世界の植物紀行 – 四代目金岡又右衛門 –スペインとヤシ

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今回はスペインで生産される観賞用植物としては、ユッカと並んで人気が高い植物「ヤシ類」についてお話をしたいと思う。

目次

スペインの街並みとヤシ

ヤシは熱帯に多く、亜熱帯から温帯にかけて広く分布する植物である。飲料や食料などに用いられる食用のヤシ類もあれば、私のお世話になっている先輩が手掛けるヤシノミ洗剤などの生活用、そして私たち植物業界でも観賞用や輸出入には欠かせないココピートの原料など、その用途は幅広くとても実用性が高い植物である。

スペインにおいて、植物の生産や輸出を行うナーセリーが林立しているバレンシア州アリカンテを訪れると、数百社あると言われるオリーブナーセリーの中にヤシを扱うナーセリーを見かける。おそらくアリカンテ地方の温暖な気候がヤシの生産に適しているからであろう。スペインはヤシの生産量に関して世界有数の国でもある。

 

アリカンテのエルチェという街に向かうと背の高いナツメヤシが至る所に植栽されており、広大なヤシ園が存在する。このエルチェのヤシ園は欧州最大規模で、ユネスコの世界文化遺産にも登録されるほど歴史と美しさがある。

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ヤシの博物館

さらにエルチェ中心部に向かうと、有名ホテルであるホテル デル クーラの前にヤシの博物館があり、植物園のようにいろんな国のヤシが屋外にて展示されている。入場料は確か5ユーロぐらいであったと記憶している。

 

その中でも一番の注目といえば、一つの根から出ている七つ頭のヤシであろう。これは圧巻である。キングギドラも真っ青の、まるで天に向かう龍のようにも見える。辰年生まれで龍をこよなく愛する又右衛門にはドキドキの展示であった。

 

博物館自体の大きさはそれほどでもなく、さっと観て歩くだけなら小一時間で十分だが、各国か集められた魅力的なヤシを丁寧に観ていくと数時間を要する。出入り口付近には土産物屋もあるので、エルチェに行かれたら世界遺産と街歩き、そしてこの博物館を訪れてみられることをおすすめする。

 

また、この博物館から同じ通りを歩いて数分でとても安くておいしいレストランがあり、お昼には行列ができるほどである。

大のお気に入りはこのスープ。本当においしいので、是非ご賞味いただきたい。サラダにこのスープ、メイン、そしてドルチェがセットになっていて10ユーロぐらいである。このほかにも鮮度の良い魚介、有名なイベリコ豚、パエジャ(パエリア)の美味しい店など多くある。一つ一つ紹介をと思ったが、『又右衛門の世界の食物紀行』になってしまうので、この辺で終えておこう。

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ヤシのナーセリー

さて話をヤシに戻すことにして、エルチェ周辺のヤシのナーセリーを周るとワシントニア、カナリエンシスなど大型のヤシが多く扱われており、大きなPOTに植えられたものを見かけることがある。

また以前パートナーに畑を観に行かないか? と誘われて、車で1時間少し走ったところに驚くような光景があったことが思い出される……。

 

人気品種で小さなものでも品不足で、大きなものなど中々お目にかかれない「ブラヘア・アルマータ」がこれでもか! というほどに、それも密集して植えられている。(注:奥に見えるのがブラヘアです)

 

その数は5,000本以上である。園芸家にとってはヤシ園より壮観な光景であった。

私の喉から手が出ているのを見られたのか、パートナーが「又右衛門、この畑ごと買わないか?」と半分冗談のような、本気のようなテンションで問いかけてきた。「OK!」と返事がしたくなるほど植物はとても魅力的であったが、残念ながら土に植わっているので涙をのんだ。

ここで皆さんも少し不思議がるかなと思う。いつものように丁寧に根を洗い、ピートモスなどの土の代用品で植え替え、又右衛門エリアで養生させればいいのでは?と考えるかもしれないが、実際はそう簡単にいかないのだ。ヤシ類の多くは根を洗い植え替えると枯死してしまう、もしくはストレスにて著しく弱ってしまうのである。そのような状況で送られた植物は長距離輸送などには耐えられないため、よほどのことがない限りは行わない。

であるならば日本に輸入するためには、苗の時から輸入可能な土の代用品で育てられたものを探すしか方法はないのである。この地方でも、輸出が盛んな頃には種や幼い苗の時から土以外で栽培されていたが、景気の低迷による価格への影響によって、現在はかなり少なくなってしまっている。新たに手掛けるとしても小さなものでも数年、大きいものなら十年以上かかってしまうので今後はもっと品不足になるかもしれないと危惧している。

そのような中から、輸出用に栽培されていたヤシ類をいくつか紹介させていただくとする。

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スペインで栽培されているヤシ類6選

ビスマルキア・ノビリス

ヤシの中でも最も人気があると言っていいかもしれない。マダガスカルなどで実際に自生している姿の風格は他のヤシ群を抜いており、その姿に魅了されたのは私だけではないはず。長期輸送や環境の変化には正直強いとは言えないが管理を工夫すれば日本でも栽培が可能である。

ブラヘア・アルマータ

鮮やかなシルバーブルーが美しく、耐寒性にも優れていて屋外での地植えも可能なためとても人気が高い。環境の変化にも対応しやすいため、日本の植栽にも向いている品種。そのため大型のPOT植えは各国で希少性が高まってきている。

チャメロプス・フミリス・ボルケーノ(ボルカノ)

少しシルバーがかったグリーンで、葉が密集したボリューム感が魅力的。耐暑性耐寒性にも強い。またヤシの特徴である上に伸びることもゆっくりとしていてガーデンデザインにも組み込みやすいであろう。

チャメロプス・フミリス・セリフェラ

小さめでシルバーグリーンの葉が繊細さを感じさせてくれるのが特徴。見た目からは連想し難い強耐性がさらに魅力を増してくれる。

また、展示会で又右衛門が注目した品種で、これから日本へ向けての輸入が始まる魅力的なヤシをご紹介しよう。

チャメロプス・フミリス・コンパクタ

チャメロプス・フミリス・ボルケーノが、その名の通りボリュームがありながらもコンパクトになったとてもキュートな種類。スペインやそのほかの地域で栽培されている。生産者とその血統により大きく見た目に違いが出てくるためサイズだけでは良し悪しの判断が難しい。

トリスリナックス・カンペストリス

ヤシ類とは思えないようなかなり固いシルバーの葉と生長と共に株が横に拡がっていくような独特なフォルムが魅力的。見た目の通り強健で寒さなどにも十分耐える。また生長がかなり遅いため、ある意味使いやすさもあるだろう。

その他にも、欧州では人気のジュベアをはじめサバルヤシやナンノロプスなどを見かけることもできた。

また、これから生産が始まるためまだ展示会にも登場していない品種としては、トラキカルプス・プリンセプスが注目である。これはきれいに広がる葉の表側はグリーン、裏側はシルバーという特徴的な希少品種。わずかながらスペインで栽培されているのを幸運にも見つけることができた。病害虫にも比較的強く耐寒性もあるとのこと。このような希少な品種の栽培は現地に行かなければ手に入れられないだろう。

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次回は、スペインで生産されるその他の植物について書かせていただきたく思います。

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