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雨と遊んで|美村里江さんのムーミンコラム♯3

 

美村里江さん(俳優/エッセイスト)

2003年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。ドラマ・映画・舞台・CMなど幅広く活躍。読書家としても知られ、新聞や雑誌などでエッセイや書評の執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。近著には初の歌集「たん・たんか・たん」(青土社)がある。2018年3月、「ミムラ」から改名。


雨の日はお好き?

しとしと、ぽつぽつ、ぱらぱら、さーさー、ぱたぱた、ばらばら、ぼたぼた、びちょびちょ、ざあざあ、ざんざん、どしゃどしゃ……。
水の豊かな日本には、雨に用いるオノマトペを並べるだけでこれだけあります。私が思い出せないものもまだまだある筈ですし、方言として親しまれるものもありそうですね。

皆様、雨はお好きでしょうか?
私は昔から大好きなのですが、苦手な人も多く、梅雨時期は「早く終わって」と願っている方が大多数かもしれません。子どもの頃これに気づき、「自分がまだ子どもでわからないだけで、家や会社で働く人には雨がとても大変なのかな」と長らく思っていたのですが、「もしかするとこのあたりがコツかな?」という雨の日の対応を発見しました。そのおかげか、40を過ぎた今でも人目のない路地でこっそり水たまりに入って雨靴の防水性を確かめ喜ぶ中年となっており、雨の日でも気分が滅入ることはありません。

そのコツについては後述するとして、ムーミン谷の雨はどんな感じでしょうか。

ムーミン・コミックス『恋するムーミン』より

こちらの絵のセレクトにはなかなか悩みまして、ムーミンの世界には素敵な雨の描写が多く存在します。その中で選んだムーミン・コミックス4巻収録の『恋するムーミン』冒頭には、大きな葉を被って家路を急ぐムーミンの姿が。

ふくふくしたボディを葉っぱが覆って、かしわ餅みたいで大変可愛らしいですよね。

こんなに大きな葉っぱ、なんの植物かな? と一瞬思いますが、実はトーベ・ヤンソンのインタビューによるとムーミンの身長は「電話帳サイズ」。またトーベが自分の姿と共にムーミンたちを描いた絵をみると、ムーミンは片腕で抱っこされていて、人間の2歳児くらいの大きさに見えます。
ということで、この葉っぱは大きさ的には日本ではモクレン科の朴木(ホウノキ)あたりじゃないかなと考え、朴木を見かけるたびにこのかしわ餅風ムーミンを思い出し、笑ってしまう私です。

岐阜県飛騨地方の郷土料理「朴葉味噌」でも知られる朴木(ホウノキ)

さて、コミックスの内容はといいますと、ムーミンは詩集を読みながら「どうして…」「本のヒロインって」「いつもすてきなのかなぁ」「自分がつきあってる相手よりもね…」(※)と考えています。ムーミンはその後1カ月も本を読み耽り、スノークのおじょうさんはそんなぼーっとしたムーミンに愛想を尽かして傘をさして雨の中へ出て行ってしまう。すると長雨は止んだものの、今度は洪水で水位が上がってきて……。

ムーミン・コミックス『恋するムーミン』より

このあとは、サーカスのプリマドンナに恋してしまったムーミンと、ムーミンを振り向かせようとするスノークのおじょうさん。そこに相談役として頼られた(私の大好きな!)ミムラや、花柄がかわいいプリマドンナの馬が介在して、二人の恋物語の右往左往を盛り上げていきます。ムーミンのグッズをお持ちの方なら見たことのあるイラストも多い筈のこの回、各キャラクターが活き活きと立ち回って恋心の不思議、素敵な面も滑稽な面も存分に描かれております。

特に私が好きなのは、紆余曲折してもスノークのおじょうさんといつも通りに戻れないことをぼやくムーミンに対して「ばかね! ロマンチックな仲直りをハデにやってないからでしょ!」と言うミムラの台詞です。ちゃんとスノークのおじょうさんに根回しした上で、「さあ じょうずにドラマチックに!」とムーミンを励まし、なんとか仲直りを果たした二人を前に「ふたりともなかなかの役者ねぇ」(※)とにっこり締めくくるミムラ。

ムーミン・コミックス『恋するムーミン』より

私はどちらかと言うとリアリストで、恋に恋するようなことは若い頃からなかったのですが、大人になると「ドラマチック」は現実の“つなぎ”として重要であることも感じます。理屈だけでは繋がらないのが人の心。時にはミムラの提案のように演出的にドラマチック要素を入れることも、そこに少し芝居がかって乗っかることも、生きる知恵として大事に思えます。

(※)ムーミン・コミックス第4巻「恋するムーミン」(筑摩書房)より

雨には本気で

さて、知恵ということで前述の私の思う「雨の日のコツ」に戻りましょう。といってもそんな大袈裟なものではなく、< 人生の約3分の1を占める重要事項として雨に真剣に対応する >というごく単純な方針です。
年によって多少の変動はありますが、全国平均では年間100日程度は雨の日本。一番多い青森県では170日と年の半分近くが雨や雪です。ちなみにフィンランドの降雨日も100〜150日と地域差があるようで、年間平均降水量は500〜700mm。対して日本は約1,600〜1,700mmと、2〜3倍多いことになります。もちろん世界は広く、上には上がいて、国別降雨量40位近辺の日本ですが、英国王室にも採用される高品質の透明傘を開発するなど、雨グッズに関しては充実した国ではないでしょうか。

高校生の時友人に、「リエはいつも雨に本気だよね」と指摘された私のスタイルは、黄色の雨合羽、黄色の傘、鞄カバー用のゴミ袋、タオル、替えのワイシャツと靴下まで持っておりました。雨の日を楽しく過ごすために自然とそうなりまして、そのため濡れることなく「雨と遊ぶ」子どもの頃の感じが残っているのだと思います。

いくらアイテムを厳選しても少し野暮ったくはなりますし、うねる髪問題や低気圧による偏頭痛はどうにもなりませんが、年間100日、10年で千日。人生を終えるまでのあと何千日かのために、雨用のアイテムを充実させてみるのはとてもオススメです。まずは使用頻度の高い傘から、機能性も含め本気で気に入るものを探してみるのはいかがでしょうか。(私は愛刀ならぬ愛傘を2本持っておりまして、「ミント貝くん」と「アートちゃん」と名付け、それぞれ10年以上愛用しております。雨用靴も2足あり、スペアが大事です。)


6月はフィンランドの夏至祭りのバラ、ユハンヌスルース(別名フィンローズ)、も見頃を迎えます。そして夏至の前の晩に植えられた白い種から生えたニョロニョロたちが、はなれ島で集会を行うのも6月。ムーミン屋敷の近くではジャスミンと対をなすライラックの茂みも良い香りを放っているでしょう。

甘く優しい香りでリラックスでき気分転換にもおすすめのライラック

いよいよ夏の気配。気温が15℃もあれば海へ向かう(!)ムーミンたちを追って海へ飛び込みたいところですが、それは8月にとっておいて、次回7月は夏まつりについて。

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