初めての植物を育てるときの極意|二宮孝嗣の「自然・植物よもやま話」⑩
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世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもち、庭・植物のスペシャリストであるガーデンデザイナー・二宮孝嗣さんによるコラム連載「自然・植物よもやま話」をお届けします。第10回目は「植物の生育」について、二宮さんと一緒に考えてみましょう。
目次
春の活動開始

季節は確実に巡り、今年の冬は冬型の気候がはっきりとした天気が続き、日本海側は雪が降り、太平洋側では晴れて時々低気圧が通り過ぎ雨が降りました。そして、日が長くなり、どんどん春になってきました。ほとんどの生命達は一斉に活動開始です。そこで、今回は植物の生育について話をしたいと思います。
三寒四温には植物も悪戦苦闘
よく「三寒四温」と言いますが、植物にとってこの季節は、四温の日は人より早く行動をして急いで葉を広げてお日様の光を独り占めしたいのですが、慌てすぎると三寒の寒さで凍害、霜害を受けてせっかく我慢して冬を越えてきた新芽を傷めてしまいます。ですからこの時期、生きるか死ぬかの植物同士の凌ぎ合いには目を見張るものがあります。
植物の自分を守る能力
また、個々の植物も柔らかい新芽が太陽からの紫外線に傷んでしまう時があるので、赤(アントシアン)や黄色(カロチノイド)の色素で自分の新芽の葉緑素がちゃんとできるまで自己防衛します。この色素はその後も細胞の中にとどまり、秋の紅葉になっていくのではないかと思っています。
植物の原産地を知る
さて、植物が育っていくにはいろいろな条件が必要になってきます。気温、太陽の光、水分(雨)、湿度、土壌条件、風、病害虫、人、その他様々な条件が揃わないとうまく育つことができません。そして、どんな植物でも栽培しようとすれば、まずその植物のバックグラウンド、素性を知らなくてはいけません。一体地球のどのあたりに生えていたかを知ることが、各々の植物を知るためにはとても重要です。
中国の雲南地域からの植物群

サクラソウ
地球上にはいくつかの植物グループ(群落)があります。僕は、植物のグループの中心地をジーナスセンター( Genus Center)と呼んでいます。例えば、日本だけでなく東アジアの植物達は中国の南の雲南地域からの植物群に属しています。
約1億4000万年前に地球上に出現した被子植物は、地球全体に分布を広げながら各地に定着して、各々お互いのグループ内で独自の進化をしてきました。雲南から四方に広がっていった中の一つが中国の東側を辿って日本にやってきました。僕は雲南に行ったことはありませんが、本やテレビで見る限り日本の植物と非常によく似ています。
北上した植物たち

長之助草(チョウノスケソウ)
その後もどんどん北上し、どんどん寒さに強くなった植物達は、シベリア東部から、その頃地続きだったベーリング海峡を渡ってロッキー山脈までその分布を広げていきました。僕がロッキー山脈に行った時に見かけた植物のほとんどが日本の高山植物、あるいはその仲間だったのでびっくりしました。日本では高山植物と言われる長之助草(チョウノスケソウ)が、普通に道端にカーペットになって咲いていました。
北半球由来の植物

クロッカス
日本で栽培されている多くの植物は、おもに北半球由来の植物が多く、地中海、西アジア植物群からはチューリップやクロッカスなどの球根類、イチジクやザクロなどが分布しています。これらの植物は、乾燥気味で水はけの良い土壌条件を好みます。特に球根類は、砂地のようなところで水はけを良くしないと、日本の蒸し暑い梅雨には耐えきれません。

ジャーマンアイリス
また、母岩が石灰岩が多くて弱酸性土壌なので、日本の強い酸性土壌は苦手で、ご機嫌を取るには苦土石灰などで中和する必要があります。ですからそれらの植物を使ってイングリッシュボーダーを作りたければ、毎年春先に苦土石灰などをまいてやると好みの土壌になってよく育ちます。酸性土壌を嫌うジャーマンアイリスやクリスマスローズなどが良い例です。
アメリカ生まれの植物

コスモス
北アメリカ起源の植物達は、けっこう日本の土壌に親しんでいるようですが、やはり蒸し暑い梅雨や夏が苦手なものが多いです。メキシコの近辺にはその仲間であるコスモスやセージなどが分布しています。

アルストロメリア
また、メキシコからアンデス山脈まではサボテンや多肉植物の仲間が多く、ペチュニアやアルストロメリアなども分布しています。
オセアニア原産の植物

ミモザ
オセアニアには、あまり日本で大活躍している植物は少なくて、ミモザやユーカリなど乾燥地帯の植物が多いです。ニュージーランドには、長く昆虫がいなかったので花の綺麗な虫媒花はほとんどありません。多くの植物は、霜に弱い特徴があります。
南アフリカ原産の植物

アガパンサス
近年、急速に花市場を賑わしているものは南アフリカ原産の植物です。木本化していくマーガレットの仲間やアガパンサスなどがありますが、こちらも無霜地帯の植物が多いので、日本の北半分では冬には寒さで枯れてしまいます。近頃は温暖化の影響で太平洋側では冬を越してどんどん木本化しているのを時々見かけますが、南アフリカやオーストラリア原産の植物は霜に気をつけましょう。霜は大体4℃以下になると降りますので、霜の降りるところでは南向きの軒下などでの保護が必要です。
今回も思いつくままに色々書いてみましたが、初めての植物を栽培する時は、人間と同じように、まずその氏、素性を知ることがお互い理解し合う第一歩だと思います。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら

二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダッド)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技士、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。










































