スミレ(菫)|花の咲く季節や特徴、種類、種の秘密まで
山田智美
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スミレ(菫)の花咲く季節や特徴、種を作る不思議な仕組み、種類やそれぞれの見分け方、色や外国名など、スミレ(菫)の魅力をとことんお伝えします。
目次
- スミレ(菫)とは?基本情報
- スミレ(菫)の花咲く季節
- いくつ知ってる?スミレ(菫)の種類
- スミレ(菫)の花と種の不思議な仕組み
- スミレ(菫)を外国語で言うと?
- すみれ色って何色?
- スミレ(菫)の育て方のコツ
スミレ(菫)とは?基本情報
スミレ(菫)の花はその可憐な姿とは裏腹に、実はとっても強健な植物です。野山や森のなかでひっそりと咲いているようなイメージがありますが、街なかの歩道の脇、ガードレールの下、道路のアスファルトの裂けめなど、身近な場所で見かけます。
スミレ(菫)
- 学名:Viola mandshurica
- 科名:スミレ科スミレ属
- 分類:多年草
- 原産地:日本、中国、朝鮮半島など
- 花期:3月~5月
スミレ(菫)は、スミレ科の総称として使われていますが、本来はこの「Viola mandshurica」を指す名前です。他の品種と区別するために本種を「ホンスミレ」や「マンジュリカ」と呼ぶこともあります。種小名の mandshurica とは満州を指す言葉ですが、原産地は日本です。スミレ(菫)は非常に種類の多い植物で、世界中に分布しています。そのなかでも日本はおよそ60種が自生している、スミレ(菫)大国です。
「スミレ(菫)=総称」でよいのですが、本当のスミレ(菫)とは、日本に自生する「Viola mandshurica」を指す名前なんだってことを理解しておいていただけると嬉しいです。
スミレ(菫)の花の特徴
スミレ(菫)の花は、後方に距(きょ)と呼ばれる部分が突起しているのが特徴。この距の中に蜜が入っていて、昆虫が蜜欲しさに花の中に潜り込み、体を花粉だらけにして授粉に協力するという仕組みです。
この後に突き出した距が墨入れに似ていることから「墨入れ」が転じて「スミレ(菫)」になったと言われていますが、この説は定かではありません。
スミレ(菫)の花咲く季節
スミレ(菫)の花が咲く季節は春、3月の下旬から5月くらいまで次々と花を咲かせ続けます。
女の子の名前としても人気のスミレ(菫)。歌や文学作品でも、可憐な女性を表現する際の例えに使用されたりします。かわいらしいものを表現するのに使われることの多い花です。イメージばかり先行してしまっていて、実際の花は見たことがないという方も多いのではないでしょうか。
桜の花が咲き誇り、みんなが頭上の桜に見とれている頃に、足元でひっそりと花を咲かせているのです。
いくつ知ってる?スミレ(菫)の種類
スミレ(菫)は自然交配による交雑種も多く、品種名を確定するのが難しい草花です。そんなスミレ(菫)の見分け方のヒントとして、有茎種か無茎種かという特徴があります。
スミレ(菫)の有茎種の茎
有茎種は茎を伸ばして、葉や花を付けます。無茎種は株元から直接花茎を伸ばして花を咲かせるという違いがあります。身近で見られるものでは、スミレ(Viola mandshurica)が無茎種、タチツボスミレ(Viola grypoceras)が有茎種です。さらに葉の形にも2つのタイプがあり、笹の葉のように細長いタイプとスペード型のタイプがあります。
品種別にスミレ(菫)の特徴をまとめましたので、見分ける時のヒントにしてください。
スミレ
- 学名:Viola mandshurica
- 茎:無茎種
- 葉:細長い
- 花色:濃い紫
日本に昔から自生しているスミレ(菫)です。濃く深い紫色の花を咲かせます。民家に近い公園や道端から明るい山野まで自生しているのを見かけます。
タチツボスミレ
- 学名:Viola grypoceras
- 茎:有茎種
- 葉:スペード型
- 花色:淡い紫
タチツボスミレは山野や公園、道路脇など身近な場所で見かけるスミレ(菫)です。開花が早く、2月の末~3月の上旬に咲いている姿を見かけます。
コスミレ
- 学名:Viola japonica
- 茎:無茎種
- 葉:やや細長い
- 花色:淡い紫
コスミレは、淡い紫色の品種。種小名が japonica であるように、日本原産のスミレです。山野の落葉樹の足元など、明るい日陰を好みます。
アオイスミレ
- 学名:Viola hondoensis
- 茎:無茎種
- 葉:丸みを帯びたスペード型
- 花色:青みのある淡い紫
アオイスミレは、淡い紫色の品種。丸みを帯びたスペード型と花の中心部の模様が特徴です。
オオバキスミレ
