パンジー、ビオラの個人育種家・川越ROKAさんに聞いた!育種の歴史、交配方法、注目の個人育種家
金子三保子
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パンジー、ビオラは秋から春にかけて花壇や寄せ植えなどのガーデニングで人気のアイテム!花屋さんでもたくさんのパンジー、ビオラが並んでいます。最近、その中でも色や咲き方が個性的で素敵なパンジーやビオラを見かけることがありませんか?それが個人育種のパンジーとビオラです。
ここ数年、品種もたくさん増えてきたことによって認知度が上がり、中にはビオラたちを心から愛する「ビオラリアン」という方々も誕生しています。
今回は個人育種のパンジー&ビオラとはどのようなものか、そしてその魅力について、ビオラの育種家、川越ROKAさんに伺いました。
目次
ホーン立花(川越さん育成)
コーソン系(宿根系)の交配種でいい香りがあります。
川越ROKAさんプロフィール
1961年宮崎市生まれ。平成3年頃より、パンジー・ビオラの育種に関わる。極々小輪系や細弁系(バニー)などの新しい花型を育成。また八重咲きの作出法の発見など、以降の日本のパンジー・ビオラに大きな影響を与える。現在は、後進の育成に取り組みながら、パンジー・ビオラの魅力を執筆や講演などで発信している。
写真提供・川越ROKA
川越ROKAさんブログ ROKA BLOG
パンジーとビオラの違い
パンジーとビオラはどう違うのですか?
簡単に言うと「原種」の関わり方の違いになります。花を目的に進化してきた「パンジー」ですが、それを花壇に使えるようにと、「原種」が再び関わって丈夫で花が沢山咲く種類が出来ました。それが「ビオラ」になります。「パンジー」の始まりから40年後ぐらいの頃です。パンジーとビオラは別々に進化を遂げてきたのですが、1980年代(昭和の終わりごろ)にこの2種の血を混ぜようという流れがありました。その流れは続いており、パンジーとビオラの良いところ取りの「中間型」が増えてきました。現在は花のサイズによって区別されることが多いのですがその基準は曖昧で、花の大きさが3cm程度までのものが「ビオラ」、それより大きいものが「パンジー」のイメージです。
ビオラ・トリカラー(母種)
パンジーはこの原種を元に、他の原種を交配して作りだされたと言われています。
日本で育種が盛んになったのはいつからなのでしょうか?
日本へは1860年にアメリカから種子が入ってきたのが最初です。本格的な育種が始まったのは戦後で、個人育種家も登場しましたが、次第に種苗会社の育種が主流になりました。再び、個人の育種が盛んになったのは平成になってからです。
ご存知のように、パンジー、ビオラは、毎年の様に新しい花が皆さんの前に登場します。それを作りだす作業を「育種」と言います。現在、パンジーとビオラにおいては、多くの生産者さんや個人育種家の方が、その人らしい特徴的な花達を送りだしています。
新しいパンジー、ビオラって簡単にできるものなのでしょうか?
はい、パンジーとビオラについていえば、全然難しくありません。
交配自体はものの数秒で出来ますし、種を播いて3か月程度で結果を見ることも出来ます。その方法さえマスターすれば、誰でも新しいパンジー・ビオラを作り出すことは可能です。
今回はパンジー・ビオラのもう一つ上の楽しみの「育種」について詳しくご紹介させていただきます。
パンジー、ビオラの育種は花のデザイン
育種についてもう少し詳しく教えてください。
辞書を引きますと、「遺伝的形質を利用して、新たに人間に有用な特性を持った植物を作り出すこと」とあります。
分かりやすく言うと、パンジー&ビオラの場合は「花」の鑑賞が目的ですので、これまでにない「美しい色」や「可愛い形」などを新しく作りだしていくということになります。つまりは花のデザインです。また他に、早咲き性や沢山花が咲くなど実用的な部分も含まれます。
具体的にはどのようなことを行うのでしょうか?
「交配」という作業を行います。
でも、「受粉」と言いかえれば皆さん小学校の理科で習った記憶がおありではないかと思います。つまり「雄しべの花粉をめしべに付ける(受粉)と種が出来る」ということです。
自然界では、ハチやチョウなどが行う行為を、人間が行う。こんな花がほしいな、こんな色を作りたいなと思い描いて、花粉を付ける。これが「交配(人為交配)」です。それで出来た種を育てて、イメージに合うものを選びだしていく(選抜)。これらの行為に繰り返しによって新しい花が生まれてきます。これが「育種」です。そして、育種を行う人を「育種家(ブリーダー)」と言います。
パンジー、ビオラの交配の流れ
交配道具
目打ち(もしくはピンセット、竹串など先端が細いもの)、付箋、ボールペン、ホッチキスがあれば交配出来ます。
目打ちは、花粉をすくってめしべの柱頭へ入れる(交配)ために使います。
付箋は、交配した花 に日付と花粉親の記録を書いて、花茎に付けて置くのに使います。ホッチキスはそれが剥がれないようにするためのものです。
柱頭
花の真ん中にあるのがめしべです。穴が開いているのがお分かりでしょうか?
