ビギナーでも花を咲かせられる!カトレアの育て方
土屋 悟
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プロフィール
小島研二(こじま・けんじ)
ラン園・Seedpot(小島舎)園主
長年に渡りラン園に勤務し、ランの栽培や育種を手掛ける。中でもカトレアに造詣が深く、数多くの品種を作出する。
2015年11月からは自身のラン園・Seedpot(小島舎)を立ち上げ、ランの生産、販売、育種を行う。
園で年数回開催される植物イベント「Seedpot」は、ランを中心にシダ、食虫植物、アグラオネマなどの雨林植物の展示・即売が行われ、関東近県のみならず遠方からの来場者も訪れる人気イベントとなっている。
ランの中でもカトレアはもっとも人気のあるものの一つ。華やかに咲かせるのは難しそうに感じてしまいますが、ポイントを押さえればビギナーにも咲かせることができます。ポピュラーな冬咲きを中心に、カトレアの咲かせ方を、ラン園・Seedpot(小島舎)園主、小島研二さんに伺いました。
目次
カトレアってどんな植物?
カトレアは中南米原産のラン科の植物です。春、夏、秋、冬の各季節に咲く種類があり、その気になれば一年を通じてカトレアの花を楽しむことができます。温暖な環境を好むものが多いですが、種類によっては最低5℃程度の比較的低い温度でも育てられるものもあります。
カトレアはランの中でも最も育種が進んでいるものの一つで、数多くの品種が作られ、様々な花色や花型、大きな花の品種などがあります。原種にも魅力的なものが多く、同じ原種同士を交配して作られた原種の園芸品種もあります。国内で最もポピュラーなのは、秋以降に花が咲く「冬咲き」タイプ。です。
カトレアの種類
カトレアと一口に言っても様々な花色のものがあります。同様に、株の大きさも様々です。バルブと葉を合わせても5㎝足らずの小型タイプから、草丈50㎝を超える大型タイプまであります。花の直径が15㎝を超えるような巨大輪を咲かせる品種は、草丈30㎝を超える大型になるものが多いです。小型タイプのほうが花は小さくなりますが、もともと大きな花を咲かせるものが多いのがカトレアのよいところ。小型タイプであっても7㎝程度の花を咲かせてくれるものもあるので、あまりスペースがない場合でも花を楽しめます。それぞれの大きさごとに、様々な花色のカトレアがあるので、用意できる栽培環境や、好みに応じて選ぶことができます。
こんなランもカトレアの仲間
分類上「カトレア Cattleya」と呼ばれるランのほかにも、カトレアと交配して作られた新しい品種がカトレアの仲間として扱われることもあります。その多くはバルブの先端に1〜2枚の葉がある株姿ですが、中には上の写真のブラサボラ・ノドサような棒状の葉を持つタイプもあります。こうしたランもカトレアと同様の管理で育てることができます。
覚えておきたいランの部位の名前
前の項で、「バルブ」という言葉が出てきました。これは本来は「球根」を意味しますが、ランの場合は多肉質の茎をさします。こうした用語を使わずにカトレアの説明をすることもできますが、ランの育て方について書かれた本やネットの情報を探すときにも便利なので、ランの部位の名前を覚えておくとよいでしょう。カトレアだけでなく、他のランにも共通の用語を紹介します。
① リップ
ランの花弁の内、特殊な形に変化したもののことです。唇弁(しんべん)ともいいます。
② ペタル
ペタルも花弁です。リップ以外の花弁をペタルと呼びます。
③ セパル
花の構造上は花弁ではなく、萼片(がくへん)になります。花弁の後ろ側に3枚あります。
④ バルブ
茎ですが、多肉質で内部に水や養分を蓄えています。カトレアはこのバルブ(茎)が複数できる複茎種(ふくけいしゅ)です。ちなみに、コチョウラン(ファレノプシス)などはバルブを持たず、肉厚の葉に水や養分を蓄え、1本の茎が上に向かって育つ単茎種(たんけいしゅ)です。
⑤ 葉
バルブの先端に葉がつきます。多くのカトレアは葉が1枚ですが、2枚葉がつくものもあります。バルブ同様、葉も肉厚で、乾燥に耐える構造になっています。
カトレアの育て方
春…気温が上がってきたら水やり頻度を増やす
冬咲きのカトレアは、開花後は春まで鉢内を乾かし気味に管理します。最低気温が15℃を超えるようになったら、水苔が湿っている時間が長くなるよう、水やりの頻度と、与える水の量を増やしていきます。植え替えをした場合は、新しい根が出始めてから水やりをするようにしましょう。水は、水苔が常に湿っているようでは与え過ぎです。必ず水苔全体がしっかり乾いてから水やりをするようにしましょう。
肥料は新しい芽が2〜3cmになり、新しい根が出てから与えます。生育期の前半はチッ素分が多い肥料を施すと、バルブを大きく育てることができ、花も咲きやすくなります。カトレアは明るい場所を好みますが、春から秋は直射日光を避け、50%程度遮光した明るい場所に置いて管理します。
夏…極度の暑さを避けつつバルブを育てる
梅雨明けからはさらに強い光を避けて管理します。50%の遮光ネットを張るか、落葉樹の明るい木陰などで管理します。
猛暑のときは、遮光ネットを厚めに張ったり、風通しのよい場所に移動させるなどして、なるべく涼しい環境で過ごさせましょう。夕方の打ち水や葉水も有効です。
咲かせるコツは、「乾かし方」にあり
水やりは、水苔全体が湿るまでたっぷりやったら、次は水苔がしっかり乾くまで待ってから行うのが基本です。
水やりが多すぎると根腐れを起こすことがあります。生育初期だと、水をやりすぎると、新芽が黒くなり、うまく生育しないことがあります。しかし、梅雨の時期は生育最盛期に当たるので雨に当てたり、水苔が乾ききる前に与えても大丈夫です。
バルブの完成後は水のやりすぎに注意!
