前田有紀の一“花”言vol.40「渡来徹×前田有紀の対談」〜これからのいけばなについて

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LOVEGREEN編集部

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今回は、日本を代表する花道家の渡来徹さん(Tumbler&FLOWERS主宰)と前田有紀さんとの対談の模様をご紹介。かたちは違えど、お花を仕事にするお二人の考え方や、いけばなの今後などをテーマに赤裸々に語り合ってもらいました。

いけばなの間口を広げるために

2019年1月に開催された展示会『色を纏う花展』。前田さんと渡来さんは、この展示会で初めて一緒に仕事をすることになった。

前田
渡来さんと初めてお仕事をご一緒させていただいたのは、今年の1月に開催した『色を纏う花展』(前田さんの自主企画の展示会)でしたね。その前からずっと渡来さんの活動には興味があったんですよ。

渡来
カフェでお茶をしながら花を一杯いける。そんな気軽な状況で、いけばなに触れる機会があってもいいんじゃないかと思ったんですよ。あの展示会やったの今年でしたっけ。意外と最近なんだなぁ。

前田
ほんとに! 今回はワークショップに参加させていただきましたが(ワークショップの模様はこちらから)、カフェで皆さんとお話をしながらいけばなができるレッスンっていいですね! いけばなの敷居が低くなって、間口も広がりますし。

和気あいあいとおしゃべりをしながら、いけばなができるところってあまりないですよね?

渡来
間口が狭いと、どうしても気軽に参加したいと思えないじゃないですか。いけばな業界の現状を考えれば、教室のありようはさまざま用意しておいた方がいいと考えています。

6月12日、鎌倉のVERVE COFFEE ROASTERSで行われた渡来さんのいけばなレッスン。前田さんを含め、この日もたくさんの参加者が集まった。

前田
やはりいけばなをやっている方の人口って、減ってしまっているのでしょうか?

渡来
直近で考えれば緩やかな右肩下がりは変わらないですね。今からでも、始める人続ける人を増やさないと、将来的に教える人がいなくなっちゃうんじゃないかと。

前田
でも渡来さんのいけばな教室には、「行きたい!」と思う新規の方が多いんじゃないですか?

渡来
そう思っていただけたら嬉しいですよね。いけばな自体は奥が深くて、本当に楽しい。でも今の時代に合った伝え方や見せ方、やりようがある気がして日々試行錯誤しています。

前田
そうなんですか?

渡来
たとえば「自分の部屋に飾る花がうまくなりたい」という理由で体験にいらした生徒で、床に飾るという人はほとんどいません。そこでまずは飾る花を選ぶこと、飾る場所を決めることに焦点をあて、うつわとの関わりも含めて落とし所を考えるのが馴染みやすいかなと思うんです。

前田
たしかに今日のレッスンでは、がちがちなルールはなかったですね。以前、私がいけばなを習っていたときは、枝の長さや傾ける角度など、細かなルールがあったのですが。

渡来
細かなルールは先人が練り込んで来た美意識やバランス感覚の賜物で、花を学ぶ一つの近道といえます。また古くから芸事においてはまずは自己を滅して型を学び、その中で技術を磨く。その技術を持って発露する理りを表すとされてきました。それゆえにいけばなというと、ある種前段ともいえるルールや花型の印象が先行することも少なからずあります。

個人的にはひとまずフリースタイルで花に向き合って、そこから各々が何かを感じてもらえたらと。結果、花型を学びたいという人も出てきますし、好きな花瓶を持参していけるのが楽しいと続ける人もいていい。人の数だけ、いけばなの楽しみ方があると思うんです。

前田
楽しいと思えましたよ。使うお花を選べるのもワクワクしましたし!

渡来
それも大切なことです。そもそも花を飾るって、小さい子が道端に咲いているそれを衝動的に摘んでしまうことと変わらないくらい、根本的な欲求のように思えます。また能動的に花を選ぶ習慣をつけておくと、花の取り合わせも自然に身につきますし。車の運転をするときにナビに頼っていたら、いつまで経っても道を覚えないのと一緒ですね。

いけばなで余白をつけるということ

渡来
それと、もう少し踏み込んでお話しさせてもらうと、花をいけた時にうまれる余白、その向こう側というか…、そこに現れる物語を想像してほしいんです。

前田
余白の向こう側ですか?

渡来
自分がいける時には花材同士の関わらせ方やその結果生まれるであろう余白に、ちょっとしたストーリーを描きながらいけることが大概です。だから生徒さんにも埋めるばかりでなく、余白をつくる面白みを感じてもらいたいんです。

前田
余白があると埋めたくなってしまうんですかね?

渡来
ついつい埋めてしまう生徒にはこう言うんです、「それって付き合いたてのカップルみたいね」と。

前田
どういうことですか?

