生ごみを捨てない暮らしでおいしい循環を|たいら由以子さん
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「イラスト&写真の引用:ローカルフードサイクリングHP」
「私が寝たり出かけている間も、微生物が働き続けて生ごみの分解を進めてくれていると思うと、ワクワクしてずっと恋をしているみたいなんです。」--優しい笑顔で愛おしそうに話すのは、約30年にわたり国内外でコンポストの普及や環境活動を続けるたいら由以子さんです。たいらさんが開発したバッグ型のコンポストをご存知の方も多いのでは? 今回、著書「おいしい循環 生ごみを捨てない暮らし」(婦人之友社)を出版されたとのことで、詳しくお話をお聞きしました。
目次
- プロフィール
- 半径2㎞のおいしい循環って?
- コンポストの普及と循環づくりを30年
- コンポストを始めた人のワクワクを見るのが楽しみ
- 循環型コミュニティガーデンを増やしたい
- バッグ型のコンポストを作った理由
- 環境活動のきっかけは父の食養生の食事担当になったこと
- オフィスの庭でもおいしい循環を実践中です
- 楽しい循環生活でコンポストを再び日本の文化に!
プロフィール

- 名前 : たいら由以子(たいらゆいこ)
- 職業 : 環境活動家(ローカルフードサイクリング(LFC)代表。循環生活研究所、日本環境保全ボランティアネットワーク理事)
- 出身地 :福岡市
- 居住地 :福岡市
- ボタニカル歴:30年くらい
半径2㎞のおいしい循環って?
半径2㎞は、自転車で無理なく移動できる距離で、週に3~4回行くような生活範囲のことを言っています。昔の貝塚もだいたい1.5㎞単位で存在したり、地産地消の定理も半径2㎞なんですよ。
引用:ローカルフードサイクリングHP
自分事としてとらえられる小さな生活圏の中で「食べ物をもう一度食べ物に戻すというおいしい循環(食べる→生ごみが出る→コンポストに入れる→堆肥を作る→堆肥で野菜を育てる→美味しく食べる)」をつくること、そんな誰もが参加できる小さな循環をたくさん増やしていくことが大切だと考えているんです。
自分事としてとらえると楽しくなったり、地域に対する愛情が強くなったり。ひいては地球に対しての愛情も深くなったり……そういうきっかけになることが多いんですよね。
コンポストは英語で「堆肥」という意味ですが、日本では生ごみや落ち葉などの有機物を微生物のはたらきを活用して発酵・分解させること、またはそのための容器を指します。(「おいし循環 生ごみを捨てない暮らし」(婦人之友社)より)
コンポストの普及と循環づくりを30年
今行っている仕事の50%は人材育成です。地域でコンポストの相談にのったり、コンポストの講座をする人を育てています。
また「ローカルフードサイクリングプロジェクト」という、食べ物をもう一度食べ物に戻す仕組みを半径2㎞でつくる取り組みにともなうコンポストの普及とか参加する企業へのご案内とか、循環をつくるための仕事をしています。

イラスト「山・川・海と栄養循環」 引用:ローカルフードサイクリングHP
この絵は人間と自然のつながり、都市と里山の役割、海をめぐる栄養の循環の世界観を表現したもので、私の頭の中に思い浮かんだイメージを伝えるには絵を描くのが一番早いと思って描きました。福岡と池尻大橋の両方の事務所の壁に描いています。
コンポストを始めた人のワクワクを見るのが楽しみ

コンポストをやり始めると、大人も子どももみんなすごく変化するんですよ。
子どもが微生物に興味関心をもつ姿を見ると嬉しいし、大人がゴミが減るのを喜んだり、コンポスト内の温度を計って理科の実験を思い出すように楽しんだり、色々なことに感動して、早く始めておけばよかったと言って他のゴミ減量も始めたり。そういう姿を見るのが本当に楽しくて、こんな方がたくさん増えたらいいなと毎日思っています。
誰でも小学5年生くらいの時に、生態系ピラミッドの図で一番下に微生物があるって習うと思うんですけど、そのことって日々の暮らしの中では忘れちゃうじゃないですか。だけど、コンポストをすると、ベランダでも自然の循環を感じながらゴミの減量ができるんです。
循環型コミュニティガーデンを増やしたい

東京都調布市「SATOYAMA BASE 深大寺」
コミュニティガーデンは、畑をコミュニティ化したところで、都市部にあればあるほど機能を発揮するものです。コミュニティと食べ物が循環する拠点であるっていうところが大きいのですが、地域の人の顔と名前が一致したり、防災の機能を果たしたり、色んな利点があります。
少量でもいいから自分の食べる野菜を育てるという体験の場がすごく重要だと思っていて、半径2㎞の範囲にコミュニティガーデンをつくることで、循環型のきっかけを広めていけると考えています。すでに渋谷区や調布市などをはじめ、モデルとなる循環型コミュニティガーデンが整備されてきているんですよ。
先日、モンゴルでも循環型コミュニティガーデンをつくってきたのですが、言葉が通じなくても循環型コミュニティガーデンの大切さは伝わり、その機能を発揮しています。世界中の土が劣化してミネラル不足になっていて、私たち自身もミネラル不足になっていると思うので、循環やおいしさを実感する拠点として、循環型コミュニティガーデンを増やしていきたいです。
2024年には循環型コミュニティガーデン協会を設立し、毎月様々な勉強会を開催しています。
バッグ型のコンポストを作った理由

LFCコンポストは、なぜバッグ型なのですか?
私は何より半径2㎞で循環をつくりたいと思っているので、2~3か月間ベランダで生ごみを濃縮して濃くなった栄養(堆肥)を近くのマルシェに持って行ったら、農家さんが野菜と交換してくれるサービスをつくりたいと考え、持ち運びやすいバッグ型のLFCコンポストを作ったんです。
バッグ型のコンポストはファスナー1つで管理ができて、臭いが少なくて、虫も入りにくい特徴があります。生ごみをスコップで混ぜるのがおっくうなときは、ファスナーを閉めてふったら混ざりますよ。ベランダで1日1分の作業でできるコンポストとも呼んでいます。
徹底してこだわっているLFCの基材について教えて!

