覚に違和感を覚えることもありました。
――実際には庭や植物とは毎日向き合うわけで……。
そうなんです。「寄せ植えを作って終わり」とか「枯れたら捨てる」ではなく、「暮らしに結びついて実用的」で、「無理なく続けられる植物の楽しみ方」にフォーカスしたい。そんな風に考えるようになっていきました。
20代の頃にハーブやアロマセラピーを取り入れ、自分の暮らしの中で植物の力を実感した経験も、今につながっています。
ーー「暮らしに緑をいかに生かすか」を追求しはじめたのですね。
それを他の方に分かりやすく伝えるためには、私自身が植物の力を借りながら暮らしている様子をお見せできる場所があったほうがいいなと。
「掃除の時には、ハーブの精油をこうして活用しています」とか、見た人が自分ゴト化しやすいように発信していく場所。それが「花音の森」ですね。
庭は一度つくったら終わりではない
――最後に、花音の森のような庭づくりをしたい方へメッセージを。

「この植物を植えたい」から始まる庭づくりも楽しいのですが、花音の森は、もう少し引いたところから考えています。ガーデン施工をさせていただくときは、施主さんのお宅に伺って、部屋の中から見た庭の様子や、風通し、日当たりなど、庭と建物を総合的に見てご提案します。もちろん、木々が生長した後のメンテナンスのことも考えて。
家の条件も、そこで暮らす人のライフスタイルも違うから、決まったハウツーはないんですよね。でもそれは、正解がひとつじゃないということ。同じ家でも、子育て中、子どもが巣立った後、年齢を重ねてからと、庭に求めるものは変わっていきます。だから庭は一度つくったら終わりではなく、暮らしに合わせてリフォームしていいもの。そう考えると庭の可能性は無限です。
その無限の中で軸になるのが「どんな暮らしがしたいか」だと思っています。私自身は、軽井沢の雑木林が心地よくて、「自分の家を軽井沢にしよう!」と思って花音の森をつくってきました。
皆さんも、「今の自分にとって心地がいい庭ってどんなだろう?」から妄想してみると、「こうしたい!」が湧いてくるかもしれませんね!
about「花音の森」

「植物と共生する持続可能で心豊かな暮らし」を提案・実践する庭づくりのアトリエおよび、植物の教室。日本一暑い街ともいわれる熊谷市において、自然の力を活かしてエアコンに頼りすぎない涼しい環境や暮らしの工夫を実践。主な活動は「 庭づくり・ガーデンデザイン」「生活に役立つ植物の教室」「 寄せ植えレンタル」など。代表の堀さんをはじめ、アロマ調香デザイナーや一級エクステリアプランナー、庭・外構の職人さんたちがひとつのチームとなり、庭づくりから教室までを手がけている。





































