あの人の庭⑥|会話の中心は庭のこと。60代夫婦がたどり着いた「自分たちのための庭空間」
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「歳を重ねて外出がしにくくなっても、庭で自然を感じられるからーー。」
今回訪ねた庭主さんが口にした、印象的な言葉です。
自分のことを振り返る暇もないくらい夢中だった子育て期を終え、60代を迎えた佐藤さんご夫婦。いつしか夫婦の会話の半分以上を庭のことが占めるようになりました。そんな二人が、自分たちのための庭をつくり上げてきた歩みを訪ねます。
子育てが終わり、夫婦二人の庭時間が始まる

東海地方の戸建てで暮らす佐藤さんご夫妻が、今の家に引っ越してきたのは25年前。奥様の千恵子さんが35歳、旦那様が40歳の頃でした。
当時は子育ての真っ最中。「目の前のことに夢中で、あっという間に過ぎ去った日々だった」と、千恵子さんが思い返しながら笑います。
子どもたちが独立して、再び夫婦二人の暮らしになった今、二人の会話の半分以上は庭のことだそう。ウッドデッキに程よい距離感で置かれたアウトドアチェアーからも、夫婦の心地よい距離感が感じられます。
木々に囲まれた落ち着いた庭を眺め、旦那様が豆から挽いて淹れたコーヒーを頂きながら、今の庭にたどり着くまでの紆余曲折をお聞きしました。

ご夫婦が庭で楽しむコーヒーカップ。右の旦那様のカップは欠けた箇所を漆で継いで使っているそう
ーー引っ越した当初、庭には古い柿や梅の木が植えてあり、他は手つかずの状態だったそうですね。
そうですね。当時はガーデニングの情報も少なく、仕事や家事、子育てに忙殺されていたので、園芸といえばパンジーを鉢植えする程度。きれいな花壇をつくることもできず、とりあえず何か緑を!と、アイビーやワイヤープランツを植えるものの、雑草と交じって、モサモサになってしまうような状態でした。

引っ越した時から植えてあった柿の木。長年風雨に耐えた木肌は、風格ある盆栽のような趣に
ーー憧れの庭暮らしのはずが、雑草だけが育っていく。庭づくりの最初で多くの人が直面するフェーズですね。
まさにそうです。ただ、それでもまずは庭木で庭を囲みたいという思いはあり、ホームセンターを回って、ジューンベリー、シマトネリコ、斑入りマサキ、落葉ヤマボウシなどの樹木を買って、自分たちで植えました。
ーーどうして庭木をたくさん植えようと思ったのですか?
庭を落ち着ける場所にしたかったんです。庭木があれば、周囲の視線を緩やかに遮ってくれ、人目を気にせずくつろげるんじゃないかと。
夫は昔からインドア派で、部屋で本を読んだり、コーヒーを飲んだりして過ごすのが好きなタイプでした。以前住んでいたマンションでも、部屋に観葉植物を置いたりと、家で快適に過ごせるように工夫をしていました。いつかは庭で植物を眺めながら過ごしたいのだろうなと感じていましたし、私もいつかは家でゆっくり過ごせる日々がくればいいなと思っていました。

引っ越した頃に旦那様が植えた20年選手の庭木たち。適度な目隠しと木漏れ日がくつろぐ庭の土台になっている
自分たちの手で、少しずつ理想の庭へ
ーー忙しい日々を送りながら、どのようにして今のような庭をつくってきたのですか?
大きな転機となったのは、もともと庭に植えてあった梅の木の伐根です。
毛虫が多く発生して、まだ小さかった子どもたちにも危険だったので、処分を決めました。
その際、「できる限りの作業は自分たちの手でやりたい」という考えがあったので、お願いした作業だけに柔軟に対応してくれる造園業者さんを探してお願いしました。

ーーできる限り自分たちで庭作業をしたかったのはなぜですか?
綺麗に完成した庭をポンと渡されるよりも、手入れする過程も楽しみたかったんです。
素人なので失敗も多いですが、それが経験になっていきますし、庭に変化が起きても、自分たちで作った場所なら自力でどうにかできます。
当時は自分たちでできることも限られていたので、コンクリート舗装や芝張り、庭への入り口にあるアイアンアーチなどはプロにお任せしつつ、レンガ敷などは業者さんに道具をお借りして夫が施工しました。

自分たちで施工した庭の通り道。防草シートを敷いて砂利と枕木を組み合わせて歩きやすい
SNSでの出会いから、弾みがついた庭づくり
ーー今では「維持する庭」から、夫婦二人で積極的に「自分たち好みの庭」をつくられています。
きっかけはコロナ禍に、10年ぶりに木製フェンスを作り直したことです。余った端材でベンチや小物を作る中で、インスタグラムでとても素敵な庭づくりをされている方に出会い、縁あって庭づくりのアドバイスを頂けるようになりました。
ーーどのような点を「素敵な庭」だと感じたのですか?
花壇に満開のお花を咲かせる方はたくさんいたのですが、その方の庭は「落ち着いていた」んですね。派手さはないけれど、なぜか心が安らぐ。
樹木や宿根草など、ゆっくりと育つ枝葉が中心の庭だからかな?と考えながら、「あ、私も夫も、こういう落ち着いた庭が好きなんだ」と気づきました。

