アート鉢作家 大治香織さん|植物もアートも暮らしに身近にしたい
LOVEGREEN編集部
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「植物もアートも、もっと暮らしに身近になっていくと信じています」--。そう話すのは、アート鉢作家の大治香織さん。子どものころから絵が好きで、初めて個展を開いたのが17歳の時。海外暮らしを経て年月を重ね、ずっと続けてきた絵と、新しく出会った植物。二つの「欠かせないもの」が融合して、香織さんのアート鉢づくりが始まりました。
目次
プロフィール
■名前: 大治香織(おおじ かおり)
■職業 : アート鉢作家
■出身地: 三重
■居住地: 三重
■ボタニカル歴: 3年
植物との出会いを教えてください
育てだしたのは本当に最近で、家を建てたのと、次女を出産したタイミングと、コロナによる緊急事態宣言が重なり、家からも出られないなか、自然と植物に触れたいと思うようになりました。
ホームセンターに出かけて、なにかひとつでもお花を育ててみようとラベンダーとパンジーの苗を買って、庭に植えたのがはじまり。そこからお部屋の中にも植物が欲しい!と観葉植物も集めだし、自然とボタニカルライフが始まりました。
実は、20代の頃に「サボテンなら枯れない」と聞いて育ててみたんですが、見事に枯らしてしまった経験があり、「私には植物は育てられない!」と散々言ってたんです笑。
でも、森が好きで、いつも森で絵を描いていたので、2人目の出産を機に「もう一度植物と向き合ってみよう」とチャレンジしたら、おもいっきりハマってしまいました。今ではもう植物なしの生活が考えられません!
植物の品種やジャンルにはまだあまり詳しくないのですが、道端に生えている野の花も大好きで、散歩をするたびに癒されてきました。
私の小さな頃からの絵の原点に道端に咲く野花たちを描いた作品も多くあり、自然が大好きなのだと改めて思っています。
種から育てたダイコンドラ。「こんな小さい種からちゃんと育つのかな…」と不安だっただけに、双葉が生えて広がった時の感動は今も忘れられないそう
最近はお庭にグランドカバーとしてダイコンドラを植えてあり、そのグリーンカーペットの上を裸足で踏み踏みするのが癒しです笑。
あと、お庭といえば雑草がつきものですが、家事や育児で疲れてしまった時とかに、庭の雑草を抜いていると無心になれて、気持ちがすっと切り替えられたり……。植物って飾るだけでなく、いろいろな触れ合い方があるんだなあと、発見の毎日です。
アート鉢をつくりはじめたきっかけは?
植物を育て始めたのは最近ですが、絵を描くことは学生の頃から続けていました。仲間と個展を開いたり、音楽のライブに合わせてライブペインティングをしたり、お店のディスプレーを描いたり。
結婚して子どもが生まれてからも、絵を描くことは続けていて、そんな中で植物と出会い、自分の年齢もあるのかもしれませんが、ずっと続けてきた絵と、新しく出会った植物で、もっと身近で新しいことはできないかな?と考えるようになりました。
それと、植物を育てるときに鉢植えにしようと思ったら、売っている鉢の種類があまりにも少なくて……。植物はそれぞれ素敵で、さまざまな色や形をしているのだから、鉢ももっと自由でいろんな色があってもいいんじゃないかと思い作りはじめました。
白地に塗った素焼き鉢に、アクリルガッシュを垂らしていく
アート鉢を作るときは、森を歩いたり、植物を眺めたり、人と出会って刺激を受けたり、なにかしら心が動いた時に、その時思い浮かんだ色や形をばあ~って鉢に重ねていきます。
直接指で塗ったり伸ばしたり…
よく散歩にでかけて思い浮かんだ色や形があると、それを忘れないようにせかせかと急いで家に帰るので、「いつも走っているね」と言われたりします笑。
森の中で小鳥が木の実をついばんでいるようにも見える模様。あえて具体的な対象物は描かないことで、見る人によってさまざまな情景が思い浮かぶ
うれしいことに、アート鉢を買いたいと言ってくださる方もいて、そういう時は、その方の好きなものや、考えていることなどをふんわりとお聞きして、その方の人となりを自分なりに思い浮かべて、色を重ねていきます。だから、同じ鉢はないんです。
植物やアートをもっと身近にしたい
近所の子どもたちも一緒になって描いた自宅の塀の内側の絵
近所の子どもたちに「あそぼー!」って声をかけて、家の塀にみんなで絵を描いたりもしました。大人が子どもに教えるとかではなくて、同じ目線で楽しめるんです。