この穴が柱頭で、ここに花粉をすくっていれると交配は終了。ものの数秒です。花粉はこのめしべの下(花弁の奥の窪み)にこぼれ落ちています。
交配ラベル
このように付箋に記録を書いてホッチキスで止めます。病気予防のために花弁は全部取ります。
種ができたサイン
受粉がうまくいくと次第に実が膨らんできます。完熟には30日程度かかります。日付の記録がひとつの目安です。
未熟の種
下向きで緑色、触ってみると柔らかい感じです。
完熟している種
上向きになりやや茶色を帯びてきます。触ると固いです。そのままにしておくとはぜて飛び散ってしまうので、この状態になったら花茎ごと切り取って封筒に入れて乾燥させます。
初めての方はこの見極めが難しいと思いますので、お茶パック袋をかぶせて中で爆ぜさせて採種をされるといいでしょう。
採種した交配種子
封筒には種子親と花粉親、採種日の記録を付けます。種が爆ぜたら冷蔵庫で種まきまで保管します。冷蔵庫で保管すれば、5年ぐらいは発芽します。
パンジー、ビオラの専門用語
パンジー・ビオラの咲き方(花型)や色、模様について使われる独特な専門用語をご紹介します。
焼け
焼けとは遺伝的要因と外的要因(寒さ)によって花弁の表皮の一部が水分を失ったようになる形質です。その表皮は日光が当たるとてかりを帯びて光ります。本来は良くないとされていた形質ですが、拾い上げ磨き上げて“美”へと昇華しました。日本人だからこそなせる業です。
ツタンカーメン(笈川勝之さん育成)
銀色に見える花弁の一部が焼けです。
反転咲き
花弁の4枚がシクラメンのように後ろへ反転する咲き方です。日本で初めて完成した花型です。現在はいろんなバリエーションがあります。
モンロースカート(コウロギノブコさん育成)
覆輪(ピコティ)
花の縁取りが地色と違う色になる模様のことです。その出方によって3タイプに分けられます。
本覆輪 さつまサンライズ(川越さん育成)
初恋、ゆれる(木村靖さん選抜)
細かったり太かったりと覆輪に揺れ幅があります。
ブロッチ覆輪
ブロッチとは花の黒い部分を言います。これが上弁にも広がっている覆輪模様です。育成にとても手間がかかりますが、その分工芸品的な趣が感じられます。園芸植物(人工物)としてのパンジーの究極の美のひとつです。
ブロッチ覆輪 満天(川越さん育成)
ブロッチ覆輪 黒潮(川越さん育成)
ベイン(あみめ)
あなたと歌を~歓喜の歌~(石村あさみさん育成)
花の脈が色付いて網目のように見える模様です。これも育成にとても手間がかかるパンジーの究極の美のひとつです。
青染み(ブルーイング)
地色に薄く藍色をぼかした色合いのことを言います。以前は「色が濁る」として嫌われていましたが、これも磨き上げられて評価が変わりました。言葉では表現できない色合いが次々と誕生しています。
エボルベ(大牟田尚徳さん育成)
エボルベ(大牟田尚徳さん育成)
個人育種について
個人育種について教えて下さい。
生産者さんや愛好家の個人の方が行っている育種のことです。
これに対して種苗会社などが行っている育種のことを「企業育種」といいます。
皆さんが園芸店やホームセンターなどでよく目にする花色、花型が同じ花、それが種苗会社の作った品種です。早咲き性や冬の連続開花性、多花性など種苗会社で育種された品種の性質は優れたものが多いのですが、花に関していうとちょっと物足りない…。そんな折に自分のイメージする花を目指して交配をする人が現れました。交配は簡単な作業。そこから育てた苗から自分好みの花を選んでいくことの繰り返し。その結果、パンジー・ビオラの多様性が広がっていったのです。今まで見たことがない花型や花色。それがSNSなどで多くの皆さんに知られるようになってきました。
育種は“ものづくり”です。その為、作り出された花には、その人なりの個性やセンスが現れます。例えば「ピンク」と言っても人によってイメージするピンクは様々です。そして、育種は人と違うことに価値があります。ですから、多くの方が参加する意味があるのです。
次のページでは注目の育種家さんの作ったパンジー、ビオラをご紹介!
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