花や実に特徴のあるガガイモ科の植物とは?ガガイモ科の魅力をご紹介!
三原広美
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新しい分類法が採用されたことにより、キョウチクトウ科に含まれたガガイモ科の植物。実に様々な形状を持ち、ひと目見たら忘れられないようなインパクトの花を持つものもあります。日本にも自生しているガガイモは、古事記でも登場します。旧分類法のガガイモ科の植物を魅力と共にご紹介します!
目次
「ガガイモ科」は「キョウチクトウ科」?
1998年に植物の新しい分類法が発表され、採用されるようになりました。新しい分類を実行する植物学者の団体名は、Angiosperm Pfylogeny Group(APG:被子植物系統発生グループ)という名称で、新分類法は「APG体系」と呼ばれています。
旧来の分類法「新エングラー体系」
旧来の植物の分類体系は、新エングラー体系と言い、花の構造などの形態的な特徴を基にした分類方法でした。
新しい分類法「APG体系」
20世紀後半になり、DNA(ゲノム)の解析技術の進歩により、遺伝子解析に基づいて推定された系統樹(生物の進化の道筋を描いた図)による新分類法が採用されることになりました。これがAPG体系で、この新しい分類法によって、特にユリ科、ゴマノハグサ科、ガガイモ科、スイカズラ科、カエデ科などにおいて大幅な再編が行われました。
ガガイモ科はキョウチクトウ科に
このようにして、新分類法APG体系では、従来のガガイモ科はキョウチクトウ科に含められることになりました。
新エングラー体系は、日本でも理科の教科書などで、長く親しまれてきた分類体系です。そのためか、現在でも多肉植物などを販売しているお店などでは、「ガガイモ科(キョウチクトウ科)」という併記表示が見られます。
新分類法では、「キョウチクトウ科」に統合されたため、実際「ガガイモ科」という名称は消えてしまいました。
植物の分類法はまだ過渡期でこれからも整理されていくらしいのですが、このまま「ガガイモ科」という名前が消えてなくなってしまうのも、少し寂しい気がします。
日本に自生している野草のガガイモ、切り花としても人気のあるブルースター、ハートの形をしたホヤ・カーリー、珍奇植物として紹介される機会の多いセロペギア属の多肉植物など、「ガガイモ科」に含まれていた植物は、私たちの身近に存在しています。
これまで「ガガイモ科」として親しまれてきた植物をご紹介したいと思います!
ガガイモ科の特徴
ガガイモ科(Asclepiadaceae)は、草本(そうほん:草のこと)または低木の双子葉植物で、つる性のものが多いです。特に熱帯から亜熱帯に多く分布し、温帯にも草本があります。乾燥地に生育する多肉植物や、サボテンのように葉が退化し柱状の茎だけの植物もあり、実に多彩です。
また、ガガイモ科は、双子葉植物のなかでも、精工で複雑な花を咲かせます。一見するとびっくりするほど変わった花も多いのですが、いくら見ても見飽きない珍しい形や色彩がガガイモ科の花の魅力ともなっています。
ガガイモ科の植物と昆虫の関係
ガガイモ科の花の内部には、花粉を媒介する昆虫によって塊のまま運ぶことのできる花粉塊(かふんかい:花粉のかたまり)が形成されます。ラン科植物にも似た花粉塊があります。
チョウの幼虫の中には、ガガイモ科の植物のみを食草として利用するものがあります。例えば、沖縄や台湾には、「オオゴマダラ」という日本最大と言われているチョウがいます。このチョウの幼虫は、ホウライカガミ(Parsonsia alboflavescens、蓬莱鏡)というガガイモ科の植物を食べて育ちます。
