「上野ファームガーデナー」上野砂由紀さん / 言葉ではなく、庭で伝えるのがガーデナー。

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北海道の冬は長く、雪がたくさん積もります。しかし、その間にも植物たちは芽吹きの準備をしていて、春が訪れると一斉に植物は芽吹き出し、それはまるでお祭り騒ぎです。

そんな雪深い北海道旭川市にある上野ファームのヘッドガーデナーとして、ひときわ輝いている上野砂由紀さんを今回はご紹介します。

上野さんにお会いした印象は「植物と自然体で向き合う大きな心を持つ方」なのですが、じつは体が小さくで華奢な可愛らしい方なのです♩

上野さんのこと、上野さんの育てる植物のこと、上野さんの愛する北海道ガーデンのことなどたくさんお話をお伺いしてきましたのでご覧ください。

プロフィール

■名前: 上野砂由紀
■職業:ガーデナー
■出身地: 北海道旭川市
■活動拠点: 北海道旭川市

自己紹介をお願いします。

上野ファーム

北海道旭川市永山町にある上野ファームのヘッドガーデナーをしています。

ガーデナーとしてだけでなく、上川町にある「大雪森のガーデン」、札幌駅直結のビルの屋上にある「そらのガーデン」、高速道路のパーキングエリアにある北海道ハイウェイガーデンの植栽デザイン、2008年に放送されたドラマでお馴染みの富良野市にある「風のガーデン」などのデザインもしていますが、いつも自己紹介するときには「ガーデナー」という職業にこだわってお話しています。

ガーデナーとして仕事を始められた経緯を教えて下さい。

風のガーデン

1999年25歳の時に今まで勤めていたアパレルメーカーを辞めて、語学留学の一環で見つけたガーデニング研修のついた留学を決めたことが第一歩でした。

翌年の2000年4月英国ハンプシャー州のプライベートガーデン「ブラムディーン・ハウス・ガーデン」でのホームステイ研修を受け、同年12月に帰国。それ以降は、両親と共に上野ファームのガーデナーとしての仕事を始めました。

その後も庭づくりを続け「BISES(ビズ)」が主催するガーデン大賞2004年のグランプリをいただき、近隣の方以外にも上野ファームの名前を広く知ってもらうきっかけとなりました。

そして、2006年にテレビドラマ「風のガーデン」の舞台となるガーデンのデザイン・制作を脚本家の倉本聰さんから依頼され担当したことから、ガーデンデザイナーとしても大きな第一歩を踏み出しました。

当初はゴルフ場の一部をガーデンにするという依頼でしたが、徐々にドラマの内容にもガーデンが非常に大きく影響するまでになりました。このドラマを通して上野ファームを、ガーデナーとしての自分を知ってもらうきっかけとなり、大きなターニングポイントとなりました。今もこのガーデンには関わり進化させています。

※2008年放送のテレビドラマ「風のガーデン」とは、脚本倉本聰さん、主演中井貴一さん、その他のキャストに黒木メイサさん、神木隆之介さんなどが出演。そしてドラマ公開間近に急逝された緒形拳さんの遺作となったフジテレビ開局50周年を記念して制作されたドラマです。ドラマのサブタイトルは、スノードロップ、カンパニュラなどの花の名前が使用されており、上野さんが一から手掛けたガーデンがドラマの情景の印象的な見どころとなっています。

 

今までで一番印象に残っているガーデンを教えて下さい。

グレートディクスター

やはり、イギリスのガーデンですね。「グレートディクスター」という植物があふれんばかりに植えられているガーデンで、様々な植物に挑戦していることを感じられるガーデンです。年間を通してドラマティックに変わっていく庭で、植物って面白いなあと感じさせてくれるガーデンです。

※グレートディクスターとは、2006年に亡くなったイギリスの高名なガーデンライター「クリストファー・ロイド」氏のプライベートハウス&ガーデンでロンドン南東郡イースト・サセック州にあります。

最近では「ピエト・オウドルフ」がつくりだす新しいガーデンデザインの感覚や自然の野原に近いダッチウェーブ(オランダ発)ともいわれるナチュラリステック・プランティングに興味があります。しっかりとつくりこんでいく庭とはまた少し概念が違い、植物本来の力に任せながら花が綺麗に咲いてから枯れてシードベット(種)になる状態までも魅せる空間なんです。

ピエト・オウドルフの作品で、ニューヨークにある「ハイライン」という空中公園は、古い使われなくなった線路のある高架上を全て草原のような空間に変えたことで、その周りに高級レストランができたり、庭をきっかけに人通りが増えて治安がよくなったり、植物の力で街の価値まで上げてしまっているんです。

彼がつくるデザインは、植物の力にまかせたデザインではあるのですが、植物が枯れた後まで考え抜かれたデザインであることにとても尊敬しています。原点回帰として自然の風景を改めて都会にデザインすることは、とても時代に合っていることだと思います。これから彼がデザインするような「ナチュラリステック」という考え方がさらに広がると思います。

※ハイラインは2009年6月にオープンした、鉄道が廃止され放置されていた高架貨物鉄道をガーデンに転用した、アメリカ合衆国ニューヨーク市にある空中庭園です。この植栽をデザインしたのがオランダ出身の造園家ピエト・オウドルフ(Piet Oudolf)。彼のデザインした植物は、季節により全く表情を変え、1ヶ月で全く違う風景になるといわれています。ハイラインができたことで、多くの人がチェルシーエリアを訪れるようになったことから都市の価値まで上げることになったガーデンです。

 