- 学名:Viola brevistipulata
- 茎:有茎種
- 葉:大きなスペード型
- 花色:明るい黄色
オオバキスミレは、日当たりのよい森の中や山野に自生しています。少し花期が遅く、他の品種が終わった頃に咲き始めます。葉は大きなスペード型をしています。花が明るい黄色なので、スミレ(菫)だとわからないくらいです。
アメリカスミレサイシン
- 学名:Viola sororia
- 茎:無茎種
- 葉:丸みを帯びたスペード型
- 花色:白に薄紫、白
アメリカスミレサイシンは、園芸用として入ってきた外来種が野生化した品種。身近な場所で見かける品種です。
エイザンスミレ
- 学名:Viola eizanensis
- 茎:有茎種
- 葉:細長くて縁がギザギザ
- 花色:白に近い淡い紫
エイザンスミレの名前の由来は比叡山に生えていたスミレ(菫)だからだそうです。最大の特徴は、縁がギザギザとした葉のフォルムです。
アリアケスミレ
- 学名:Viola betonicifolia var.albescens
- 茎:無茎種
- 葉:細長い
- 花色:白だが変種も多い
スミレ(菫)の中でも特に淡い花色が印象的なアリアケスミレ。春の新緑の中で羽毛のようにふわりと咲いています。
ノジスミレ
- 学名:Viola yedoensis
- 茎:無茎種
- 葉:細長い
- 花色:淡い紫
ノジスミレは、他のスミレ(菫)に比べて花びらが大きく花全体が丸みを帯びたようなフォルムをしています。民家近くの道端や明るい空き地などで見られます。
ニオイタチツボスミレ
- 学名:Viola obtusa
- 茎:有茎種
- 葉:スペード型
- 花色:濃い紫
ニオイタチツボスミレは、仲間のタチツボスミレ(菫)に比べて花色が濃いのが特徴です。明るい山野や公園などで見かけます。名前の通り香りがありますが、そんなに強い香りではありません。
アケボノスミレ
- 学名:Viola rossii
- 茎:有茎種
- 葉:スペード型
- 花色:淡いピンク
アケボノスミレは、淡いピンク色の花が特徴です。名前の由来は、花色が曙のような色をしているからだそうです。明るい森の中に自生しています。
スミレ(菫)の花と種の不思議な仕組み
スミレ(菫)という植物は、とても不思議な植物です。あの可愛らしい小さな花は、ちょっと不思議な作りになっています。一つ一つの花をよーく見てみると、花の後ろが細長く突き出すように袋状になっています。これを距(きょ)と言います。
この距は「蜜房」になっており、ここで蜜を分泌します。昆虫が蜜を求めてこのスミレ(菫)の花の中に入り込むと、体中が花粉まみれになり、この花粉まみれの昆虫が次の花へ移ることによって、授粉のお手伝いをするという仕組みです。
なんて良く出来ているんでしょう!でも実はこの方法では確実には結実しないのです。
それよりもスミレ(菫)は、花が咲かなくなった夏以降に次々と結実し、種を作ります。花が咲いていないのに結実するスミレ(菫)の花の不思議。結実と種の不思議については次でお話します。
スミレ(菫)が花を咲かせずに結実する不思議
スミレ(菫)の花が咲くのは春だとお話ししました。多くの植物は、花を咲かせることによって、受粉して実を作り種が出来ます。ところがスミレ(菫)は、春の花が終わった後も、夏や秋、時には冬にも結実します。花を咲かせていないのに結実するって不思議ですよね。
スミレ(菫)の花は「閉鎖花」と言って、まだ蕾の段階で自家授粉し結実してしまいます。こうやってあの可憐で小さなスミレ(菫)は1年中種を作り続けています。加えて、スミレ(菫)は交雑しやすい草花ですが、閉鎖花の種は他の花粉を授粉していません。というわけで、閉鎖花の種を集めてまけば、交雑していないスミレ(菫)を育てられることになります。
スミレ(菫)の種をばら撒く作戦の不思議
さらにスミレ(菫)は、その種を出来るだけ遠くに運ぶための工夫にも余念がありません。スミレ(菫)の種は熟すとさやが弾け、中の種が遠くに飛ぶようにできています。1m以上も遠くに飛ばすこともあります。こうして周囲に種をばらまき、またそこから発芽して新しい花を咲かせていきます。スミレ(菫)が群生して咲いているのはこの仕組みのせいだったんです。
さらにスミレ(菫)の種子は、エライオソームという糖質でコーティングされています。これを甘いものが大好きな蟻が運んでいくという仕組みです。蟻は周りの甘いところをなめ終わると、その辺に種を捨ててしまうので、その場で発芽します。
種を飛ばす仕組みと、蟻が手伝う仕組みのおかげで、我が家のバルコニーはそこら中の鉢からスミレ(菫)の花が咲いています。この小さく可憐な花はこんなに逞しく生き延びる知恵とテクニックを持っていました。
スミレ(菫)を外国語で言うと?
