古代文明の地に生まれた庭のルーツ 〜メソポタミア・ナイル・ペルシャ〜|二宮孝嗣の「庭・植物よもやま話」③
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世界のフラワーショーで数々の受賞歴をもつガーデンデザイナー、二宮孝嗣さんのコラム連載。「庭」にフォーカスした「庭・植物よもやま話」の第3回目は、西洋庭園の始まりとされる古代文明の地に思いを馳せます。メソポタミアの「空中庭園」に秘められたエピソードから、ナイル文明と「Garden」「horticulture」の成り立ち、そして古代ペルシャのフォーマルガーデンまで。二宮さんと一緒に、庭の原点と歴史のロマンを紐解いていきましょう。
目次
メソポタミア文明とバビロンの空中庭園

そもそも、庭を持つ文化はどこでいつ頃から始まったのでしょうか?
西洋の庭の歴史は、今から4000年ほど前から続くメソポタミア文明の中のバビロンに始まったと言われています。その後、今から2600年ほど前、現在のイラク、ペルシャ湾の一番奥に流れ込むチグリス川、ユーフラテス川の河口近くの古代都市バビロンにあったジッグラト(聖塔)の屋上に存在したと言われる、世界七不思議の一つ「空中庭園」がその原点と言えるでしょう。
イラクでの体験と「空中庭園」の由来

随分前のことですが、僕は、イラクの首都バグダッドで仕事をしていた時に、チグリス川のほとりにあるバビロンの遺跡に行ったことがあります。
もちろん廃墟になっていたのでほとんどが日干しレンガの崩れた丘になっていましたが、そこに辿り着く間、何も太陽を遮るものがない茶色の砂漠の中をどこまでも逃げ水を追ってまっすぐな道を走ったことを思い出します。すると、見渡す限りの砂漠から立ち上る陽炎の向こう、チグリス川のほとりにナツメヤシの乾いた緑が見えてきました。
おそらく往時も、砂漠の中の長いキャラバンの末、やっと辿り着いたバビロンの建物が蜃気楼の向こうに見えてきて、その屋上にナツメヤシの緑が、さも空中に浮いているかのように見えたことから、空中庭園と呼ばれるようになったのでしょう。往時からその様に呼ばれていたとは思われませんが……
ナイル文明と「Garden」「horticulture」の成り立ち

四大文明のもう一つ、今から4000年ほど前に始まったナイル文明も乾燥した気候の中、塀で囲まれた中で水(池)と緑を楽しんだ記録が残っています。
Gardenという言葉は、「ガード(囲い・守る)」と「エデン(楽園・喜び)」という二つの言葉が一緒になったとも言われています。囲いの中に、喜びの楽園を作り出そうとした古代の人々の思いが伝わってくるようです。
おまけですが、園芸を表す英語「horticulture」も、「ホート(hort)」=「囲いのある庭」と「カルチャー(culture)」=「栽培・育成」、この二つの言葉からホーティカルチャー(horticulture:園芸・庭を管理して楽しむこと)が生まれたとされています。

砂漠の乾いた熱風から植物たちを守る囲いの中で花を楽しんだり、ザクロやイチジク、ナツメヤシの果樹類や香草類(ハーブ)などを栽培していました。ナイル文明の末期、かのクレオパトラもおそらく栽培されていたバラの花を集めてお風呂に入れたり、宮殿に敷き詰めて楽しんだのでしょう。
古代ペルシャと整形式庭園(フォーマルガーデン)

Photo by 二宮孝嗣 フォーマルガーデン
いつの頃からかは定かではありませんが、その頃世界の中心であった西アジアのペルシャで、古代ペルシャの世界観として整形式庭園(フォーマルガーデン)が考えられました。
長方形の庭の中心から命の象徴である水が湧き出し、四方に流れて世界を潤す。これはその頃、地球はまだ丸いという概念がなく、平らな世界の中心のペルシャから、世界に向けて文化が広がる自分たちの地球観のイメージが始まりのようです。残念ながら当時の庭は現存していませんが、古い遺跡の中でそれを見ることができます。旧約聖書には「エデンの園から神の祝福とともに流れ出る一本の川が四つに分かれて世界を潤す」と書かれています。

Photo by 二宮孝嗣 ベルサイユ宮殿
そのフォーマルな形式は世界の富の変遷とともに、ギリシャ、イタリア、フランス、イギリス、現代へと連綿と受け継がれてきました。 次回からそれぞれの庭について少しずつ深掘りしていきたいと思います。
▼二宮孝嗣さんのインタビュー記事はこちら

二宮孝嗣(にのみや・こうじ)
ガーデンデザイナー、樹木医。
静岡大学農学部園芸学科卒、千葉大学園芸学部大学院修了。
1975年からドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、イラク(バグダッド)と海外各地で活躍の後、1982年に長野県飯田市にてセイセイナーセリーを開業。宿根草、山野草、盆栽を栽培する傍ら、飯田市立緑ヶ丘中学校外構、平谷村平谷小学校ビオトープガーデン、世界各地で庭園をデザインする活動を続ける。
1995年には世界三大フラワーショーのひとつ、イギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初となるゴールドメダルを受賞した。さらに、オーストラリアのメルボルンフラワーショー、ニュージーランドのエラズリーフラワーショーと、世界三大フラワーショーのゴールドメダルをすべて受賞、世界初となる三冠を達成した。ほかにも世界各地のフラワーショーに参加、独自の世界観での庭園デザインで世界の人々を魅了し、数々の受賞歴をもつ。
樹木医七期会会長、一級造園施工管理技士、過去に恵泉女学園、岐阜県立国際園芸アカデミー非常勤講師。各地での講演や植栽・ガーデニングのセミナーなども多数。著書『美しい花言葉・花図鑑-彩りと物語を楽しむ』(ナツメ社)はロングセラーとなっている。









