コンポストを都会で普及するための課題を抽出し、2003年から研究を始めたのですが、快適さを保ちながら楽しくごみ減量できることが重要で、虫の予防の徹底や、臭いの出にくさの仕様にこだわっています。
材料は、自然から搾取していないもの=地球から掘り出した土やピートモスなどではないものを使っています。
地域の有機性廃棄物(ゴミ)になっていて処理に困っているものを数種類組み合わせ、今でもモニタリング実験を続けていて、一番良いものを採用しています。実際、発売開始6年間で20回を超える改良を重ねています。持続可能でみんなが失敗しにくいものを捻出するために、これからもコンポストは少しずつ変わり続けます。
環境活動のきっかけは父の食養生の食事担当になったこと

食ベものの大切さとコンポストがつながった
学生時代は栄養学を学び、金融業界でのOL生活の多忙な毎日を経て、結婚、出産をして子どもの生命に触れ、食について立ち戻りはじめた矢先、父が余命宣告を受けました。その際、父の食養生生活に欠かせない無農薬野菜がなかなか見つからず、世の中に対して漠然とした不安がひろがった一方、本人の努力と毎日の食事づくりにより、父の寿命は2年も延びました。父が「命を左右するのは食べ物」だということを命懸けで私たちに教えてくれたと思うとともに、自分は自然が好きって言いながら何もお返しをしていない。環境を悪くしてきたのは自分だったのではないかということに気付きました。
その後、環境問題に取り組んだり調べたりしたんですが、忙しい人たちが参加しやすい形で日々の暮らしと土の改善をつなげるには、母に習ったコンポストが一番良いという結論にたどりつきました。
コンポストなら誰でも気軽に環境改善に参加できる

ダンボールコンポスト
母はすでに暮らしの中で生ごみから堆肥を作り、その堆肥を使って楽しそうに野菜を育てていて、コンポストが生ごみを減らしたり土を改善したりしていくのをすぐそばで見ていたので、これが一番と気付いてからは、母のストーカーになってしつこく色々聞きました(笑)人見知りの母に、社会的な活動を一緒にしてほしいと頼み込み、コンポストの楽しさやシンプルさなど、色んな事を教えてもらいました。
義務的では続かない。趣味的で楽しい!おいしい循環づくり

趣味的にとか、楽しい♪ おいしい! そういった循環ができる仕組みが大切だと考えていて、今回「おいしい循環 生ごみを捨てない暮らし(婦人之友社)」という本を出しました。
コンポストって聞くとハードルを感じる人が多いと思うのですが、身の回りにはたくさん微生物がいて、その微生物が私たちの食べ残しを分解してくれるという、すごいシンプルなことがコンポストなんですね。それは、自然界にある循環の仕組みと全く同じこと。なので、まずは食べ残しを出さないことから始めたり、何かぜひ、どこからでも参加してもらえたらいいなと思います。
オフィスの庭でもおいしい循環を実践中です

事務所の庭で、コンポストで作った堆肥を使って小さい菜園をしています。季節ごとによく食べるものとか保存したいもの、ハーブなども含めて年間150種類くらい育てています。1株のゴーヤから313本収穫したこともありますよ。空き時間に収穫してランチ(社食)を交代で作っているんですけど、レシピがすごく豊かになってきたり、保存食が増えると調理の手間が省けたり、長く旬が味わえるので、そういうことにすごく力を入れています。
コンポストを始めてみようと思ったら
自治体によっては、コンポストの助成金を出してくれて安く買えることもあります。私たちのLFCコンポストも自治体から助成金が出たり、福岡のふるさと納税にも取り扱ってもらったりしていますよ。
コンポストは色々な種類があるのですが、電動の乾燥型コンポストは堆肥化するものではなく、生ごみの水分を飛ばして乾燥させるタイプです。乾燥させたものを庭にまいてくと、雨が降ったときに生ごみによみがえるので注意してくださいね。
楽しい循環生活でコンポストを再び日本の文化に!

写真左から、たいら由以子さん、お母さまの波多野信子さん
今後も引き続き半径2㎞の栄養循環をたくさんつくりたいので、身近で循環型のマルシェとかコミュニティーガーデンを増やしていくことに力を入れていきたいなと思っています。具体的には2030年までに、政令指定都市に循環型コミュニティガーデンを1,500カ所つくることを目標としています!
世の中の1/3くらいの人が、何らかの形でコンポストをするようになってほしい。そうなると、たぶん日本にコンポストが再び文化として根付くと思うんです。楽しい循環生活でコンポストを日本の文化にしていきたいなと思っています。
コミュニティガーデンとは?メリットや参加方法についてはこちら









