スミレ(菫)の花の外国名を調べてみました。
- 日本語…菫(スミレ)
- フランス語…Violette(ヴィオレット)
- 英語…Violet(ヴァイオレット)
- イタリア語…Viola(ヴィオラ)
- ポルトガル語…Violeta(ヴィオレッタ)
- ドイツ語…Veilchen(ファイルヒェン)
- オランダ語…Viooltje(ヴィオルーチェ)
スミレ(菫)は学名が「Viola」ですから、それに近い名前で呼ばれているようですね。綴りだけでも可憐な感じがします。女性の名前としても、世界中で愛されているようです。
すみれ色って何色?
色の例えで耳にする「すみれ色」。実際にはどんな色なんでしょうか。ちょっとロマンティックな表現で使用される色の名前です。
「すみれ色」とは、文字通りスミレ(菫)の花の色です。そのスミレ(菫)の花は種類豊富で色の定義が難しいのですが、「すみれ色」と言われた場合、スミレ(Viola mandshurica)のような青味の強い鮮やかな紫色を指します。淡い紫色は「藤色」と言いますので、すみれ色ではありません。「バイオレットカラー」も同じ青紫色を指します。
スミレ色以外の植物名が付いた紫色の表現
- ライラックカラー:スミレ色を淡くしたような青紫色
- 藤色:藤の花の様な淡い紫色
- ピオニーカラー:ボタンや芍薬のような、鮮やかな赤紫色
- アメジストカラー:紫水晶のような明るい青紫色
- モーブカラー:ゼニアオイの花の様な、グレイッシュな淡い紫色
すみれ色と混同されやすい、植物の名前がついた紫系の色を紹介しました。色の定義って曖昧で難しいですよね。何となくイメージではわかっているんだけど…という色も多いのではないでしょうか。ここに文字で書かれても今ひとつ良くわからない、という場合は実際の花を見てもらうのが一番だと思います。花を見に行く素敵な口実ができましたね。色の勉強も出来て一石二鳥です。
スミレ(菫)の育て方のコツ
スミレ(菫)は寿命の短い多年草です。庭植えにすると株は短命ですが、こぼれ種で良く増えるので、数年で少し離れた場所に移動しているというようなことがあります。このスミレ(菫)らしい可愛らしさも楽しんでください。
置き場所
日当たりの良い場所を好みます。冬から春は日当たりが良く、夏は半日陰になるような場所に置きましょう。
水やりのコツ
スミレ(菫)は水を好む植物です。水やりは、表土が乾いたらたっぷりと行います。水が切れると葉が萎れたようになってきて、株自体の元気がなくなります。この水切れを何度も繰り返すと株自体が弱ってしまいます。完全に水が切れる前に水やりを行うようにしましょう。
とは言っても水の与え過ぎは根腐れの原因となるので、表土が乾いていることを確認してから水やりしましょう。
スミレ(菫)の種まきのコツ
スミレ(菫)の種は、とりまき(収穫してすぐにまくこと)するか、保存しておいて春にまきます。寒さに当てる必要はないので、常温保存で問題ありません。赤玉土とバーミキュライトを混ぜたような、栄養のない用土にぱらぱらとまき、種が流れ出ないように注意して水やりします。
芽が出てきたら様子を見て、しっかりとしているものを残して間引き、ある程度大きくなったら山野草の土などに植え替えます。園芸用培養土でも問題なく育てられますが、我が家のスミレ(菫)たちを見ている限り、山野草の土が好きなようです。
スミレ(菫)の花を咲かせるコツ
スミレ(菫)の花を咲かせるコツは日当たりです。日当たりのよい場所で管理し、水切れに気をつけましょう。ただし、夏の直射日光は避けて、冬から春によく日が当たるような場所で管理してください。
種を採取する予定がないのであれば、花が終わったらまめに花がらを摘むようにしましょう。花がらを摘むことで余計な栄養を消費することがなくなり、次の花が咲きやすくなります。
スミレ(菫)は小さいながら、可憐さと強さを持ったかわいらしい花です。お庭やバルコニーで「こんなところから?」と思うような場所から花を咲かせたりする様子に愛おしさが増します。ぜひぜひ育てて眺めて、スミレ(菫)のかわいらしさに癒されてください。
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