上野ファームも参加している北海道ガーデン街道についてご紹介ください。

北海道ガーデン街道

上川町 大雪 森のガーデン

旭川市 上野ファーム

富良野市 風のガーデン

清水町 十勝千年の森

帯広市 真鍋庭園

幕別町 十勝ヒルズ

帯広市 紫竹ガーデン

中札内村 六花の森

北海道ガーデン街道は、ドイツのロマンティック街道のような、観光客の方が庭めぐりをきっかけにより北海道の自然や食、滞在などを楽しんでいただくことを目指した、大雪~富良野~十勝地方を結ぶ全長約250キロの街道です。

この北海道ガーデン街道が誕生したきっかけは、清水町にある十勝千年の森のオーナーである林克彦さんが上野ファームを訪れたことから始まりました。

北海道を代表する8つの庭園はどれも北海道らしい大自然と、植物が健やかに、大きく、色鮮やかに生長します。きっとその大きさに、色に驚かれると思います。ぜひ北海道を訪れる皆さんに素晴らしい自然と共に素敵なガーデンを巡って楽しんでいただきたいと思います。

上野さんの好きな植物は何ですか?

自分自身が小柄なせいか(笑)草丈が高くなる、見上げるほどの高さでガーデンに訪れる方をあっと驚かせたくなるような植物が好きです。

 

エゾクガイソウ

例えば、7~8月に咲くエゾクガイソウは高さ1~2m程草丈が伸びます。北海道に自生している花ですが、ガーデンで束にして育ててみるととても素敵なんです。

 

アンジェリカ

他に食用にもなるセリ科のアンジェリカがお気に入り。草丈が3m位まで大きくなる植物もマイブームです。

ご自宅の庭で3mの草丈の花というのはなかなか難しいので、是非この圧倒的な高さとボリュームを上野ファームのガーデンで楽しんでもらえると嬉しいです。

上野さんがガーデンを作る時のポイントは何ですか?

上野ファーム

植物には特性があるので「無理な場所では育たない」ということを認識することです。

いつも植物と対話しながら、花の咲いた状態や気候を見てその都度判断していきます。本来の植物の姿を引き出し、それぞれの植物の性質を知ることで、ガーデンのデザインの可能性は広がります。

植物も自分自身も「無理なことはしない」というのがじつは大切なことで、花がら摘みしなきゃとか、雑草取らなきゃなどとストレスにならないように、ご自身と相性のあった植物を育てるようにしてあげると良いと思います。そして、もし失敗したとしてもそれはそれでまた次のチャレンジに活かしてください。私もずいぶん失敗したんですよ(笑)。皆さんもいろんな植物にチャレンジしてみてください。ヒントは「庭」にあるので、いろんなガーデンや植物園に出掛けて植物の特性を活かしたガーデン作りにチャレンジしてみてください。

北海道などの寒冷地ならではのおすすめの品種と管理のポイントを教えて下さい。

寒暖差のある冷涼な気候だからこそ上手に育つ、本州で育てるには高温や多湿に弱い植物は比較的北海道で上手に育てることができます。

 

クリスマスローズ

おすすめの品種はクリスマスローズですね。北海道の旭川ではその年の雪解けにもよりますが、早くて3月下旬からニゲルが、その他の品種は4月下旬から咲き始めます。夏の暑さや強い日差しが苦手のクリスマスローズは、本州では木の下などの日陰の場所に植えたりしますが、北海道などの寒冷地では皆さんの好きな場所に植えるだけで比較的大株に育ちます。とても寒冷地に合った植物なので、安心して育ててみてください。

 

ゲラニウム

他に小花がたくさん咲く一部のゲラニウム(フウロソウ)やエリンジウムは涼しくないと育たない植物で、特にゲラニウム(フウロソウ)はこぼれ種で増えてくれ、育てやすくて種まき要らずのお花ですよ。

上野さんの今後の夢を教えて下さい。

画像左:曽我部さん 右:上野さん

同じ旭川市出身のフラワーデザイナーの曽我部さんと東京のイベントで出会ったことがきっかけで「Nonno43(ノンノフォーティースリー)」を結成しました。「ノンノ」はアイヌ語で花を意味し、「43」は二人の出身地である北海道旭川の緯度です。

前回のイベントでは、「上野ファームの庭を生ける」というテーマで、上野ファームで育てた植物を曽我部さんがアレンジメントしました。一般的に花屋で扱う花をアレンジするのとは違い、北海道の自然の息吹を感じられる花をダイナミックに曽我部さんに作り上げていただきました。

このように、上野ファームを起点に植物の可能性をガーデンを通していろんな方面に広げていきたいと考えています。植物を通じて様々な方々との「縁(えん)」を感じながら「ガーデンから発信」していきたいですし、ガーデンにお越しいただいたみなさんに五感を通して感じていただくために「ガーデナーとして言葉ではなく、庭として表現し伝えていきたい」と思います。

最後にみなさんへ一言お願いします。

 本当に小さな緑を1鉢から、1輪からでもいいので育てて、植物をゆっくり眺めて欲しいです。そこから生まれる感情というのがきっとあります。植物を育てることが無理なら、ガーデンや植物園に出掛けて植物の世界を広げて欲しいです。

五感をフルに使い、緑にふれる機会を増やして下さい。そして、一人だけでなくお友達やご家族と一緒に経験してもらいたいと思います。緑ってとても人から人へ伝わっていくのです。

上野砂由紀さんありがとうございました!

小柄で笑顔がとっても可愛い上野さんの語り口は、優しくてとても力強い。北海道の雪解けに咲く早春の花のような方でした。きっと皆さんも上野さんや、上野さんとご家族が手掛ける上野ファームのファンになってしまいますよ♪

上野ファームの2018年のオープンは4月21日です。この時期はクリスマスローズの花がシラカンバ並木に綺麗に咲きます。今からとっても楽しみですね!

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上野ファーム

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