世界の植物紀行 – 四代目金岡又右衛門 –セネガル編5「バオバブ三昧」
LOVEGREEN編集部
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アフリカをイメージする植物は?と問われると「バオバブ!」という答える人が多いのではないでしょうか。さて、おまちどうさまでした。今回はその「バオバブ」にスポットをあててお届けします。
目次
セネガル最大級のバオバブ
少し前の「植物紀行オーストラリア編」にて触れさせていただいたが、バオバブは世界に約11種存在すると言われ、そのうち1種である「アダンソニア・ディギタータ」(「Adansonia digitata」)がアフリカ大陸中部中心に自生しており、西端の地が、ここセネガルである。今回はその1種類の紹介になるが、それぞれに表情が異なっていてユニークである。
街中を車で走っていると、時折バオバブを目にすることができる。ただアフリカだからといって、日本の松や楠のように至るところで見ることができるというほどではない。それは長い年月によって少なくなってしまったからかもしれない。特に大きなものや、シンボリックなものもそう多くはないので、訪ねてきたいくつかのバオバブの中から、私、又右衛門が特に印象に残っているものを紹介します。
これはセネガルで最大級のバオバブ。写真に写っている私や現地の人と比べていただいたら、その大きさに驚かれるであろう。樹齢は約850年以上とのこと。幹の胴回りは約35mと言われていた。できれば実測をしたいと思ったが、地元や訪問者への配慮などを考え、教えていただいたサイズでご報告させていただく。ただ私のざっと見た感じと歩測でもおおよそそのサイズであると思う。
見づらいかもしれないが、枝から垂れている白いのが花や実である。レレレのおじさんの涙に似ている(笑)。
人々と密接に関わるバオバブ
このバオバブも中心部に大きな空洞があり人が入れる大きさである。実際にこの空洞は地元の人に活用されている。オーストラリアでは、バオバブの空洞を利用し、牢屋にしていた時代があったとお話させていただいた。ではセネガルの巨大なバオバブはというと……
お墓である。ただお墓といっても村人みんなの共同墓地ではない。グリオと呼ばれる「かたりべ」のお墓である。「かたりべ」とは、伝統や歴史、教訓など重要なことを語り継いでいく伝達者であり特別な存在として崇められている。そのような大切なグリオが亡くなったとき、その村を代表するバオバブに埋葬されていたのである。村人には聖なるバオバブと呼ぶ人も多く、精神的支柱にもなっている存在である。そしてこのバオバブも、その代表的なものになり、村人が管理をしているのである。
ここでは、バオバブ以外のことも学べた。それはグリオの存在である。グリオは文字を持たない彼らには史実を残していく貴重な存在であると教えられ、理解をした。ただ、文字がなく伝えられないから「かたりべ」が必要なのではなく、むしろ文字ではその大切さ、ことの真意が伝えられないから、本当に大切なこと、伝えたいことは文字ではなく、言葉で伝えるというのだ。言葉の大切さをあらためて気づかされた。
さてお墓のことを、又右衛門が「かたりべ」の代わりに伝えたので、今度は生きている人の棲む家となっている魅力的なバオバブをいくつか紹介します。
これは、バオバブのツリーハウスである。バオバブや大自然にあこがれを持つ人にとっては、うっとりする存在であろう。
それも海辺に……。何という贅沢であろう。実際に住んでいる人もいてうらやましい限りである。その他にも次のようなバオバブにも出会えた。
倒れたバオバブ
倒れてしまったかなり大きなバオバブである。道路から少し奥に入った畑に隣接するところにあったが、遠くからでもその姿は確認でき見つけることができたので、近くまで寄ってみた。
中々見ることができない状況なので、少し調査をしてみた。
見ての通り根元からごっそり倒れている。他国でたまにあるのだが生活用のロープなどに使うためバオバブの表皮をはぎ取り、その個所の強度が弱まり、強風などで倒れるケースはあるのだが、このバオバブはそのような傷はない。
となれば、サイクロンのようなかなり大きな嵐がやってきて強風で倒れたかとも考えられるが、周りの状況や地元の人に聞く限りそうでもないようだ。また落雷による倒壊も見かけたことがあるが、その場合は焼けた跡など大きな損傷が見られるのでそのようなことはない。
となると考えられるのは、もともとこの地はバオバブに適した乾湿がはっきりしていた土地であったが、そこの人が畑などを作ることで常に湿度が保たれていたため、バオバブの根が弱り、自重を支えきれなくなり、少しの力が加わっただけで倒れてしまったのかもしれないと推測できる。そうであれば長い年月による村人の農耕や生活様式の変化を読み取れるのではないかとも言える。
また写真にてお気づきだと思うが、このバオバブ。倒れていても葉をしっかり出している。そのため倒れて間もないのかなとも思ったが、枝葉が垂直方向に延びているので、倒れながらも生長しているのが伺える。それは樹が持つ貯えた栄養によるものか、倒れながらも根をはり、生きている姿なのか、再び訪れて確認をしたいと思った。いずれにしてもその生命力は感動的である。
その他にも写真のようなバオバブを見かけることができた。地元の人は「白いバオバブ」と呼んでおり、とても興味深かったが、立ち入り禁止区域のため、近くには寄れなかったので残念である。
確かに木肌はコンクリートのように白っぽい。しかし同地区のバオバブはほとんど葉があるのに、このバオバブは葉がない。枯れているのでは?と想像がつく。実際に生命力をあまり感じない。
しかし100%枯れているとは言えない要素は、バオバブは個体によって葉を落とす時期が異なり、隣同士の樹であっても、まったく違うことである。それとバオバブは水分を多く含む多肉植物のような樹のため枯れると、ドライフラワーのようにならず、しぼんだり腐ったりすると思われるので、あのようにしっかり立っているのは中々想像し難い。
これもまた次回機会があれば、立ち入り許可を取得し、実際に近くで見たいものである。それにしてもこのふたつのバオバブから倒れても起き上がる。灰になってもまだ立ちつくす姿。まるであしたのジョーの世界である。その世代で育った私にはことさら大きな感動を得ることができた。
また家になったり、お墓になったり、食料になったり、セネガルにおいてバオバブは本当に人々と密接にかかわっているのだということを知ることができたり、色んなことを学んだりすることができた。まさにバオバブは文字を書けないが、その姿で多くを語り継ぐ「グリオ(かたりべ)」であると実感した。
PROFILE
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四代目金岡又右衛門
「世界の感動を日本に。日本の感性を世界へ。」 まだ見ぬ植物との出逢いを求め、世界を奔走する金岡又右衛門。世界各国に拡がるネットワークと持ち前の行動力を駆使し、希少性の高い植物を求め、自らの足で直接現地に赴き目利きをし、日本に紹介している。植物と大地への尊厳の念を持ち、植物の”生”へのこだわりを第一とする活動スタイルは、国内外の専門家から高く評価され、業界からの信頼も厚く、植物貿易の第一人者と評価される。
Facebook/人と人、国と国を繋ごう。
HP/緑匠・又右衛門
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