日本の桜、ソメイヨシノが街路樹から消える・・・!?
小野寺葉月
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桜と言えば多くの人がソメイヨシノを連想されるのではないでしょうか。ソメイヨシノのほんのりピンクがかった白い花びらは、昼間見ると優しく華やかで、おごそかな気配もあり、夜に見るソメイヨシノはどこか幽玄な雰囲気がありますよね。
目次
桜=ソメイヨシノというイメージ
中目黒の目黒川沿いの桜もソメイヨシノです
現在、街路樹や公園に植栽されているサクラのほとんどがソメイヨシノであり、毎年気象庁が設定している桜の開花宣言基準木も、ソメイヨシノの木なのです。ソメイヨシノが咲くと、ああ桜が咲いたな、春が来たんだなと思うような環境になっているのですね。
ソメイヨシノは自然のサクラではない!?
ソメイヨシノは桜の原種ではなく、江戸時代に開発された桜です。江戸時代は一大園芸ブームが起こり、特に染井町、現在の駒込のあたりには腕の立つ植木屋さんが何軒も軒を連ねていました。
江戸の園芸ブームで流行した育種
育種で大流行した変化朝顔
桜だけでなく、朝顔やおもと(万年青)、ツバキなど、江戸時代に種を交配して新種を作りだす「育種(いくしゅ)」という大きな動きがあり、珍しい種は珍重され、値段が高騰することも少なくありませんでした。ヨーロッパはオランダにもチューリップ狂時代と言って、チューリップの珍しい品種などが珍重され、人々が球根を投機の対象としたバブル期がありましたが、江戸時代のそれも割と近しいようなことがあったようです。
園芸と行楽
江戸時代には、園芸趣味ともう一つ「行楽」というブームがありました。春には花見、秋には菊、紅葉狩り。庭園を中心として、日帰り観光が盛んだったのです。そんな時代、ソメイヨシノは開発されました。ソメイヨシノは、当初「吉野桜」として売りに出されました。
当時から有名で一度は行ってみたいとされていた「奈良の吉野桜」と同じものを作出したとして、大変話題になりました。江戸の街でよく見られたのがエドヒガンという桜でしたが、「吉野桜」はそれに比べると大輪で見栄えが良く、また生長がとても早いため、重宝されたのです。江戸末期に作出された「吉野桜」は明治時代に上野の山や東京招魂社(現在の靖国神社)など、様々なところに植樹されるようになりました。
吉野のサクラとは別品種だったソメイヨシノ
1901年に「吉野桜」ソメイヨシノと吉野桜は別品種であることがわかり、「染井」の名をつけて「染井吉野」として広く流通するようになっていきます。東京近郊で現在よく見るソメイヨシノは、第二次世界大戦後に植樹されたものが多いです。
戦後荒れ地に植えられたのは、やはり生長の早いソメイヨシノでした。まだ若いうちから花をつける桜として、戦後から高度経済成長期にかけて計画された道路の街路樹、堤防、公園や学校などにはだいたいソメイヨシノがあります。
ソメイヨシノの樹齢
表皮に緑色の苔が生えているソメイヨシノ
エドヒガンの樹齢は長いものだと2000年!他のサクラでも原種のもので1500年や800年などの樹齢のものがありますが、ソメイヨシノは140年や130年のものが数えるほどにしかなく、樹齢が短いのではないかと言われています。50年や60年ではないか?という説や、環境や手入れによってもう少し伸ばすことは可能だ、という話も様々で、まだはっきりしていません。
ここ何年か、戦後に植栽されたソメイヨシノが老朽化で伐採されるというような報道がなされています。理由は様々ですが、道路や線路に枝が張り出してしまったり、倒木の恐れがあるからです。そもそも、ソメイヨシノが植えられている場所が長年生育できる環境ではないこともあります。植栽の間隔が理想は8~10mなのですが、実際にはもっと狭い間隔で植えられたりしていますよね。
また、桜の木のもとで行うお花見などで根元部分を足で踏みつけていたりと、根に影響が出ることもあります。毎年綺麗に花を咲かせていても、実際には木が弱ってきていることもあります。木が弱ってきているサインとして、幹の内部が枯れて空洞化したり、木の表皮に苔やサルノコシカケなどのキノコなどが生えたりすると幹の生長が止まっているといえます。
ソメイヨシノがかかりやすい病気
ソメイヨシノは「テング巣病」という病気にかかりやすいといわれています。サクラ全般にかかる病気ではありますが、ソメイヨシノは特にかかりやすく、野生種ではなく作出した種なので弱いとされています。テング巣病は、小枝の一部分から、一度にたくさんの枝が出てしまう病気で、遠目に見るとまるで鳥の巣のように見えます。海外では「witches’ broom」と言って、魔女のホウキに例えられたりもします。原因はウイルス、菌類、昆虫などさまざまですが、ソメイヨシノがかかりやすいのは「サクラてんぐ巣病」で、病原菌が原因です。
サクラてんぐ巣病は、病原菌の胞子が空気中に飛ぶことで感染するとされていますが、詳しいことはまだわかっていません。枝が沢山でているところは、花芽がほとんどつかずに葉だけがついている状況です。症状が出ているサクラは、その部分を切り落とし、廃棄または焼却します。サクラは剪定すること自体がよくないとされていますが、その理由は木材腐朽菌が樹内に侵入し、腐っていってしまうため。なので必ず切り口には保護剤を塗ります。
現在、植樹などで使われているサクラはソメイヨシノからジンダイアケボノへと変わっていっています。ジンダイアケボノはソメイヨシノとよく似た花付きのサクラで、原木が東京の神代植物園にあります。その木を接ぎ木して、人工的に増やしたサクラがジンダイアケボノです。ソメイヨシノよりてんぐ巣病にかかりにくく、丈夫なサクラだということです。
もしかしたら遠くない未来、ジンダイアケボノで出来た桜並木の下でお花見をする事になるのかもしれませんね。
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