自然の美しさ。日本の野山で見られる野生の桜10種
小野寺葉月
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桜の季節が近づいてきましたね。桜、というと一番最初に思い浮かべるのはソメイヨシノでしょうか。ソメイヨシノは実は園芸種で、江戸時代に開発されたものです。では、野生の桜って・・・?今回調べたのは日本で野生種と言われている桜です。
目次
■番外編
桜と日本人
桜と言えば日本!というイメージもありますが、桜自体は北半球で生育するため、ヨーロッパやアメリカにも生えています。中国と韓国には日本と気候も似ていることから、日本でよく愛でられる桜に近しい種類の桜があります。わたしも勘違いをしていたのですが、実は桜は日本の国花ではないのです。象徴、イメージとして桜を使うことは数多くありましたが、国花として法定されてはいません。
花と言えば桜のこと
現代、俳句では花と言えば桜のことを指しますが、その流れは平安時代からのものです。奈良時代では中国から伝わった文化が色濃かったため、和歌の中で花と言えば桜ではなく梅のことを指しました。江戸時代には河川の整備のために桜が植えられるようになりました。儚く散ることを「もののあはれ」と例えるようになったのはこの頃からですが、江戸時代の武士たちは「散る」というイメージは家が続かないなどのことを連想させるため、家紋などには使われることは少なかったようです。「桜のように散り際は潔くあるべき」というニュアンスで使われることが多くなったのは大正以降で、桜を象徴とした軍歌などもたくさん作られました。
農耕と桜
桜が咲く季節は毎年一定で、花も華やかで目立ったために、集落の中で田植えの目印として大切にされ、使われて来た歴史があります。様々な説がありますが、桜の「サ」は稲の意味で、田植の神様を象徴するものだという説もあります。「サ(稲)」の神様がいらっしゃる場所が「クラ(座)」。それが「サクラ」の語源だという説です。現に、田植えに関する言葉には「サ」から始まるものが多く、田植えの時期は「さつき(皐月)」、植える稲のことは「さなえ(早苗)」、苗を植える人を「さおとめ(五月女)」と言います。
ヤマザクラ(山桜)
学名:Cerasus jamasakura (Siebold ex Koidz.) H.Ohba, 1992
自生地:本州中部以南
名所:奈良県吉野郡・千本桜
特徴
吉野桜とはこの桜のことをさします。別名シロヤマサクラ。花は白いですが、萼片や若芽、葉は赤みがかっています。100~1000年のものもあるほど、樹齢が長いことでも有名です。
オオヤマザクラ(大山桜)
学名:Cerasus sargentii (Rehder) H.Ohba, 1992
自生地:本州中部以北だが四国でも確認されている。
名所:青森県弘前市・世界一の桜並木では約20km続く桜並木がみられる。オオシマザクラを中心に約6500本の桜が植えられている。
特徴
別名エゾヤマザクラ・ベニヤマザクラとも呼ばれます。全体にヤマザクラよりも大柄で、花はソメイヨシノやヤマザクラに比べるとピンクがかっています。
カスミザクラ(霞桜)
学名:Cerasus leveilleana ( Koehne ) H.Ohba, 2001
自生地:北海道、本州、四国
特徴
花の形状はヤマザクラによく似ていますが、ヤマザクラと比べると少し小さいです。また、花や葉に繊毛があり、遠目から見るとうっすら霞がかったように見えることからその名前が付きました。開花時期はヤマザクラより後になります。
オオシマザクラ(大島桜)
学名:Cerasus speciosa(Koidz.) H.Ohba, 1992
自生地:関東以南の島々に特にみられる。特に伊豆諸島に多い。伊豆半島や房総半島でも見ることが出来る。
名所:伊豆諸島・大島の天然記念物のサクラ株は推定樹齢は800年!