ホウライカガミには毒があるのですが、オオゴマダラの幼虫は毒に耐性があります。毒のある植物を食べて自分の体の中に取り込み、自らが毒虫となり、鳥などの天敵から身を守っています。
「ガガイモ」という名前の由来
「ガガイモ」の名の由来には諸説あります。「ガガイモ」は古名で「加々美(かがみ)」と呼ばれていました。この古名の「かがみ」に、果実の形が芋を連想させるのと、葉の形もヤマイモの葉の形に似ているので、「イモ」と付け加えられ、「カガミイモ」が「ガガイモ」に転じたとされています。
ガガイモ科の草木
身近に見ることのできる旧ガガイモ科の代表的な植物をご紹介します。
マダガスカル・ジャスミン(Stephanotis floribunda)
マダガスカル地方原産地の熱帯植物です。成長期は春と夏。マダガスカル・ジャスミンは常緑性低木なのでほぼ一年中葉が覆い茂り、花が咲かない期間でも楽しむことが出来ます。
▼マダガスカル・ジャスミンの育て方など詳細はこちら
イエライシャン(Telosma cordata、夜来香)
イエライシャンはテロスマ属で、 原産地は中国南部からインドシナ半島、インドにかけて生えています。常緑蔓性低木です。「夜来香」は中国語で「イエライシャン」と読みます。また、別名で「東京葛(トンキンカズラ)」とも呼ばれますが、 「トンキン」は日本の地名ではなく、ベトナムの北部の地名です。
夏になると薄黄色から白の花をつけます。開花すると日中でもとても良い香りがしますが、夜はさらに香りが強くなります。
オキシペタルム・カエルレウム(Tweedia caerulea、瑠璃唐綿、ルリトウワタ)
オキシペタラムは、南米原産で暑さに強く、初夏から秋まで咲き続け、暖地では戸外でも冬越し出来るほど比較的丈夫な多年草です。「ブルースター」の名前で、お花屋さんなどでもお馴染みのお花です。
▼オキシペタルム・カエルレウムの育て方など詳細はこちら
日本に自生するガガイモ
ガガイモ(Metaplexis japonica、蘿摩)
ガガイモは日当たりの良い場所、田畑の周囲や野原などに生えるツル性の多年草植物で、雑草の茂みに紛れて育っていることがあります。夏の頃には厚みがあり産毛が生えているかのような薄紫色をした星形の花を咲かせます。
秋になる頃には、長さが10cmほどのお芋のような形をした袋果(大きな袋状で紡錘型の果実)ができ、その中からは長く白い髪の毛が生えたような種が出てきます。
日本各地の野原で育つガガイモは、古事記にも登場します。
この種が入った袋果が熟して半分に割れると、お椀の舟のような形をしているのですが、古事記では国造りをしていた大国主命(おおくにぬしのみこと)を助けるために、小さい姿をした神様(少名毘古那、すくなびこな)が、このガガイモのお舟に乗って沖合いから登場します。八十神の神様の中でも、かわいらしさイチ押しの神様ではないかと思います。
この時、小さな神様が乗っていた船は、古事記の中で「羅藦船(かがみぶね)」と記載されています。ガガイモの古名「かがみ」の船という意味です。
ガガイモ科の多肉植物
ガガイモ科の多肉植物は、一度見たら忘れられないようなインパクトのある花、その個性的な姿に目を奪われます。多肉植物として扱われるガガイモ科の仲間には、サボテンに似た葉が退化したものがよく見られます。
その見た目からの想像を超えたなんとも摩訶不思議な色合いや形を持つが花が現れるのも、ガガイモ科多肉植物の魅力ではないでしょうか!? たくさん種類のあるガガイモ科の多肉植物の中からいくつかをご紹介します!
