ムーミンと自然~ガーデナーに通ずる世界観~|後編
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ムーミンに出てくる植物たちって?
小説「ムーミン谷の夏まつり」より(※1)
海に囲まれ、むき出しの岩肌に雨風が吹きすさぶ環境で書かれた物語ですから、作中には多くの自然が美しく表現されています。もちろん植物もたくさん。
ナデシコ、ユキワリソウ、ミモザ、リンゴ、サクランボ、ライラック、ジャスミンにバラ。出てくる植物は枚挙にいとまがありません。このあたりの植物エピソードは、美村里江さんのコラムに下駄を預けるとして……。
ここでは出てくる植物の種類について言及してみます。
私たちが自宅で育てる花の多くは園芸品種、つまり育てやすく交配された品種です。しかしムーミンにでてくる植物は、多くがトーベが実際に島で見て触れた植物たち。つまり自生のワイルドプランツたちです。人間が手を加えていない野に咲く花がたくさんでてきます。
Respect for Nature(自然を尊重する)も、ムーミンの物語における価値観のひとつですが、LOVEGREENではこの考え方に賛同します。植物がもともと自生していた環境を尊重し、無理に手をくわえないで植物本来の育つ力を引き出す。そんなナチュラルガーデンのような草花との距離感をトーベは愛し、ムーミンで描写したのではないでしょうか。
ムーミンママの植物愛
ムーミンの中でも、ガーデニングが大好きなのがムーミンママ。植物の種類もよく知っていてこれはしゃくやく、これはマホガニーなんて言い当てたりしますが、そんなムーミンママが一番に愛したのがバラなのです。
小説「楽しいムーミン一家」より(※2)
例えば「ムーミン谷の彗星」では、彗星が近づいてきて洞窟に避難するシーンがありますが、ムーミンママはバラも一緒に持って逃げようとします。
ムーミンパパが「バラをぜんぶ掘り起こすのは無理だよ。」と言うと、ムーミンママは「黄色いのだけで、いいわ。でも、それはかならずね」と言い張ります。そこから黄色いバラは、ムーミンママを象徴する花となりました。
小説「楽しいムーミン谷の彗星」より(※3)
また別のエピソードでは、ムーミンたちが想像でクリスマスツリーを作ります。ムーミンたちは冬眠するので、クリスマスを知りませんでしたが、噂に聞くクリスマスツリーを作ってみようと、サンタさんが喜ぶように各々が自分の宝物を吊るしていきます。ムーミンが大事にしている貝殻を吊るすように。そして、そのツリーのてっぺんに乗せられたのが、ムーミンパパがムーミンママへ贈った、赤いシルクのバラの花でした。
母の日といえばカーネーションやアジサイが喜ばれる、クリスマスツリーと言えばてっぺんに星だよね。そのような既成概念のない、自由な発想で楽しいですね。
そんなガーデニング好きのムーミンママのエピソードをもうひとつ。ムーミン谷には3人の子どもを持つフィリフヨンカという母親が登場します。彼女はこうでなければならない、きちんとあらねばならないという思考の持ち主。対してムーミンママは洗い物を後回しにしたりとおおらか、時にはずぼらと言ってもいい考え方をします。
これもまたガーデニングに強引に当てはめてしまうと、今は「枯らしてはいけない」「育て方はこうでなければいけない」という考えが強すぎる気がしませんか?
きれいに咲かせることは喜びですが、それだけが正義ではない。時に枯らしてしまっても、植物たちを愛でる。そんなムーミンママのようなおおらかな気持ちのガーデニングもあってもいいのではないでしょうか。
あなただけのムーミンに出会いませんか?
小説「ムーミンパパ海へ行く」より(※4)
ムーミンは原作を読めば読むほど「私だけのムーミン」がみつかるといわれています。それはきっと、時代は違えど、トーベが生きづらさを感じながらも、自然に触れあうなかで湧き出るパワーやインスピレーションを描いているからなのでしょう。人が自然や植物から受け取る力は普遍であり不変です。
ぜひ、植物のお世話をしながら、あなただけのムーミンをさがしてみてはいかがでしょうか。きっと植物好きが「あ、いいかも」と思う出来事のひとつやふたつは、必ず描かれていることでしょうから。
前編はこちら。
記事中の画像/引用文出典元
(※1)小説「ムーミン谷の夏まつり」より
(※2)小説『たのしいムーミン一家』ムーミン全集[新版] /作・絵:トーベ・ヤンソン 訳:山室 静 講談社 刊
(※3)『ムーミン谷の彗星』ムーミン全集[新版] /作・絵:トーベ・ヤンソン 訳:山室 静 講談社 刊
(※4)小説「ムーミンパパ海へ行く」より