友だちに贈った花壇の花たちを「忘れないように」と描いた白いエリアと、「夜空にあったらうれしいもの」をテーマに、近所の子どもたちが自由に描いた青いエリア
いつの間にかたくさんの子どもたちが集まって自由に塀に色を塗りました。塀の絵を見て「感動しました」と言ってくださるお母さんもいて、「うちの子の絵がここのお庭にずっと残るんですね!」って喜んでくれました。
流れ星や虎、ドーナツやソフトクリームの妖精など微笑ましい絵や、「夜でも虹が出てほしい」と虹を描いた子も。夜空に咲くお花もたくさん描かれている
花壇にもしっくりと馴染み、溶け込むアート鉢
海外に住んでいた頃。街にはアートが当たり前にあった
夫の仕事の関係で、何年かタイに住んでいたのですが、そのころは植物を特別に意識はしていませんでした。今思えば日本で人気の観葉植物もたくさんあったんだろうなあと思います。日本に戻って、自粛などの閉塞感から植物に癒しを求めたのもありますが、タイにいた頃は植物に意識がいかなかったというより、日本より気軽な感じでたくさん軒先に並べて売られていて、植物が当たり前に身近だったんだと思います。
タイの街角にて
同じように、アートも街中に当たり前に存在していて、美術館に行かなくても、街に出ればいたる所でいろいろな作品が見れるんです。屋台で買ったスイカジュースを片手に、絵やオブジェが並べられたマーケットを散策して、気軽に見たり触れたりできました。
タイに住んでいたころも、個展を開いたり絵の活動は続けていました。アーティスト通りでは、海外のバイヤーさんがすごい値段で絵を買っていったりするんですが、アーティストたちは全然気取ったところがなく、遊びに行った私たち親子にも気さくに話しかけてくれたり、遊んでくれたり。
その陽気さや気軽さ、たくましさに圧倒されました。植物もアートも、気負わずに暮らしの中に溶け込んでいて、子どもも大人も、言葉が違う人同士でも分かり合えるものとしてあったんです。とてもいい経験でした。
製本まで自分で手がけた絵本(左)や、ベトナムの子どもたちと日本の小学生とで絵本を作る国際イベントで、日本とベトナムの小学校に置く絵本を作ったことも(右)
日本でも最近は、とても高価なジャンルの植物があったりしますよね?
私は品種名とかもあまり詳しくないので、専門的な植物屋さんは敷居が高くて緊張してしまって……。アートもそうですよね。なんとなく格式が高くて、知識がないと理解できないように思われがちです。もっとオープンで気軽に楽しめるようになればいいなって。
衣食住と同じように、植物もアートも生きていくための必需品
写真スタジオの背景を描いてる様子
絵と植物って、子どもとの相性がとてもいいと思うんです。昨年新しくオープンした写真スタジオさんから「ここでしか撮れない、手描きの絵で絵本の中に入り込んだような世界観を作りたい」と依頼を受けて、撮影背景の壁を制作したのですが、その時に庭で育てている植物たちをすべて絵に入れてみました。
すると、撮影に来てくれた子ども達が「わあ!」って笑顔になって、楽しんで写真を撮ってくれていると聞き、描いて良かったなと思う出来事でした。
衣食住は暮らしに欠かせないですが、生活必需品でないといわれる音楽やアート、そして植物も、実はこれからの世の中で生き延びていくためには、絶対に欠かせないものじゃないかと感じています。
植物もアートも、まずは気軽に楽しんでもらいたくて。お気に入りの植物とちょっと楽しいアート鉢で、お庭や部屋がもっとお気に入りになるといいな!と願いを込めています。
鉢にだって絵を描いていいし、もっとオリジナルがあっていい。大切な植物がもっと大切になれば……。
そして、少し苦しかったり、心がいっぱいになる日々の、ちょっとした気持ちの切り替えになって、また毎日を歩き始められるのなら、もう生活必需品と言っていいと思うんです。
これからやってみたいことはありますか?
いつか、アート鉢を森の中に飾る展示会をやってみたいです!
子どもたちも森の中で遊びながら、自由に色を塗ったりして好きに発想を広げていって。それがきっかけで植物を育て始める子がいてもいい。日常にちょっとしたワクワクと楽しさを。植物もアートのどちらにも、それができる大きなな可能性があると信じています。
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