スタぺリア(Stapelia)属
スタぺリア属は、南アフリカを中心にタンザニア、ケニアなどに自生し、アジアや中南米にも分布します。50種以上の品種があります。茎は四角い棒状で葉は退化して目立ず、一見するとサボテンの類のようですが、サボテン科ではなく、旧ガガイモ科に分類されています。
スタペリア・ヒルスタ(Stapelia hirsuta、犀角)
アフリカのケープ地方原産で15cm前後の暗紫色の花を咲かせます。花には産毛がたくさん生えています。
スタペリア・ヒルスタの花のつぼみは、このような形をしています。
フェルニア(Huernia)属
フェルニア属は、 南アフリカからエチオピア、アラビア半島にかけての乾燥地帯に自生します。色の多彩な面白い花を咲かせるものが多くあります。
フェルニア・ゼブリナ(Huernia zebrina、赤鬼角)
南アフリカ原産。乾燥地帯に生えます。茎は多肉質で4稜があり、花は星形で、白色や黄色がかった地に、赤色や紫色を帯びた斑や縞模様があります。園芸名では、「あかおにかく(赤鬼角)」と呼ばれます。
フェルニア・ヒスロピー(Huernia hislopii)
赤色の水玉模様の個性的な花が咲きます。
フェルニア・ケニエンシス(Huernia keniensis、竜鐘閣)
3-4cm程度の鐘型の花が咲きます。
セロペギア(Ceropegia)属
奇妙な形で葉が出てくる姿が特徴的なセロペギア属。雑誌ブルータスの珍奇植物特集でも紹介されました。同属でも特にバリーエーションが多いのが魅力です。
セロペギア・ボッセリ(Ceropegia bosseri)
マダガスカル原産。まるで鉄骨のような多肉質の茎が特徴です。
セロペギア・シモネアエ(Ceropegia simoneae)
緑がかった多肉質の茎が四方八方に拡がり、その独特な質感が造形美を生み出しています。
セロペギア・ペチグナチー(Ceropegia petignatii)
形状の面白いセロペギア・ペチグナチー。茎だけでも十分な存在感があります。
ハートカズラ(Ceropegia woodii)
ハートカズラはセロペギア属で常緑ツル性多年草の多肉植物です。ハート型の葉がたくさん連なる姿から別名「ラブチェーン」とも呼ばれています。また、恋が実る植物とも言われているそう。夏に細長い棒状で赤紫色の花を咲かせます。
▼ハートカズラの育て方など詳細はこちら
ホヤ(Hoya)
肉厚で模様の美しい葉を持つホヤ。伸びたツルの先に咲いた花を楽しむこともできます。たくさんの品種があります。
ホヤ・カリストフィラ(Hoya callistophylla)
ボルネオ島原産。緑色の葉にはくっきりとした黒い脈模様があり、花が咲かずともその美しい見た目で楽しめます。
ホヤ・クレメンシオラム(Hoya clemensiorum)
ボルネオ島サバ州原産。クロコダイル・ホヤという別名があり、革のような厚手の葉には血管のような脈が浮き上がり、生命感を感じます。
ホヤ・スパルティオイデス(Hoya spartioides)
ボルネオ島原産。葉が退化した特徴的なホヤで、葉の代わりに棒状の花柄(かへい)を次々とつけ、その先から花を咲かせます。
ホヤ・スパルティオイデスの花。小さくても細部の精工な造りが美しい花です。
ホヤ・ムルチフローラ(Hoya multiflora)
マレーシアが原産地。流れ星のようなツボミから破魔矢のような花が咲きます。花姿から「アマノガワ(天の川)」や「シューティングスター」という別名もあります。
ホヤ・カーリー(Hoya kerrii)
1枚の葉だけを「葉挿し」したものがよく販売されていますが、つる性の茎から気根を出してほかの樹木や岩肌に絡みついて育つ植物です。東南アジアを中心に約200種の品種が存在しています。沖縄や九州にも自生し、桜色の花を咲かせるので「シャムサクララン」とも呼ばれます。
ホヤ・カーリー(シャムサクララン)の花です。
▼ホヤ・カーリーの育て方など詳細はこちら
ガガイモ科のアリ植物
植物自身の一部をアリの巣にして、アリと共生する植物を「アリ植物」と呼びます。
ガガイモ科のディスキディアの品種の中には、葉が進化した貯水嚢(ちょすいのう)も持っているものがあります。貯水嚢は根を持ち、内部は空洞になっていて水分や養分を取ることができます。この貯水嚢の内部にアリを導き入れ、アリの巣にします。
貯水嚢の根が内部に張り込み、アリが運び込んだ土や食べ残し、ふんを養分として取り込んで行くのです。
ディスキディア・ペクテノイデス(Dischidia pectenoides)
別名「フクロカズラ」や「カンガルーポケット」と呼ばれています。東南アジアからオーストラリア、太平洋諸島西部に自生しています。
自生地では、茎の節から根を出して岩や樹木に張り付いて成長する着生植物です。
赤色に近い濃いピンク色の閉鎖花(へいさか)という、花が開かないまま自家受精を行い結実する花を付けます。日本では観葉植物として親しまれています。
▼アリ植物を実際に栽培している伊藤彰洋さんへのインタビュー記事
他にも、こちらに紹介しきれなかった旧ガガイモ科の植物はたくさんあります。名称が変わっても旧ガガイモ科植物の魅力を、これからもご紹介していきたいです!
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