特徴
萼片や萼筒が黄緑色っぽいので、花自体がなんとなく白緑みを帯びて見えます。葉には毛が少ないため、桜餅用の葉によく使用されます。サクランボは食べられますが、えぐみがあるので食用として流通したりはしていません。
エドヒガン(江戸彼岸)
学名:Cerasus spachiana Lavalee ex H.Otto var. spachiana forma ascendens (Makino) H.Ohba, 1992
自生地:本州、四国、九州
名所:神代桜(山梨県北杜市)・樹齢2,000年、薄墨桜(岐阜県本巣市)・樹齢1,500年、などの巨木が有名。
特徴
桜の種類の中では、ヤマザクラと並びとても樹齢が長いことが知られています。ソメイヨシノなど他のサクラに比べて10日ほど開花が早く、だいたいお彼岸のころに花をつけることから、この名前がつきました。
岐阜県本巣市の淡墨桜。樹齢1,500年。咲き始めは薄ピンク、盛りは白、散り際は薄い墨色に見えるためこの名がついています。
チョウジザクラ(丁子桜)
学名:Prunus apetara Fr.et Sav.
自生地:東北南部以南の太平洋側。一部九州でも見られる。
特徴
萼筒が長く、咲いているときに横から見るとスパイスの丁子のように見えるためこの名がついています。
マメザクラ(豆桜)
学名:Prunus incisa
自生地:富士や箱根を中心に本州の中部、伊豆半島などで見ることが出来る。
特徴
フジザクラやハコネサクラとも呼ばれます。一般的なサクラよりも寒さに強く、標高の高い所でも育ちます。また、1mほどのころから花が咲くため、盆栽や庭木としても人気が高いです。花は小ぶりで樹高もそこまで高くなりません。
タカネザクラ(高嶺桜)
学名:Prunus nipponica Matsumura
自生地:本州南部以北
特徴
別名ミネサクラ。花はピンク色で中心に近いほど濃いピンク色になります。樹高は大きくなっても10m程度の大きさです。
ミヤマザクラ(深山桜)
学名:Prunus maximowiczii
自生地:北海道、本州、四国、九州に自生するが、南下するほど自生地の標高は高くなる傾向にある。
特徴
他のサクラと決定的に違うのは、花の付き方が総状花序であること。(総状花序とは、房状につく花のことで、フジやブットレアのような花の付き方)花の一つ一つは小さめで真っ白な花です。
カンヒザクラ(寒緋桜)
学名: Prunus cerasoides D. Don var. canpanulata (Maxim.) Koidz., 1910
自生地:沖縄県
特徴
中国南部から台湾にかけて自生している種で、日本で野生種が確認されているのは沖縄のみ。沖縄で桜と言えばこの寒緋桜をさします。沖縄では1~3月に開花。関東以南でも植えられており、2~3月にかけて開花します。雪洞みたいな花の付き方が特徴的。
番外編
ソメイヨシノは野生種ではなく園芸種
ソメイヨシノ(染井吉野)は、エドヒガン系のサクラと、オオシマサクラの雑種を交配させた園芸種です。7江戸末期、江戸の染井(現在の駒込あたり)は植木職人が沢山住んでおり、そこで開発された品種で、当時和歌などで有名だった奈良の吉野の桜(ヤマザクラ)にあやかり、「吉野桜」として売られ始めました。が、その後の調査でヤマザクラとは別品種だということがわかったため、1901年に「染井」の名をつけて「染井吉野」とされました。
明治時代以降、桜を植栽するといえば染井吉野が植えられ、現在気象庁が桜の開花宣言をする基準木も染井吉野となっています。そんな「桜と言えばソメイヨシノ」となっている現在ですが、実はソメイヨシノにはあまり樹齢が高い木がない(例外的に130年、140年のものや80年のものはある)ことから、樹齢60年説なども唱えられているんです。
桜と言えばソメイヨシノだけのイメージでしたが、実際には山桜など沢山の野生種があるのですね。ことしは野生種のサクラを山に見に行くのもまた別の楽しみがあるかもしれませんね!
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