爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』|山下智道の日本の暮らしと身近な野草②

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山下智道

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野草研究家の山下智道さんに、日本で脈々と受け継がれてきた野草の使い方を連載形式で紹介いただきます。身近に見かける野草を、改めて見直してみませんか?

山下智道の日本の暮らしと身近な野草②
爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』

私が日本全国、そして世界中で植物以外にも注目しているのが、その風土に根付く食文化である。そこには必ずといっていいほど、偉人たちの植物活用術が隠されている。

ここ数年、とあるご縁がきっかけで、年に数回は岐阜に行かせていただいており、そこでいつも振る舞ってくれる郷土料理がある。ホオノキの葉を用いた『朴葉寿司』(ほおばずし)である。

山下智道の日本の暮らしと身近な野草 爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』

岐阜県の高鷲町でよく振る舞っていただく朴葉寿司

ホオノキの花は芳醇な香りを解き放つが、一方で葉は爽やかでグリーンティーのような芳香で食欲をそそる、主菜を引き立てる名脇役だ。

葉でごはんを包む文化は世界中にあり、その多種多様な活用法には度肝を抜かれる。例えば、ギリシャではブドウの葉でごはんを包んだ『ドルマデス』があるし、台湾のジンジャーリリーの葉で包んだチマキ、そして奈良県や和歌山県で一般的な柿の葉寿司などがある。どれも植物がもつ揮発性の芳香成分やタンニンを活かして、腐敗を防いだり、雑菌を抑制したりする知恵がみられる。

朴葉寿司の歴史

朴葉寿司の歴史は江戸時代中期にまで遡る。

紀州の殿様が熊野の漁師に年貢を課したため、漁師はお金を捻出するため、鯖を塩で締めて吉野川筋の村に売りに行った。 それがちょうど夏祭りの時期と重なり、夏の祭事のご馳走として、握った米の上に生鯖の切り身をのせ、朴の葉で包んだのが起源とされている。

その後、各地域ごとに工夫やアレンジが加わり、朴葉寿司もさまざまな形へと進化した。

飛騨地方での一般的な作り方は、まず鮭(飛騨地方では鱒という)を1cmほどの大きさに切り、生のまま酢に1晩ほど浸けておき、翌日に寿司づくりに取りかかる。まずご飯を炊く。その間にミョウガの若い茎を細かく切る。ご飯が炊きあがったら、大きな鉢を用意し、ご飯、鮭(酢ごと)、ミョウガを交互に均等に混ざるように入れていく。全て入れ終わったら、上を朴葉で覆う。この際、上には重しはのせない。しばらくすると、酢がご飯に染み込み食べ頃となる。

食べる時には各自が朴葉を持ち、しゃもじで鉢からまだ熱い寿司を取り出して朴葉に盛り、サンショウの葉をのせて、握りながら食べる。この時に朴葉とサンショウの香りが漂う。

残った寿司はサンショウの葉を入れて、朴葉で包んで保存する。店などで売られているのはこの状態である。

朴葉のさまざまな料理活用法

私がよく頂くのは岐阜の郡上地方に伝わるタイプで、酢飯ではなく炊き込みご飯を挟む『朴葉飯』というもの。これはこれで朴葉の繊細な芳香成分がしっかりと感じとれて美味しい。

また、岐阜の恵那地方、八百津地方、長野県の木曽地方では、『朴葉餅』という食べ方をする。和菓子のようにあんこが入ってたり、甘みをつけてあったり、醤油などの味付けがあったりとさまざまである。

他にも、豚肉を朴葉で包んで蒸すことで臭み消しになり、爽やかな香りで食欲をそそる。

山下智道の日本の暮らしと身近な野草 爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』『朴葉飯』朴葉を使った料理

豚肉のブロックを朴葉で包んで蒸す。

 

山下智道の日本の暮らしと身近な野草 爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』『朴葉飯』朴葉を使った料理

食べやすいようにスライスして・・・

 

山下智道の日本の暮らしと身近な野草 爽やかな香りで食欲をそそる『朴葉寿司』『朴葉飯』朴葉を使った料理

山菜類のペーストなどをかけて頂くと絶品である。

ホオノキ(Magnolia obovata)の芳香成分

モクレン科モクレン属に属する日本自生の落葉広葉樹で、樹皮は漢方薬として利用されている。

ホオノキの樹皮は漢方薬名 「 和厚朴」と呼ばれており、乾燥した幹や枝の樹皮を煎じて飲むことで消化を助け、胃を丈夫にする作用がある。

ホオノキの爽やかな芳香には、心地よくリラックスさせる効果があり、古くからアロマテラピーや漢方で利用されてきた。この香りの源となるのは、ホオノキの樹皮や葉、花に含まれるさまざまな精油成分だ。樹皮にはマグノクラリンやマグノフロリンなどのアルカイドが含まれ、ホオノキの爽やかな芳香は、フェニルプロパノイドが2つくっついたフェノール(芳香族化合物)である「マグノロール」や「ホオノキオール」が含まれている。

マグノロールはホオノキの樹皮から単離され、これまでさまざまな薬理作用が調べられている。抗けいれん剤、ストレス潰瘍抑制剤、胃液分泌抑制作用などを有することが報告されている。また、マグノロールの含有量は採取する季節や生育地などによってかなり異なるとされている。マグノロールやホオノキオールには強い殺菌・抗菌作用があり、比較的火に強い。

こうした朴葉の芳香成分をしっかりと活かし、先人たちの知恵が詰まった郷土料理は、料理の文化遺産といえるだろう。


野草研究家 山下智道

生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。

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野草研究家/シャーマンハーブジャーナリスト。 生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、薬草ガーデンのプロデュース、ハーブやスパイスを使用したブランディング等、その活動は多岐にわたる。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。

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