きれいな日本語を知ろう。夏の季語を使った俳句にはどんな句がある?
小野寺葉月
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俳句で必ず用いるのが季語ですが、季語は現代にはなくなってしまった風習や行事もあり、季語帳を読んでいるだけで時間旅行をしているような気分になれます。季節について思いめぐらすと日常生活の中で「あ、これは」と気づくことがたくさんあります。夏の季語を知ってより深く季節を感じてみませんか?
目次
■季語とは
季語とは
俳句などで用いられる季節を表す言葉のことです。季語の中には植物、時候、天文、地理、生活などのカテゴリーに分かれています。俳句の世界では立夏(5月5日ごろ)から立秋(8月8日ごろ)の前日までが夏となっています。季節に合わせて春には春の季語、夏には夏の季語を使います。あげた季語の後に同じ意味の他の表現のしかたを書いています。
植物の季語と季語を使った俳句
その時期に盛りの植物はもちろん、植物全体の流れ(草が生える、枯れるなど)のことを表現する季語があります。現在はハウス栽培や品種改良で一年中お花屋さんで見かける花も、本来の旬があります。
草茂る
道端や庭先、庭の隅の草たちの生い茂る様子をいいます。
昼も臥せりて 若き日遠し 草茂る 日野草城
昼も床に臥せっているようになるほど体の調子が良くなく、自らの老いを感じている状況です。また、横になった状態から外を見ると草が伸びて茂っている様子がよく見えます。
梔子(くちなし)の花
香りがよく、日本三大香木のひとつでもある梔子(くちなし)は夏に開花します。
驟雨くる くちなしの香を 踏みにじり 木下夕爾
驟雨(しゅうう)はにわか雨のようにざっと降ってさっとあがる雨のことです。くちなしの香が豊かに香っていたところで驟雨(しゅうう)に打たれて、香りが立ち消えてしまったことを雨が踏みにじったと表現しているのが素敵です。
南天の花
南天は白い細かい花をたくさん円錐状(えんすいじょう)につけます。
南天の 花に飛び込む 雨宿り 飴山実
急に雨が降ってきて、道端の南天の木で雨宿りをする句ですが、南天の花がちょうど顔の高さだったのでまるで花に飛び込むような感じになったんですね。
薔薇(ばら)
バラは現在の春の開花が俳句の季節では夏の季語として考えられています。
バラ散るや 己がくずれし 音の中 中村汀女
バラの堂々としたイメージに自らを投影して保っていた気持ちが、バラが散っていくことで自らも崩れてしまうような気持ちを詠んだ句です。
見るうちに 薔薇たわたわと 散り積もる 高浜虚子
バラの花びらは散りだすとみているうちに花びらがおちていく様子を詠んだ句です。たわたわと、という表現が面白い句です。
桃の葉を入れたたっぷりのお湯を子どもに浴びせている様子です。子どもは汗をかきやすくあせもになりやすいことを親が心配して世話をしてあげている様子ですね。
時候の季語と季語を使った俳句
時候のあいさつ、など手紙に書くときに使いますが、季節や天候に応じた気持ちや季節感を表現する言葉です。
夏めく、夏きざす
なんとなく陽気が夏らしくなることをいいます。
路地を出て 夏めく人に まじりけり 佐野青陽人
路地を出て大通りに行くと夏らしい服装の人たちがたくさん往来にいるのでしょうか。その人ごみの中に紛れて夏を感じているのでしょうか。
袖かろし 夏めく水仕 はげまされ 及川貞
水仕(みずし)とは、「御厨子」からきている言葉で、水仕事、台所仕事をすることです。また、そこで働く年季奉公で来た人たちのこと(当時は下男・下女と呼んでいたよう)です。夏用の着物に替わって軽やかな袖で水仕事、台所仕事をする水仕(みずし)にこちらが励まされるような、元気をもらうような状況。
入梅(にゅうばい)、梅雨の入、梅雨に入る、ついり
6月11.12日ごろのことです。
梅雨に入る はるかなる世を 見詰めつつ 野見山朱鳥
梅雨につづく雨を見詰めながらはるかなる世に思いめぐらし、考えてしまうようなときです。
天文の季語と季語を使った俳句
天文は天の文様からとった言葉で、そもそもは星や空の様子を占いなどに利用していた時の言葉です。俳句の季語では空模様、雨模様、風のこと、雷・・・などに関する季語です。
薫風(くんぷう)、風薫る
初夏に吹く青葉や若葉の匂いのするようなさわやかな風のこと。
薫風や 老いても歌う 応援歌 下村ひろし
5月、運動会かそれとも6月から始まる夏の全国高校野球大会でしょうか。老いてもなお薫風(くんぷう)を胸いっぱいに吸い込んで応援歌を歌う、爽やかな気持ちが伝わりますね。
夏の雲
夏は雲の変化が大きい季節です。四季を通して空にできる雲の種類は実は一定で、高さや地上から巻き上がるホコリなどの影響で見えにくくなる雲が有ったりはします。夏は特に上昇気流が発達しやすく、そういったホコリが舞い上がりやすため、低い位置から上空に伸びるようにできる積乱雲(入道雲)は見えやすいのですが上空に薄く広がる巻雲などは見えにくい、とされています。
夏雲の 湧きてさだまる 心あり 中村汀女
夏雲が空にわいてくる様を見ながら、なにか心が決まった、これだ、と定まった。夏雲の力強に後押しされました。
父のごとき 夏雲立てり 津山なり 西東三鬼
津山は三鬼の出身地である岡山県津山市のこと。夏の空にむくむくと立ち上っていく雲に6歳のころ亡くなった自分の父の面影を見たのでしょうか。晩年の句集「変身」に編されたこの句を詠んだとき三鬼は移住した神奈川県のは山にいたので、いつか見た津山の夏雲のことでしょうか。
地理の季語と季語を使った俳句
天のことを中心にしている天文とは反対に、地上にまつわる季語をいいます。山、海、池、湖、田んぼや野、花畑などです。
雪渓(せっけい)
高い山々の谷間や斜面などに残る、雪のこと。夏でも雪筋が見えるさまを言います。
雪渓を あおげばそこに 天せまる 水原秋桜子
夏でも雪が起こっているくらい高い山を仰げばすぐそこまで天が、空がせまっている。そんな素直な句です。
生活の季語と季語を使った俳句
人の生活についての季語です。行事やお祭り、衣食住に関することが中心です。
梅干 干梅 梅干す 梅酢くる 梅むしろ 梅酢
初夏に行う梅仕事。梅干についての季語は夏の季語です。
干梅に 大きく落す 蝶の影 山口青邨
筵やざるの上に梅を干しているのを眺めていると、そこへ蝶がひらひらとやってきて近づいたり離れたりしていると梅に大きな蝶の影が落ちた・・・そんな様子でしょうか。
桃葉湯(とうようとう) 桃の湯
桃の葉を風呂に入れて入浴するとあせもにきき、また桃は神聖な果物とされているため邪気と一緒に暑気を払うとされています。
桃の湯の あふるるを児に 浴せけり 篠原温亭
桃の葉を入れたたっぷりのお湯を子どもに浴びせている様子です。子どもは汗をかきやすくあせもになりやすいことを親が心配して世話をしてあげている様子ですね。
いかがでしたか? 季語を知ると私たちの普段の生活も彩るような気がしませんか。今回、俳句を詠みながらいろいろな情景を想像して、とても楽しかったです。季語は季節をより身近に感じるためにも、もっと広まってほしいなあと思います。私も俳句を詠むのはお休み中ですが、季節の句は継続して読んでいこうと思いました!
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