祈りの植物|5月~柏(カシワ)の葉に込めた子どもへの愛
LOVEGREEN編集部
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5月の祈りの植物は柏。古代から近代まで、日本人にとって特別な植物として考えられてきた柏の特徴やいわれをご紹介します。
目次
端午の節句の3つの植物
菖蒲(ショウブ)と花菖蒲(ハナショウブ)
5月5日は「端午の節句」。子どもの健康な成長を願う日です。別名を菖蒲の節句といい、菖蒲湯に入る風習はよく知られます。この季節は気候が不安定になるため、中国では病気にならないよう菖蒲を用いて厄除けをしました。それが日本に伝わって、今も生活の中に根付いています。
ちなみに、菖蒲湯に使うのはサトイモ科の菖蒲で、私たちが菖蒲と聞いて思い浮かべるアヤメ科の花菖蒲は別物です。古来、香りのある植物は厄除けに使われてきました。お風呂に入れるのは強い香りを持つ菖蒲。この時期に咲き始める花を楽しむのが花菖蒲です。
柏
端午の節句でもうひとつ忘れてはいけない祈りの植物が、今回の主役です。葉っぱを見るだけで、その名が分かる樹木は決して多くありません。でも、この波打つような葉の形を見れば、日本人の誰もがすぐにこの植物の名を思い出すでしょう。そう、柏餅に使われている柏です。
どうして柏の葉を使ったの?
柏の葉の位置づけ
おとなの手ほどの大きさがある柏の葉は、古代から食べ物の器として用いられてきました。また、葉に含まれる成分(オイゲノール)には殺菌効果もあることから、植物の保存にも重宝されました。神事の際には、神に捧げる御食(みけ)の器としても使われる、神聖な植物のひとつです。
柏の英名は、「Japanese Emperor Oak」=日本の皇帝のオーク。日本という名前が付いたオーク(ブナ科樹木)、しかも皇帝の木なのですから、いかに重要な植物だと考えられていたかが分かります。
柏の家紋
余談ですが、日本には家紋という文化があります。柏の葉を描いた柏紋は、神官や武家に好まれ、十大家紋のひとつにも数えられています。代表的な一族では、熱田神宮の大宮司を務めた千秋氏、伊勢神宮に仕えた久志本氏のほか、山内一豊で有名な山内家などが、この柏紋を使いました。
枯れても落ちず、子を見守る親
柏の木の性質
「つまり、高貴な人たちが愛でた木なんでしょう?」と思われるかもしれません。でも、それだけではないのです。一般庶民にとっても、柏は自分の願いを託す、特別な祈りの植物になってきました。その理由には、この樹木が持っている独特な性質が大きく関わっています。
柏は、日本と中国原産のブナ科コナラ属の落葉高木。ただし落葉といっても、秋に枯れた葉は、冬の間も枝から落ちません。次の年の春、新しく緑の葉が出てくるのを待って、枯葉は落ちていきます。その姿は、子どもの成長を見届けてから、親が去っていく姿にたとえられました。
「ちょっと疲れたけど、この子の成長を待とう」というと悲壮な感じもしますが、いつの世でも、どんな立場の人でも、親は子どもの成長を見守りたいと願うもの。子どもの健康を祈る端午の節句の柏餅が、どうして柏の葉で包まれているのか。そこには、親の愛情が込められているのです。
落葉樹なのに、木にいつも葉がついている様子から、代が途切れない=子孫繁栄の植物にもなりました。柏餅を包んでいる柏には、こんな特徴といわれがあります。端午の節句は、子どものためのお祭りというだけでなく、親が親であることを見直すべき日なのかもしれません。
忘れてはいけない日本の原風景
子どもたちにも、(親の愛情を押し付けると嫌がられるかもしれませんが・・・)、柏のこうした特徴やいわれを知ってもらえるといいですよね。しかし最近では、柏を見かけることはほとんどありません。樹高が10~15mにもなるため、一般家庭のガーデンでは庭木として使いにくいためです。
かつては、農家の裏庭などで、柏の木をよく見かけました。柏の大木のある家には毎年、柏餅に使う葉を集めるため、和菓子屋さんが訪ねてきました。葉を採った業者は帰りがけ、「お礼に」と饅頭を置いていく。農家に育った人なら、そんな光景を思い出すかもしれません。
真っ直ぐに伸びる樹幹は、木登りにこそ向きませんでしたが、柏は子どもたちが植物の不思議を知るきっかけになっていました。天を目指して高く真っ直ぐに伸びていく柏の木は、今の子どもたちにもぜひ見せてあげたい、私たちが失ってはいけない日本の原風景のひとつです。
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