渡来
若かりし付き合いたての頃に、沈黙や間が寂しいのか怖いのか、ついついあれもこれもと会話を繋ごうとした経験はありませんか? でも時が経つにつれて無言の時間もうまれ、それが心地良かったりする。これを経験値とか信頼関係といってしまえばそうなんですが、こうした無言の時間、余白にあたる部分はいけばなにも必要だと思いますし、一見なにもないところにも、きちんと意味があったりするのかな、と。

生徒さんがいけた花を渡来さんが手直しする。このときにも余白の必要性をきちんと説明する。

前田
なるほど。 はじめたての頃は理解するには少し時間がかかるかもしれませんね。また、渡来さんは海外の方から人気が強い印象があります。

渡来
ありがたいことです。先日ミラノに行ったときには、建築家やヘアメイク、デザイナーなど、クリエイターの方々にいけばなを教える機会がありました。それぞれの分野でご活躍されてらっしゃるプロフェッショナルに、いけばなを通じて自らのフィールドでも刺激を受けたとおっしゃっていただけてうれしかったです。

前田
わかる気がします。そういえば、渡来さんももともとはクリエイターとしてお仕事をされてましたよね?

渡来
もともとはファッション誌の編集に携わっていました。いけばなの考え方というか接し方って、編集をはじめとした様々な専門職に有用に思えて、今でも誌面づくりをされてらっしゃる方にもいけばなを知ってもらうきっかけになれたらと思っているんです。

花がある生活を広めるための、それぞれの役割

渡来
そういえば、前田さんと初めてお話させていただいたときに「間口を広げるのは、私たちの役割。お花に興味を持ってもらって、その先の選択肢に渡来さんが教えるいけばながあれば」っておっしゃってもらって。それはもっともだな、と腑に落ちまして。

前田
よく覚えていてくださいましたね!

渡来
あのとき、なにも花やいけばなを好きになってもらうための最前線に、自分が立っていなくていいんだと思えたんです。それに僕みたいな人間が入口に立っているより、前田さんが立っていらした方がみな入りやすい(笑)。

前田
そんなことはないですよ! 私はまだ渡来さんのいけばなに出合っていない方々を、早く出合わせてあげたいです。もちろんいけばな自体に魅力はありますが、渡来さんのレッスンに参加すると、心から楽しいって思えるんです。

渡来
そうおっしゃっていただけるとありがたい。だからこそいろんな場で、鎌倉でもワークショップを続けていきたいんです。今後は、参加者と鎌倉の自然観察に行ってからレッスン、というプランも考えています。

前田
それ、すごく楽しそうですね!

渡来
植物がどうやって生長しているのか、太陽はどこを巡っているのか、周辺の木々との関わりはどうか。自然の中にある植物のありようを見たうえで、いけばなをしてもらいたいんです。

前田
今から楽しみです。そのレッスンにはぜひ参加させていただきます!

渡来さんがいけた作品がこちら。太陽に向かって伸びていく花や枝など、自然の景色がうまく表現されている。

知れば知るほど、奥の深いいけばな。渡来さんと前田さん、それぞれが違ったアプローチをすることで、いけばなファンが今後どんどん増えていくかもしれません。「試しにやってみようか」そう思った方は、ぜひ渡来さんのワークショップに参加してみてはいかがでしょう。

 

次回の渡来徹さんの生け花教室
AT VERVE KAMAKURA

・日時:9月11日(水)9:30~ ※90分程度 
・場所:神奈川県鎌倉市雪ノ下 1-10-8 Verve Coffee Roasters Kamakura
・参加費:実用レッスン5400円(初回花代込み)、別途ワンドリンクオーダー
※参加費は先生にお支払する講習料となります。また、お持ちいただくものは基本ございませんが、花器をお持ちいただいても問題ございません。
※レッスンスケジュールは、渡来さんのSNSなどでも確認できます。
instagram/@watara_ikebana

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引き続き月に2回、前田さんの連載の「前田有紀の一花言」を配信。

フラワースタイリスト 前田有紀  2013年イギリスに留学し、帰国後フラワースタイリストとして活躍。イベント装飾やブーケやアレンジメントの制作を手がけ、雑誌やSNSなどでメディアを通して花と緑のある暮らしを提案している。2017年の春以降は積極的にワークショップも行い、花や緑に関わる人々と直接ふれあうことでリアルな声も積極的に取り入れている。また、2017年10月にオープンした「世界の花屋」では、デザイン監修を務め、世界の花々の生産や流通など、花の歴史などの魅力を伝えている。

フラワーアーティスト
前田有紀

2013年イギリスに留学し、帰国後フラワーアーティストとして活躍。イベント装飾やブーケやアレンジメントの制作を手がけ、雑誌やSNSなどでメディアを通して花と緑のある暮らしを提案している。

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