ネパールで伝承されるシャーマニズムとは?|山下智道の世界の文化と植物紀行
山下智道
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前回の取材で、シャーマニズムが根強く残る土地や人と、そこで用いられる植物との関係へ強い関心を口にしていた野草研究家の山下智道さん。そこでLOVEGREENでは、山下さんが世界を旅する中で出会ったと文化や風習と植物の関係について、連載形式で紹介いただきます!「シャーマンハーブジャーナリスト山下智道」がナビゲートする、人・土地・植物の知られざるつながりを覗いてみませんか?
山下智道の世界の文化と植物紀行#1
ネパールで伝承されるシャーマニズムと、チョウセンアサガオの仲間たち
私とネパール関係性は切っても切れない関係である。
というのも、私の父親は世界的なアルピニストでもあり、特にエベレストを中心としたヒマラヤ山脈の登山が多く、その関係でこれまで、ネパールには約100回は行っているみたいだ。
私が5歳の頃にも、一か月まるっとネパールに家族旅行に行ったり、その後も2回父親とネパールに行っている。
このネパールは良い意味でも悪い意味でも非常に生々しいなと私は思う。
例えば、死に対する考え方や距離感が非常に近い、身近であるとネパールに行って感じた。
世界遺産パシュパティナートはそれを象徴するひとつだった。
パシュパティナートはカトマンズにあるシヴァ神を祭るネパール最大のヒンドゥー教寺院であり、火葬場でもある。
シヴァ神は破壊と再生を意味する神なので、おそらくその寺院でこの世から魂を解放させるのであろう。
バグマティ川の岸辺にある火葬場
パシュパティナート寺院が面しているバグマティ川の岸辺には、言葉は悪いが雑な火葬台を複数備える火葬場があり、遺体の灰は川に流される。寺院の入り口から、いかにも火葬場の人体を焼いたときの強烈なにおいが鼻腔に突き刺さる。
バグマティ川の水には魂を浄化する力があるとされている
バグマティ川はネパールで最も神聖な川とされている。ヒマラヤ山脈の高地から始まりカトマンズへ流れ、ヒンズーの聖地であるインドのバラーナシを流れるガンジス河に通ずる支流にあたるとされ、古来からその水には魂を浄化する力があるとされていた。
しかしながら近づいてみたら、凄まじい悪臭で、さすがに身の危険を感じ、私はすぐにそこから離れた。
そのバグマティ川の聖なる水で遺体を清め、ガートで荼毘に付せば母なる大河ガンガーへと戻ってゆくと考えられている。
そのため、遺灰をこの川に流すのがネパールのヒンズー教徒の願望であり、輪廻転生を信じて墓を作らない習慣のヒンドゥー教徒にとって、この方法が理想的な死の形とされているのだ。
シヴァ神に捧げる花
このパシュパティナートの寺院付近の路面店で良く見かけた植物がある。チョウセンアサガオの仲間である。
シロバナチョウセンアサガオ、キダチチョウセンアサガオ、コダチチョウセンアサガオなどがあったような気がする。
日本でも園芸店で「エンジェルトランペット」の名前でよく知られているのは、ナス科キダチチョウセンアサガオ属の低木または高木である。
ネパール語では「カネール」と呼ばれ、ヒンドゥー教の古いサンスクリット語の文献によると、キダチチョウセンアサガオ属の花はシヴァ神がお気に入りの花とされ、シヴァ・シェーカラ(シヴァの冠、髪飾り)にはこれらの花がふんだんに用いられる。
神々と繋がるサポートに用いられたチョウセンアサガオの種子
また、チョウセンアサガオの毒々しい有毒の種子も販売されており、これはなんとシヴァ神の信奉者が内服し、シヴァ神や冥界の世界と繋がるために用いるそうだ。
種子を食し、酔っ払っているような光景を見かけたが、まさにそれなのだろう。
絶対に真似はできないが、このチョウセンアサガオの仲間に含まれる、ヒオスチアミン、スコポラミン、トロパンアルカロイドなどといった成分は、世界的にシャーマンや魔女たちがうまく利用してきた有毒成分である。
トロパンアルカロイドは副交感神経抑制作用や中枢神経興奮作用を示し、アトロピンは副交感神経を遮断し、瞳孔の散大を起こす。スコポラミンもアトロピンに類似の作用を示す。
このようにパラレルワールドに吸い込まれるような幻覚幻聴が起こる植物たちは、彼らが異次元と繋がるためのサポートを促すのではないだろうか。
インド原産で、 江戸時代前期に薬用として導入され栽培されたが、現在はあまり栽培されておらず、まれに空き地や公園などで野生化しているものを見かける。世界中の熱帯、亜熱帯、暖温帯広く分布 している。
チョウセンアサガオ属
一年草で茎は直立し、多くの枝にわかれ、淡緑色で高さ 1.5mほどになる。全草はほぼ無毛である。葉は互生、8月~9月頃に、葉のわきにユリのような大きな白色の花を上向きに咲かせる。不気味な果実は径約3cmの球形のさく果で刺があり、不規則に割れて多数の灰色のゴマに似て大きい種子をだす。
キダチチョウセンアサガオ属
高木または低木で、下向きの花をつける。キダチチョウセンアサガオは種としては”Brugmansia suaveolens”であり、一般的にはキダチチョウセンアサガオ属の栽培種の総称である。キダチチョウセンアサガオ属の栽培品種はドイツ、アメリカ、デンマークなどで多数作出され、現在では1,000種以上があり、白色、黄色、橙色、ピンク色など、花冠が2重、3重以上もある。
シャーマンハーブジャーナリスト/野草研究家 山下智道
生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。
山下智道さんの著書を一部紹介
【新刊】アジアで出会った風変りでエキサイティングな植物たち
旅で出会った世界のスパイス・ハーブ図鑑 東・東南アジア編(創元社 2024/7/19)
アジア各地を旅して出会った風変わりでエキサイティングな植物たちを写真で案内する、新感覚のスパイス・ハーブ図鑑。ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピン、台湾、韓国の7つの国で親しまれている香辛料、香草、薬草、野菜、果物、藻類などを、現地でのさまざまな用途や日本で見られる近縁種とともに150種以上紹介。植物を使った料理や製品、旅情あふれるマーケットや野山の風景も満載。
日本初、ハーブの女王「ヨモギ」だけを紹介する図鑑
ヨモギハンドブック(文一総合出版 2023/4/21)
草餅の原料としても有名な「ヨモギ」。実は日本には数十種のヨモギが存在することを知っていますか?本書は国内で見られるおもなヨモギ44種類を、葉と頭花の特徴で見分けられるように解説。さらに、識別だけでなくその種の個性、いわば「草となり」を、山下さんが実際に観察した経験から紹介しています。
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