ーーそこから庭づくりに弾みがついたのですね。
そうですね。最初の頃はインスタグラムのメッセージで、「この鉢植えを右に10cmずらして置いたほうがいいですか?」とか、とんちんかんな質問ばかりして、困らせたと思います(笑)。
でも、庭の理想はあるけれど「どこから手をつけていいかわからない」状態だった私にとって、伴走してくれる方の存在は大きな支えでした。
夫も低木の買い出しや伐根などを手伝ってくれ、真夏にもかかわらず夢中で作業するほど楽しかったです。

ーー植物の手入れも、最小限で済むような庭にされています。
花壇が広いと手入れが大変なので、基本は頻繁な手入れが不要な庭木や低木をベースにしています。
今は庭の9割近くを樹木が占めていて、残りの植栽スペースだけどうするかを考えれば良くなったため、「お世話に追われない庭づくり」が実現できていると感じています。

剪定した枝でつくった「バードネスト」は、庭木の落ち葉もざっと集めておけて便利
花を植えるより先に、庭の骨格を作ることが大切だった
ーーその後もご夫婦の庭への情熱は冷めずに、試行錯誤を続けてきたそうですね。
インスタグラムでアドバイスを頂く中で、「花を植える前に、庭の骨格を考えることが大切だ」と気づきました。
ーー庭の骨格とは?
庭の構造物の配置や、全体のレイアウトですね。ガーデンデザイナーさんが描くパースのようなものでしょうか。
庭があると、まず花壇に草花を植えたい!となるし、私もそうでした。でも、庭でトライ&エラーを繰り返しているうちに、「最初にエリアごとの目的や役割をイメージしておけば良かった!」と思うことが多くて。
そうすれば、後々のメンテナンスがもっと楽だったし、庭もきれいに保ちやすかったなと。ただこれも、試行錯誤を重ねたからこそ感じることですが。

実用性とデザインを両立したホースリール。ウッドデッキの柵にスコップをかけるなど収納も合理的
ーーDIYで施工した場所や構造物が多いですね。完成度の高さに驚きました。
庭づくりの方向性が見えてからは、次々とアイデアがわいてきまして。庭にDIYでいろいろなものを作ってきました。といっても、私は主にアイデア担当で、実際に作るのは夫ですが(笑)。私のアイデアをいつも形にしてくれた夫の協力があったからこそ、今の庭があると思っています。

DIYでつくった物置とベンチは、裏手にある生活感を感じる洗濯干しエリアを隠す役目も
庭での小さな出来事に心が動く
ーー庭ではどのように過ごすことが多いですか?
「今日はこれをやろう」と決めている日は、それぞれ作業をして、途中でコーヒーを飲んで休憩したり。
特に予定がない日は、ウッドデッキの椅子に座ってコーヒーを飲みながら、「あの枝は切ったほうがいいかもね」「最近、よくあの鳥が来るね」といった会話を楽しんだりしていますね。
あと、庭では日々小さな出来事が起きていて、それを観察するのも楽しいですよ。
ーー例えばどのような出来事が?
庭木の鳥の巣にシジュウカラが卵を産んだのですが、それがヤモリかな?に食べられてしまったり。別の日には、巣から落ちたヒナを見つけて、巣に戻してあげたり。
玄関の物陰に隠れていたアオバトと目が合って、お互い驚いて固まってしまったこともあります。アオバトを見るのが初めてだったのでびっくりしました。
最近では、おそらくハクビシンかな?と、ブドウを巡る攻防を続けていました(笑)。ブドウをいつも盗られるので、つるつるしたクリアファイルで実を保護したらようやく諦めてくれました。
本当にささいなことばかりなのです。でも、驚いたり、なごんだり、喜んだり、庭での出来事に心が動くんですね。
今の私たちの会話は、半分以上が庭のこと。

ーーお二人にとって、これからの庭はどのような場所になりそうですか?
子どもたちが独立して、再び夫婦二人の生活になりましたが、今の私たちの会話の半分以上は庭のことです。もし庭がなかったら、どんな会話をしていたんだろうと思うほど、共通の楽しみになっています。
これから年齢を重ねて外出が大変になっても、庭があれば四季の移ろいや、訪れる鳥や虫などの生き物を感じながら、生きていけるんじゃないかと思っています。
佐藤さんご夫妻 プロフィール

愛知県の一軒家で、庭木を中心にした「お世話に追われない」庭づくりを実践中。「できる限り自分たちで」をモットーに、庭の大半をDIYでつくり上げてきた。60代を迎え、夫婦二人で落ち着いた庭暮らしを楽しんでいる。








