秋に新しいバルブが完成します。バルブを包む薄皮が茶色く枯れてきたら完成した印です。しかし、バルブの完成後も水を与えすぎると、新芽が出てきてしまいます。新しいバルブが出てきてしまうと、花を咲かせるよりもバルブの生長に体力が奪われてしまいます。上の写真は、せっかく充実したバルブができ、シースも出てきたのに新しいバルブが出てきてしまった株です。このような状態になってしまうと花が咲きにくくなってしまうので、バルブが完成したら水やりを控えましょう。
蕾ができたら水やりを多め、花が終わったら一度乾かす
管理が適切であれば、新芽の生長が終わる頃に葉のつけ根から袋状のシース(さや)が出て、冬になるとその中に蕾ができます。蕾ができたら水苔をあまり乾かしきらないように、やや水やりの間隔を短くします。花が咲いている間は水やりを多くしますが、花が終わったら10日程度水やりを控えて、水苔をしっかり乾かします。
肥料は新芽が2〜3㎝になってから
春から秋の生育期は規定量の肥料を与えますが、与え始めるのは新芽が出てきて2〜3㎝になってからにします。上の画像は新芽が出てきていますが、肥料を与えるにはまだ早い状態です。
肥料は固形肥料と液体肥料を併用します。固形肥料は緩効性化成肥料や有機質固形肥料を、生育期の前半のみ与えます。
液体肥料は生育期を通じて与えますが、前半はバルブをしっかり大きくするためにチッ素(N)が多めのものを、後半は花が咲きやすくなるようリン酸(P)とカリ(K)が多めのものを使うのがおすすめです。
カトレアの植え替え
カトレアが生長してくると、上の写真のように鉢から新しいバルブや根が鉢から溢れてしまいます。見た目もよくありませんし、株のバランスが崩れるので鉢が倒れやすくなり、扱いにくくなります。
さらに2年経つと、水苔が傷んで根の張りが悪くなるので、新しい水苔で植え替え、リフレッシュすると生育がよくなり、花も咲きやすくなります。カトレアの植え替えに適した時期は、新芽が数センチ伸び、バルブから根が出はじめる春頃です。水苔植えの場合、植え替えの目安は2年に1度です。
用意するもの
必須というわけではありませんが、あると便利な道具を紹介します。
・ハサミ
根を整理するのに使います。
・園芸用の竹べら
水苔を鉢に突き入れるのに使います。
・ピンセット
株を元の鉢から引き抜いたり、古い水苔を取り除くのに使います。
・ガスバーナー(ライター、ガスコンロでも可)
ピンセットやハサミなどの器具を、熱消毒するのに使います。
道具ではありませんが、このほかに鉢底石代わりの発泡スチロール片があると、鉢の水切れがよくなります。
鉢の選び方
鉢は素焼き鉢を使います。
カトレアはつるのように匍匐(ほふく)茎が伸びていって、その先に新しいバルブを作ります。今年伸び出してきているバルブが秋には充実し、翌春にはまた株元から新しいバルブが出てきます。そのため、今年のバルブに合わせてぴったりサイズの鉢を選んでしまうと、来年のバルブが入る場所がなくなり、また植え替えが必要になることで根腐れの原因になります。
だからといって先々を見越して余裕がありすぎる鉢を選んでしまうのはおすすめしません。大きな鉢を選ぶと鉢の中の水苔の量が増え、結果的に鉢の中の水の量が増えて、根が乾きにくくなることで根腐れの原因になります。
カトレアは水やりをしたら、しっかり根が乾くことで健全に生育するので、あまり水苔が多すぎると根が傷む原因となってしまいます。鉢のサイズは、上の画像のように、新しいバルブの先に指2本程度のスペースがあるものが適しています。
できれば0.5号刻みで2.5〜4号の素焼き鉢を用意しておき、株を素焼き鉢に入れてみて使うサイズを決めるのがよいでしょう。
また、3号の鉢と3.5号の鉢で迷った時などには、小さい方の鉢を選ぶと栽培しやすくなります。
水苔を用意する
植えつけには水苔を使います。水苔は乾燥して袋詰になったものが販売されています。袋を押したときにしっかりとした弾力があるのが良い水苔です。
水苔は、乾燥したままでは使えないので、バケツなどにためた水に長時間しっかりと吸わせて戻してから使います。水で戻す時間が短いと、水苔のふっくらした質感がなくなり、本来持っている機能が十分発揮されません。
水苔は乾いたものをほぐして全体に水をかけて吸水させて1日置き、もう一度水をかけてふんわりするように戻してから使います。
