アマゾンの奇跡の血「サングレ・デ・グラード」|山下智道の世界の文化と植物紀行#8
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シャーマニズムが根強く残る土地や人と、そこで用いられる植物との関係を探求するシャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家の山下智道さんが、世界を旅する中で出会ったと文化や風習と植物の関係について紹介いただく本連載。人・土地・植物の知られざるつながりを覗いてみませんか?
血のような薬木の樹脂「サングレ・デ・グラード」
サングレ・デ・グラード(Croton lechleri)は、トウダイグサ科クロトン属の木の樹皮から出てくる血のような樹脂で、南米アマゾンの奇跡の赤い血と呼ばれる。リュウケツジュやキリンケツヤシに比べると少し薄いが、まさに血のような色の樹脂である。
トウダイグサ科は基本的に有毒成分の乳液を出すイメージがあるが、このクロトン属の樹脂はまさかの赤色で個人的に非常に驚かされた。樹脂といっても固形ではなく、粘りが強いとろりとした液体タイプで、先住民族たちは化膿した傷口に液体絆創膏として重宝してきた。
先住民の各家庭の薬箱には、必ずといっていいほどこのサングレ・デ・グラードの樹脂が容器に入り、火傷や虫刺されの化膿止め、出産後の止血、消毒、抗炎症に用いるほか、どこまで信憑性があるから分からないが、下痢や胃潰瘍などの内服薬としても使用していたそうだ。
ジャングルから山採りした木を、シンボルツリーにする民族もいるぐらい、アマゾン先住民たちを支えてきた薬木なのである。
現代コスメなどにも用いられる成分
主成分にタスピンを含む。タスピンは、イソプレンという炭素5個の単位が4つ結合した、炭素数20個からなるジテルペンで、現代でもコスメなどに用いられる。現地の市場でも、サングレ・デ・グラードの樹脂は液体容器に入って売買されており、「アナコンダの油」「コパイバマリマリ」などとともに薬草市場に並ぶ。
栽培も盛んで、ペルー・アマゾンのサンマルティン地域、ワヌコ地域、フニン地域で栽培されており、木が育って5年経つと樹液の採集が可能とされる。抽出されたばかりの数滴を手にとると、人間の血液の色と血糊の粘液質に似ていることから『木の血』と呼ばれている。
シャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家 山下智道
生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。