「品品(しなじな)」小林健二さん/「もうひと手間」をかける、植物との豊かな暮らしを楽しむ
土屋 悟
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現代のライフスタイルにあった、盆栽をはじめとする小さなグリーンを提案する小林さん。その発想やものづくりの原点にあるものは?小林さんのものづくりの秘密の一端をインタビューしてきました。
目次
■どのようにして今のお仕事を始めるようになったのか教えてください。
プロフィール
■名前: 小林健二
■職業: 品品店主
■出身地: 長野県
■居住地: 東京都
■ボタニカル歴: 35年くらい
盆栽と出会ったきっかけを教えてください。
今では盆栽に触れる仕事をしていますけど、最初から盆栽を扱う仕事に就いたわけではないんです。
学生時代にいろいろとアルバイトをしたんですが、実家が建築関係で家を建てる仕事をしていたのもあり、それにまつわる仕事ならなんとなく感じはわかるだろうと、ランドスケープデザインや造園が得意な設計事務所にアルバイトで入りました。大学の卒業後はそのままそこに就職し、おもに造園の仕事をしていました。
盆栽を初めてちゃんと学んだのは、仕事を始めて何年かしてからです。アメリカのオレゴン州ポートランドで、「栽景(さいけい)」というものから学びました。
それまで、日本国内で景色盆栽とも呼ばれる栽景という、いくつもの木や草などを組み合わせて盆栽をつくる手法を提唱していた人がいたんです。その人がアメリカに拠点を移してしまうと聞いた設計事務所のボスが、ちゃんと学ぶ機会が今後あまりなくなってしまうかもしれないので、「お前が行ってこい」というので私が学びに行くことになったんです。そこでは様々な種類の木の扱い方、手入れの仕方といった基本的なことから、どうやって小さな鉢の中に景色をつくっていくかといったことを学びました。
私がオレゴンに行ったのが90年代の初めごろでしたが、その頃にすでにアメリカではBonsaiという言葉は、日本初の園芸文化として認知されいました。今では、栽景もアメリカ西海岸ではSaikeiで通じるくらいに浸透しているようですよ。
品品の店内の様子
品品の看板。
看板のまわりには、トクサや盆栽が置かれ、和モダンな雰囲気。
お店の外の様子。
屋外スペースは、栽培場兼陳列コーナー。
店内にもたくさんの盆栽が並びます。
気品のある盆栽の数々。「品のいい品物を提供したい」という想いからお店の名前を「品品」としたそう。
小さくて品よく作られた盆栽だけでなく、鉢や什器まで、小林さんの厳しい審美眼にかなったものばかり。
どのようにして今のお仕事を始めるようになったのか教えてください。
盆栽は日本のものですし、普通は日本国内で学ぶことが多いと思います。私の場合は、巡り合わせで海外で盆栽を学んだこともあり、盆栽の世界だけでなく、園芸やグリーン関係の世界を日本の外から眺めているようなところがあり、そういう視点から何か面白いことができないかなと、帰国してからは思っていました。
90年代の中頃は、何か新しいことを始めたいと思っている若手クリエイターと出会う機会が多く、茶道、華道、建築、デザインなど様々な領域のクリエイターたちとコラボレーションするチャンスもたくさんありました。そうしたコラボレーションの中に、和の樹木や苔をあしらったりということをやっていて、その過程で今でもポピュラーな苔玉というものが生まれたりということもありました。
これらは、その頃仕事をしていたベンチャー企業の会社の仕事としてやっていたことだったのですが、段々と自分も独立して何かつくってみたいなと思うようになりました。私も盆栽だけでなく、造園や植栽などのグリーン関係の仕事をずっとしてきていたので、なにかやるとすればその方向かなというのはやっぱりありましたね。
それで、辺りを見回してみると盆栽と庭木の間が空いているんじゃないか?と思ったんです。庭の樹木は楽しみ方や管理の仕方がいろいろと出そろっているし、盆栽は盆栽で独自の世界観もあるし技術も確立しています。盆栽には小品盆栽という小さなものもありますが、世の中には小品盆栽以前の、盆栽用の素材として使われる苗木もあるわけです。盆栽ほどカッチリと作り込むわけでもなく、だからといって庭の樹木のように、邪魔にならないサイズに剪定しておけばよいというのでもなく、もうちょっと手をかけて好みの姿に仕立てていくような、カジュアルな楽しみ方。品よく、センスよくできていながら、かしこまって伝統的なスタイルになりすぎないようなものが、ちょうど無かったんです。その空いたところを埋めるようなものを作る仕事を始めたくて、「品品」を立ち上げたんです。なので、品品で作る盆栽は王道を行く盆栽からははずれているけれど、ただの樹木の鉢植えではなく、ちゃんと盆栽の技術を用いて作っています。
盆栽の面白さはどんなところですか?