道具の消毒
はさみ、ピンセットは作業の前にガスバーナーであぶって、消毒します。道具にウイルスや菌がついていると、株が感染して生育不良の原因となることがあります。
特に複数の株を育てている場合は、株から株へとウイルスや病気が移る原因となることがあるので、道具は清潔に保つことを心がけましょう。
バルブをまとめておく
バルブがたくさんあったり四方八方に伸びてしまっていると作業がしにくくなってしまいます。あらかじめビニールタイなどでまとめておくと、作業がしやすくなります。
古い鉢から株を抜く
根鉢と鉢の間に入れたピンセットを内側にこじるようにして隙間を開けていきます。場所を変えて何回も同じことを繰り返し、根鉢を鉢から剥がします。
根鉢が緩んだら、今度はピンセットを外側に倒してテコの原理で鉢から引き抜きます。
根鉢を1/3切り、水苔をほぐしていく
根鉢の下1/3をはさみで切り、残った水苔はピンセットを使って外していきます。
根を整理する
水苔を落としたら、根を長さ5〜7㎝に切りそろえます。根を切ることで、切ったところから複数の根が伸びてきます。根が増えることで、秋までに充実した株を作ることができます。
バルブとバルブをつなぐ匍匐茎が二股に分かれているようであれば、このタイミングで株分けをすることもできます。小さな株も、一株が2〜3バルブずつになるようにすると、花が咲きやすくなります。
植え付けの準備
株のサイズに合った大きさの素焼き鉢を選び、鉢底網を入れ、その上に2㎝角ほどに砕いた発泡スチロール片を入れます。
鉢底まで水苔でいっぱいになる植えつけ方だと水持ちがよすぎて、根が傷むことがあります。また、鉢底に水が滞留しないようにする効果もあります。
根の中心に水苔のボールを入れる
水苔をゴルフボールくらいの大きさに丸め、その周りに根を広げます。いきなり水苔を根に巻きつけると根が広がっていかず、根張りが悪くなってしまうので気をつけましょう。
根に水苔を巻きつける
水苔で根を包んでいきます。水苔は紐状になっていますので、絡んだものは適宜ほどいて伸ばして使いましょう。ふんわり覆うのではなく、ややきつめに巻き詰めるイメージで行います。
新しい根が出ていれば、水苔で包みますが、新しい芽は水苔で隠れないようにします。匍匐茎が水苔の表面ぎりぎりになるのが適切な植えつけ深さです。
水苔は鉢より大きめに巻く
水苔は鉢の直径よりも一回り大きく巻き、それを鉢に収めていきます。
慣れないと水苔が固くなりすぎるように感じるかもしれませんが、水苔がゆるすぎると水持ちがよくなり過ぎて根がしっかり乾かず、健全に育たなくなってしまいます。
鉢には鉢底石がわりの発泡スチロール片を入れてあるので、そこにはあまり水苔をつけすぎないように気をつけましょう。
植えつけの固さは、株を持っても抜けない位が目安
しっかりとした固さに植えつけられていれば、株を持っても鉢から抜けません。このくらいの固さが目安です。株元がぐらつかないように植えるのがポイントです。
水苔を整える
飛び出してしまった水苔の端を押し込んでいきます。鉢の際のものは鉢と水苔の隙間に押し込んでいきます。表面に飛び出してしまっているものは上から突いて、表面を整えます。
ウォータースペースを作る
表面で浮いてしまっている水苔を竹べらや指で落ち着かせていきます。最後に全体を底に向かって少し押し込み、3号鉢で1㎝程度のウォータースペースを作ります。
完成!
植えつけが終わったら、いつも栽培している場所よりも少し暗い場所か、遮光をした場所で管理します。水やりは植えつけから2週間ほどしてからスタートします。肥料は根が張ったことを確認してから与えます。
植え替えのまとめ
植え替えをすると生育もよくなり、花も咲きやすくなります。大きく育った株であれば、植え替えと同時に株分けして、増やすこともできます。
慣れないうちは水苔の固さの加減が分からないかもしれませんが、何度もやっているうちにコツが分かってくるので、株元がぐらつかないようにしっかりと植え付けることを心がけ、是非挑戦してみてください。
明るい場所でしっかり日に当て、乾湿のメリハリを効かせた水やりを心がければカトレアを咲かせるのは難しくありません。ぜひともみなさんも、カトレアに挑戦してみてください!
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