盆栽を作っていくためには、こまめに観察をして、適切な時期に剪定や植え替えなどの作業をして、水が切れないように水やりをして…という風に、とても手間がかかります。この、「手間がかかる」というのは面倒でもあるんですが、いいところでもあるんだと思います。
食べものでも、買ってきてすぐに食べられれば楽で便利です。でも、入っていた容器から家のお皿に移し替えたり、お店でつけてくれたプラスチックのフォークの代わりに、家にある金属のフォークで食べたり、「どうせだったら、ちょっと手間だけど…」ということでひと手間かけることがありますよね。
「どうせだったらフェイクグリーンじゃなくて、本物の植物を」「どうせだったら黒いポリポットじゃなくて、気に入ったちょっといい鉢に」「どうせだったら伸び放題じゃなくて、姿よく枝を整えて」といった具合に、「どうせだったら…」のひと手間をかけることで、豊かさはどんどんアップしていくんだと思います。
ひとつひとつの「どうせだったら」をいきなりすべて完全にこなそうとするとちょっと大変だけど、自分の暮らし方や意欲に合わせて、できるところまでやってみる。
やりたくないことをやるときは、やっぱり楽な方がいいですよね。その方がストレスが少ないから。でも、やりたいと思ったことなら、手間がかかっていた方が達成感がありますよね。ちょっとした時間と手間をかけて、自分のペースで作っていって達成感も得られる。盆栽のいいところはそんなところじゃないでしょうか。
植物も生き物なので、ちゃんと向き合って、ペットを飼うのと同じくらいの気持ちをもって日々つきあってほしい。でも一方で、義務的につきあわなくてもいいんだよ、ということも伝えていきたいんです。剪定や針金かけ、植え替えなどをするのに適した時期というのはあるんですが、その時期になったらすぐにやらなければいけないわけでもないし、やらなくても植物自体が枯れると決まっているわけでもない。「明日やればいいか」と、時には先延ばしにしながら、でも毎日気にはかけながら、じっくりと植物とつきあえる人が増えていくといいなと思います。
お休みの日はどんなことをしていますか?
子どもがまだ小さいので、一緒に出かけたり、遊んだりということが多いですね。
でも、家族と一緒にいても、ついついグリーンに目が行ってしまいますね。
いつでも仕事に関わることばかり考えているという言い方もできますが、常に植物とともにあるというのは仕事を越えた、人生の根幹に関わることでもあるので、仕方ないのかな、と。
どこかの空間に入って、「あ、心地いい場所だな」と感じて、なぜそう感じるのかを考えたり、それまで見慣れていた場所のちょっとした変化を感じ取って、何がどう変わって、その空間のどこが良くなったり悪くなったりしているのかを常に考えることはとても大事だと思います。
変化に気づく目を作る。変わっていくものに気づく心を養う。植物と共に生き、植物を使って何かを生み出していくという人生を歩む上では、とても重要なことではないでしょうか。
これからやってみたいことはありますか?
もっと多くの人に、植物の楽しさを知って欲しいですね。でも今、自分がやっていることだけだと、盆栽に興味のある人しか目を向けてくれません。より多くの人に何かを伝えるためにも、ほかのジャンル、カテゴリーと一緒にやっていくことが必要だなと感じてます。
すでに、多肉植物や苔、テラリウムなどを扱う人たちといっしょにイベントを開いたりというのはやっています。これからは建築やデザインなど、植物以外のジャンルとも積極的にコラボレートして、植物以外の領域に盆栽やグリーンを見せていくようなことをしていきたいと思っています。そうやって、植物の楽しさをもっと伝えていきたいですね。
小林さんありがとうございました。新しい盆栽のあり方を問い続ける小林さん。これからも新しいことに挑戦しながら、植物や園芸という垣根を越えて、暮らしの広い領域での提案が楽しみですね。
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